中国人ビジネスマンはなぜ名刺を交換しないのか
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中国人ビジネスマンはなぜ名刺を交換しないのか

日中探検隊

2000年代の中国、WTO加盟後の急成長の時代を現地で過ごした方なら懐かしく思い出されるかもしれませんが、中国人は名刺交換をあまりしません。その傾向は経済成長により大都市を中心として海外資本が入ってくるに従って一旦は薄れ、名刺を当たり前のように持つ人が増えましたがここ最近は再び名刺を交換しない人が増えているようです。

背景にはWeChatなどのツールが普及したことなどインターネット技術によるところもありますが、根底には中国人のビジネス、プライベートにおける人と組織についての考え方、もっと言えば人生についての考え方があるようです。

チームメンバーがコロナの中で中国に一時帰国した際に感じたことから考察を進めていきます。

名刺交換をしない中国人が再び戻ってきた

要約でも書きましたが以前の中国人には名刺交換という概念がありませんでした。それが経済成長とともに海外から名刺交換の所作が持ち込まれ、特にビジネスにおいては初対面の相手とは最初に名刺を取り交わすことが増えました。しかし、我々チームメンバーの一人が中国に一時帰国した際にビジネスの現場において名刺を取り交わすことがほとんどなく、彼は中国人であるにも関わらず名刺を出したことによって相手の中国人に驚かれたということでした。

名刺の代わりにWeChatが台頭

今では名刺の代わりにWeChat(微信)のIDを交換することが普通のようです。それはプライベートだけでなくビジネスにおいても、です。対面後に発生する案件に関するコミュニケーションや資料のやり取りも含めてメールは一切使われずにWeChatでやり取りをするのです。日本でビジネスにおいてLINEでやり取りを完結してしまうことを想像していただければと思います。もちろん日本でもベンチャーなどではSlack等を含めたインターネットをベースにしたツールを利用していることもあるかと思いますが、中国ではそれが大企業や巨大財閥等も含めて一様に発生しているのです。

圧倒的なコミュニケーションの速度

WeChatはLINEと同様に非同期のメッセージツールです。メールのように体裁をあまり考えることなく短い文章を気軽にやり取りする敷居の低さがあります。ですからメールと比べて圧倒的にコミュニケーションのスピードが速いことが特徴です。ビジネスでもプライベートでも同じです。直感的な話になって恐縮ですが日本でLINEやSlack等のやり取りのスピードとは比べられないくらいに速いのが中国におけるコミュニケーションの速度です。

WeChatが互いの信用を担保する

WeChatには”Moments(朋友圏)”という友達限定で見ることができるタイムラインがあります。WeChat上で繋がった人を相手に主にプライベートで起こったことを画像や動画でアップしたり、興味・関心のある話題についての記事をシェアしたりすることができます。この機能がビジネスの現場において、初対面の相手のポストを見ることによって興味や関心、考え方や行動力などを類推するために使われているのです。

日本では初対面の相手をSNS上で探し、相手のポストを確認することによってビジネスに活かしていくということをしている方はほとんどいないのではないでしょうか。

組織の前に個人

上述したことから何が考察できるでしょうか。日本人との比較において最も大きいのは、中国人にとっては組織よりも個人が思考や行動の大前提となるということです。中国人がビジネスにおいてWeChatのMomentsでアップするプライベートの内容で相手を知ることは、日本人が名刺に書いてある会社等の組織名や職位によって相手をしることとは対極的です。中国では公私の区別が日本よりも圧倒的に少ないということが分かります。だからこそ個人対個人の関係の中で敷居の低いコミュニケーションを高速でやり取りすることができるのです。

究極の商品としての個人と手段としての会社・組織の対等な関係

中国では究極の商品は個人です。会社の名前に頼るのではなく、個人が市場の中でどのくらい価値があるのかについて徹底的に努力します。そのために会社や組織を手段として活用するのです。日本では綺麗事として受け止められそうな正論が中国では当たり前のように機能しています。

その意味で中国では顧客は会社や組織ではなく個人につきます。個人がライバル会社に転職すればその個人に紐付いた顧客もライバル会社の商品やサービスを利用するようになります。ですから会社は「できる個人」に対してその会社・組織に留まってもらえるように最大限の努力をします。最も分かりやすいところでは、業界平均や社内の基準を越えたボーナスの付与などは当たり前のように行われます。

また、個人が転職したとしても前の会社・組織との関係は敵対関係にはなりません。会社・組織側がそう考えるのは前述した論理が働くとして、個人についても彼・彼女が商品として能力を活かそうと思えば、同じ業界でかつての企業と何らかの関係を持つ可能性は低くありません。だからこそ、前の会社・組織との関係を良好に保つ力学が自然に働くのです。

もたらされる影の部分

一方、こういった文化・価値観がもたらす弊害や課題もあります。個人と会社・組織との良好な関係は、その個人が商品として優秀であるということが前提になります。そうではない人の収入は40歳になっても新卒の時点と比べてほとんど上がることはありません。また優秀な個人についてもより一層商品価値を高めようと努力し続けることにより過労に陥り、個人の身体や家庭環境に悪い影響を及ぼすことも少なくありません。中国の”中”という字は”中庸”に由来があると言われていますが、バランスを保つことこそが今の中国社会に求められている最も大きな課題と言えるのかもしれません。

日本に生きる個人にとっての示唆

中国社会における名刺交換文化の変遷からその背景を考察してきましたがいかがでしたでしょうか。日本人は個人の前に会社・組織があり、故に個人がその商品価値を上げていこうとする動機づけが弱いということに読み替えられます。会社や組織が最終的にセーフティネットになるという意味で日本的な文化・価値観が良い部分もあります。しかし、日本経済が停滞する中で会社や組織にそこまでの包容力がなくなってきているのも事実です。今一度前提を疑ってみることも大事なのではないでしょうか。

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既存メディアのヌルい切り口と分析に嫌気がさしている戦略コンサルタント、投資銀行家、マーケティングスペシャリストの3名からなる冒険活劇。ヒヤヒヤしますね