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「性別二元論の調査の先に見据えるもの」JFP調査寄稿文:植松侑子

「日本演劇領域におけるジェンダー調査2023冬」の発表に合わせ、植松侑子さんから寄稿文を頂きました。

植松侑子 NPO 法人Explat 理事長、合同会社syuz'gen 代表社員

お茶の水女子大学 文教育学部 芸術・表現行動学科舞踊教育学コース
卒業。在学中より複数のダンス公演に制作アシスタントとして参加。卒
業後はダンスカンパニー制作、一般企業での勤務、海外放浪を経て、
2008年からフェスティバル/トーキョー制作。2012年からは1年間韓国・
ソウルに留学。帰国後はフリーランスの制作としてさまざまな劇場・組織・
劇団と協働。2015年6月~舞台芸術のアートマネジメント専門職に向
けた人材育成と雇用環境整備のための中間支援組織「特定非営利活動
法人Explat」理事長。2016年7月~合同会社syuz’gen代表社員。

 「日本パフォーミングアーツ領域におけるジェンダー調査」の数字を見て、私自身が現場に入っている肌感覚としても「演出」「制作」「製作・企画プロデュース」に関してはこの数字と実際の現場はそれほどズレていないのではないかと感じた。一方「照明」「舞台監督」に関しては、実際は、この数字よりも女性比率は多いのではないか? ということが最初に感じたことであった。

 今回の調査に含まれていないポジションも含めて、舞台監督、音響、照明、舞台美術などのテクニカルスタッフにおける女性の割合は年々増えていると感じる。特に若手のスタッフに関しては、女性の割合は非常に高くなっている。実際に舞台技術の会社の方と話していても、そもそも舞台技術を専攻する大学や専門学校における学生の女性比率が高くなっており、当然そこから就職してくるスタッフも女性割合が高くなるということであった。
 その結果、舞台技術系の会社においては、構成メンバーとして、年配の男性スタッフと、若い女性スタッフの割合が高くなっており、ハラスメント対策が喫緊の課題だという話も聞いたことがある。

 今回の調査手法としては「演劇年鑑2023」をもとにしているが、紙幅に限りのある紙媒体だと、どうしても主要スタッフ以外が掲載されないということにアーカイブとしての限界はある。舞台芸術業界の実情を反映していく重要な記録であるからこそ、やはりデジタルデータとしてのアーカイブに移行していく必要性も強く感じる。

 また、名前でジェンダーを判断するという手法にも課題はあるわけだが、そもそも男性・女性の二元論での調査によって何を目指すのか? という視点も重要である。「ジェンダーギャップ指数2023」において、日本は過去最低の125位に後退した。経済分野は123位であったが「労働参加率の男女比は75.9%(81位)で、同一労働における男女の賃金格差は62.1%(75位)、推定勤労所得の男女比は57.7%(100位)、管理的職業従事者の男女比は14.8%(133位)となっている。」1) つまり、単純に男女比のみを同じにするだけでは真のジェンダーバランスは見えず、様々な指標から見ていく必要がある。舞台芸術業界においては様々な働き方の人を対象に、包括的に、こういった指標で調査したものはまだ無いのではないかと考える。

 とはいえ、今回の「日本パフォーミングアーツ領域におけるジェンダー調査」のような調査によって、まずは現状がどうなっているかを可視化するところからはじめることは重要だ。そして、こういった調査を活用しながら、現状で存在する様々な差別的な構造、あるいはジェンダー・ステレオタイプの解消などをはかり、そして最終的には男女二元論を超え、ジェンダーフリーに、それぞれの多様な個人として、差別やハラスメントや不平等などがなく働ける環境を目指していくべきだと考えている。

 そのためにも、こういった調査で現状を可視化しようとする動きがあることに励まされ、自分も自分の立場でできることを実直にやっていこうと改めて思うのであった。

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。


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