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2022.10.18 経緯と呼びかけ


はじめに

JP管理職残業代請求争議団と申します。JPはJapanPost、つまりは日本郵政グループ及び郵便局のことです。私たちは郵便局で働いていた管理職の方の残業代請求を支援しています。

私達が支援している管理職の方、仮にAさんとします。Aさんは大学を卒業して新卒で日本郵政グループの中核事業子会社である日本郵便株式会社に就職しました。8年間勤務し、最終役職は某大規模郵便局の集配営業部長のひとりとして退職しています。

就職後のAさんは、全国各地を転々と転勤し、試験・選考等に合格した結果郵便局、支社及び本社と順調に経歴を積み重ねてきました。しかし、その過程で過酷な業務や精神的負荷の高い業務、パワーハラスメントの被害やメンタル不調も経験します。本社の官僚機構と現場軽視の気風に嫌気が差したAさんは、かねてからの「社会の役に立ちたい、社会インフラとして働きやすい会社と職場を作りたい。」という思いを抱くようになります。

そして、Aさんは2021年の4月から、某大規模局の集配営業部長のひとりとして勤務を開始しました。

郵便局管理者としてのAさんの勤務実態

Aさんが着任した郵便局は、人員的には恵まれた比較的規模の大きい郵便局でした。局長以下管理職は20名ほどおり、Aさんはその中の最年少でした。しかし、名目は「部長」として、数十名の部下の管理と責任を背負わされる一方で、最年少であるがゆえに、ふさわしい権限や尊重、尊厳が与えられることはありませんでした。

郵便局の「部長職」から上は、郵政グループの中では残業代の出ない「管理監督者」と位置づけられます。Aさんは4月1日から「定額働かせ放題」状態に突入します。何時間残業しようが、休日出勤をしようが、毎月の給料は一切変わりませんでした。

それをいい事に、郵便局側はAさんに無制限の勤務を命じます。郵便物が行方不明、機械のトラブルなど様々な理由で深夜だろうが早朝だろうが、休みの日だろうがAさんを呼び出します。
ちょうど、社会が新型コロナウイルス感染症で大騒ぎの時期でした。毎日のように職場で発熱者、濃厚接触者及び陽性者が発生し、そのたびに報道発表、支社への報告、濃厚接触者及び要消毒箇所の特定並びに消毒の準備及び立会などで頻繁に突発的対応にAさんが入るようになりました。

少しでも返信が遅れたり、参集できなかったりすると、他の管理者や部下である一般社員の前で詰問されます。
あるとき、休みの日に、Aさんが家族の送迎のため車の運転をしており、上司からのLINEの返信が40分後になったことがありました。40分後に返信すると「遅い」「携帯を見ていないのか」、「管理職としての自覚がない」などとAさんを他の管理職のみているLINEグループ内で詰問し、そのペナルティとして業務を追加する、ということが行われました。

家族にトラブルがあったときも同じでした。ある日Aさんの家族が家で倒れ、救急搬送されたことがありました。結果、1週間近く入院が必要になったのですが、その際言われたのが「最大限の出勤の努力をせよ」「今日の休暇は承認するが、明日以降はまだ承認しない」でした。

Aさんには生まれたばかりの子どもがおり、Aさん自身にも持病がありましたが、育児や体調などは一切考慮されませんでした。起きている子どもの顔を見ることはできず、仕事のため、育児の負担は家族に押し付ける日々が続きました。

職場からの連絡の恐怖から、Aさんは就寝中だろうが、休日だろうがスマートフォンを手放せない状況になり、休みの日でも一時も気が休まることはありませんでした。

Aさんの時間外労働は過労死ラインを超え、年間700時間ペースで行われていました。しかし、Aさんが申し出るまで健康管理措置や産業医との面談なども行われず、超過勤務を軽減する措置も取られませんでした。Aさんは心身の健康を損ね、職場で倒れたりといった状態に陥りました。

