海外調査vol.01 :文化創造産業の法規制編
本調査シリーズでは、自国の映画界活性化に向けて、各国が実施する取り組みや法案などを調査していく。
第一弾は、多国籍ストリーミングサービス事業者(NetflixやAmazonなど)に対し、財政的貢献を義務化する法案や取り組みの初期調査を実施。
日本映画界における共助の仕組みが議論される昨今、参考資料として活用いただけますと幸いです。
どういった取り組みか?
欧州では、NetflixやAmazon Primeなどを始めとした多国籍ストリーミング事業者に、国内映画産業への財政的な貢献を法律で義務付けている。
もし日本で法整備が整うと・・・
仮に、2021年のNetflix日本国内売上約720億円に対し、3%が映画界に還元されると・・・
Netflixだけで21.3億円が、映画の上映・環境整備・製作支援などに充てられる計算になります。Amazon・Disney+・Apple TV+など、他の多国籍ストリーミング事業者による財政的貢献も合わせれば、巨額の予算が捻出される可能性があります。
多国籍ストリーミング事業者に流れてしまう映画収益が、国内の映画産業へ資金循環することで、国内映画の製作・上映が衰退することを防ぎうる
日本の作り手を支え発掘するミニシアター・映画祭、映画製作現場の環境改善などに資金循環されることで、魅力的な映画が提供され続け、映画産業に持続可能性が生まれ得る
ミニシアターの閉館が相次ぎ、焼け野原になってしまう前に、立法の観点から日本政府・市民社会・映画業界で持続可能な映画界の仕組みを検討する必要があるのではないか。
なぜ欧州各国は実施するのか?
資本の豊かなアメリカの文化創造産業を仮想敵として、自国文化を守るために作られた制度という性格が強い。
EUによって、「視聴覚メディアサービス指令(以下AVMSD)」が2018年に改正され、多国籍ストリーミング事業者やyoutubeなどの法的規制が盛り込まれた。自国文化を守るため、法律規制が存在しているため、事業者は支払いに応じざるを得ない。
ユネスコ「文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約(文化多様性条約)」の効力
2005年、国際総合教育科学文化機関(UNESCO)総会にて採択され、2023年時点で152カ国及び機関が批准している。この条約が「多国籍ストリーミングサービス事業者に国内映画産業への財政的な貢献を義務付ける法律」にも影響している。
しかし、この条約に日本は、いまだに批准していない。
▼UNESCO「Investing in Creativity (創造性への投資)」(2018年)日本語版
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000265550_jpn
▼批准国による条約実施状況定期報告をまとめたUNESCOの最新グローバル報告書「RE/SHAPING POLICIES FOR CREATIVITY Addressing culture as a global public good」(2022年)英語版https://www.unesco.org/reports/reshaping-creativity/2022/en
(日本語版「創造性のための政策の再/形成:グローバルな公共財としての文化(仮訳)」は2023年春以降、公表予定)
この条約に日本政府が批准すれば、批准国が取り組む下記の課題解決が促進される。
労働環境改善
ジェンダー格差改善
文化的表現の多様性
国境を越えた協力
持続可能な開発
民間セクターや市民社会も巻き込んで、映画界で持続可能な共助の仕組みを創出する上では、法規制が必要である。実現に向け、市民・映画関係者・メディアが、文化多様性条約の必要性を理解し、批准を訴えていくべきでなかろうか。
この条約を巡っては、国内の文化を守るということが保護主義につながるのではないかと懸念されていた。背景として、1920年代に米国のハリウッド映画の輸出が勢いを増す状況にカナダやフランス等欧米諸国が危機感を抱き、自国の映画産業保護に動いたことから、文化を巡る自由貿易の問題に向けた議論が条約の成立につながったためだ。
同条約は、文化的表現の多様性を保護、促進することを目的として作られた。しかし、その射程と効果は通商に留まらない。批准国は、条約と連動した関連政策調整・立案・実施が期待され、その状況を4年ごとにUNESCOに報告しなければならない。報告で問われるモニタリングの対象領域は、文化創造産業、メディアの多様性、デジタル化及びデジタル環境整備、市民社会との連携、芸術家や文化従事者のモビリティ(移動)、文化的産品やサービスの流通、ジェンダー平等や表現の自由、芸術家の地位の向上など、多岐に渡り、モニタリングプロセスには、政府のみならず市民社会団体も参画する。現場が担う文化従事者や芸術家、観客・消費者を含む、社会を担うあらゆるステークホルダーが様々な視点から共に文化について考え議論することは、文化の土壌の豊穣につながる。
日本は、保護主義への懸念を理由にこの条約の批准を見送ってきたと言われている。だが、2015年独立行政法人産業研究所が実施した調査では「文化多様性条約が締約国の文化的財の輸入を減少させた証拠は見いだせなかった」と報告している。また、2020年の弁護士知財ネットの論考「『文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約』について」も、「日本としては、同条約を早期に批准し、日本のコンテンツ政策に活用することが期待される。」と結ぶ。
この条約はUNESCOの文化に関わる様々な条約の中でも最も包括的であり、文化政策のみならず文化に関連する様々な政策や文化創造産業の保護及び促進、また基本的人権の尊重や持続可能な開発目標(SDGs)に向けた取り組みなどとも連動する。近年、アジアでも批准する国が増えている。日本も批准に向けた議論の醸成が望まれる。
調査協力:坪井ひろ子(ユネスコ文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約 エキスパートファシリティメンバー)
レポート資料原文
▼UNESCO「文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約(文化多様性条約)」概要
日本語版は下記リンクより
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000265550_jpn
▼多国籍ストリーミング事業者への法規制
企画・構成・文章作成:歌川達人(JFP) / 調査協力:西山葉子
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