郵便局は、Aさんが体調を崩しても、コロナウイルス感染症を疑われるような呼吸器症状のある感冒症状で休暇を申し出た場合でも、無関係に勤務を命令しました。

このような非人道的な勤務の結果として、Aさんは退職を決意しました。

郵便局の勤務体制の違法性について

郵便局が、Aさんに対してこのような働き方を強いたのは、Aさんが残業代の支払い対象外である管理職だったからです。労働組合員であり残業代支払義務のある社員に対しては通常このようなことが認められることはありません。

郵便局は、Aさんを「管理監督者」として扱っていました。管理監督者とは労働基準法第41条第2項に規定がありますが、管理または監督の地位にある労働者には労働時間の規制が及ばず時間外労働に対する賃金である残業代も払わなくて良いというものです。

しかし、管理監督者として認められるためには法律上

  1. 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有し、重要な責任と権限を有していること(職務の重要性、責任と権限)

  2. 現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること、労働時間の管理を受けていないこと(勤務時間の裁量性)

  3. ふさわしい待遇を受けていること。(待遇)

という要件をすべて充足している必要があります。(*1) この要件が欠けていれば、法律上管理監督者とは認められず、会社のルールに関わらず残業代の支払義務があります。
Aさんについて見てみると、管理職として業務上の責任はありますが「労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない」というような事情はありません。交代要員の確保などで対応できる業務が大半であり、法律の規制の枠を無視して働かせる必然性など一切ありませんでした。

また、Aさんは部長とはいいながら、アルバイトの採用権限、部下の懲戒処分の権限、部下の超過勤務の命令権限、部下の人事評価の権限などの管理職としての権限は一切ありませんでした。Aさんができたのは、部下の状況を上司に報告し上司の判断を仰ぐことだけであり、Aさんの意見は往々にして上司に覆され、単独の裁量で判断できることはほとんどありませんでした。

勤務時間も、出社退社をタイムカード(出退勤管理システムと呼ばれる電子タイムカード)で管理され、早退や遅刻は年次有給休暇の取得か給与の欠勤控除(欠勤の場合は人事処分の対象)の対象となりました。

Aさんは、月7万9千円の管理職手当を受け取っていましたが、これに対して月の残業は80時間を超えており、時間外労働に関して言えば郵便局のアルバイトの時給を下回り、最低賃金すら下回っていました。

以上の点から、郵便局の管理職の勤務実態は管理監督者としての法的要件を全く満たしておらず違法としか言えません。

違法な状況を是正し、家族や健康を犠牲にした分の賃金を受け取りたい。同じように働いている郵便局の管理職のために会社を変えたい。その思いから争議を決意しました。

今後の見通しと支援のお願い

現在、管轄の労働基準監督署に賃金未払いの労働基準法違反として申告を行っており、すでに労働基準法違反として是正勧告が出ています。
これに従わなかった場合、訴訟を予定しています。

また、すでに郵便局との任意交渉や証拠収集、資料整理や弁護士費用などで多額の費用がかかっています。

この争議は、郵政の管理職全体、ひいては郵政の全労働者の働き方に関わる重大なものです。個人の利益を超え、公共的な意義も大きいことから、これまでの費用と今後の訴訟になった場合の訴訟費用について、ご支援をお願いしたいと考えています。

寄付の受付はこちらを御覧ください。


最後に

働いた人が働いただけの報いを受けるのは当然のことです。金で時間は買えませんから、長時間の労働により失った人生の時間、家族との時間や健康は金銭をもらっても解決することはありませんが、少しでも経済的な補填をし、それに報いようとするのが残業代だと思います。
法律の制度を悪用し、拡大解釈し、使い捨てかつ使いホーダイの労働力として社員を使い潰すようなやり方を個人としても、社会としても認めるわけにはいきません。
郵便局・日本郵便が正当な支払いを行い、このようなおかしなやり方を変えるまで、裁判などで闘っていきます。

参考資料

(*1)「労働基準法における 管理監督者の範囲の適正化 のために」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf


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