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タオバオパートナー”宝尊(Baozun)”のビジネス進化・変革から日本企業の課題解決のヒントを得る

ビジネスで中国で関わっている皆さまは”タオバオパートナー(Taobao Partner:以下TP)”という言葉をご存知でしょうか。

中国に住む中国人に対してオンラインで日本の商品を販売する際に、中国国内ECや越境ECを活用することになりますが、その際に重要となるのが阿里巴巴(Alibaba)グループが提供する天猫(T-Mall)や淘宝網(Taobao)などのプラットフォームです。その際にマーケティング戦略の立案・実行や運用を第三者として請け負ってくれるのがTPです。

中国で急速に存在感を増し、日本企業にとっても名前を目にしたりビジネスで絡むことが多くなってきたTPですが、足下で競争が激化し事業環境が悪化、ビジネスモデルの進化・変革を進めています。そしてその変革は日本企業にとって長年突きつけられてきた深い課題である「ノンコア事業のアウトソース」についての一つの示唆と捉えることができます。トッププレーヤーである宝尊(Baozun)の動きを紹介しながらお伝えしていきます。

中国に住む人々の巨大な消費意欲に後押しされて急成長してきたTP

TPというプレーヤーたちは中国の経済成長とともに急速に拡大してきた内需、さらに言えば中国に住む中国人生活者たちの旺盛な消費意欲に支えられてきました。貪欲に新しいモノやスタイルを追求する彼・彼女たちは国内ブランドには飽き足りず、海外ブランドを積極的に求めます。それに応えるかたちで海外ブランド側も中国人需要の取り込みに向けて、ブランディング、マーケティング、そしてセールスへと世界中のプレーヤーと激しい競争を繰り広げてきました。

この動きを下支えしたのが阿里巴巴グループが提供するECプラットフォームと物流網です。物流革命によって、欲しいモノを欲しいタイミングで簡単に購入することができ、かつ返品も含めてかつての中国では想像できなかった高いアフターサービスを含めた顧客体験を手に入れることができるようになったのです。

企業が阿里巴巴のプラットフォーム上で顧客体験を提供する際、日々の運用を第三者として引き受けてきたのがTPです。ブランドや商品についての情報を更新したり、商品自体の決済、アフターサービス等を含めてクライアント企業から委託された業務を実行して運用フィーとしての対価を得るビジネスモデルです。阿里巴巴から始まったTPは現在、京東(JD)や小紅書(RED)などの他社グループのプラットフォームにもサービス提供するようになり、発展してきました。

TPにおけるトッププレーヤーの”宝尊”とは?

次第にTPは日々の運用で得た経験の蓄積から企業にブランディングやマーケティング・コミュニケーション、セールス全般についての戦略的アドバイスを行うようになりました。中国に住む生活者の嗜好を熟知するプレーヤーからのアドバイスは企業にとっても有益です。この流れの中で急成長しトッププレーヤーに躍り出たのが2005年に設立された宝尊です(2015年にナスダック上場、2020年には香港市場にも上場)。

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阿里巴巴の資本が入っている宝尊は越境ECの”天猫”や国内ECの"淘宝網”のデータについて競合他社よりも多様に入手ができているという話もあるようです。日々の運用業務の受託から顧客体験ビッグデータに基づいたブランド・マーケティング戦略についてのコンサルティング業務まで業容を拡大してきたというわけです。

トッププレーヤー宝尊が足下で晒される競争激化の波

中国ビジネスの恐ろしいところは後発参入プレーヤーの猛烈な追走による競争激化のスピードの速さです。

日々の運用業務受託はもちろんのこと、上述した分野における戦略コンサルティングについても”蒼碧”などの後発プレーヤーが猛追した結果TP業界は差別化が難しくなってきており、クライアント企業に請求する運用フィーを削らなければコンペに勝てないという状況が当たり前のようになりました。収益機会を獲得するために自らの収益を犠牲にすることは歯止めを利かないため、TPにとってはそこからいち早く抜け出す必要が出てきました。

トッププレーヤーとして先行者利益を失いつつある宝尊が率先して業容の進化・変革に乗り出していくのは当然のことでしょう。

宝尊が目指す進化・変革とは?

川上と川下への業容拡大です。川上は投資を意味します。今までの運用やコンサルティングにもとづくリスクの低いフィービジネスから、自らリスクをとってビジネスに当事者として関わっていくことを一つの大きな柱として掲げています。日本企業から声がかかるのを待つのではなく、自ら案件を発見、創出してリスクを評価し、将来の収益機会にかけるということです。

川下は物流です。倉庫を含めた物流も含めてクライアント企業にサービスを提供することにより収益機会の拡大を狙います。中国ビジネスにおいてクライアント企業を悩ませるのは、その広大な国土を相手にすることによる物流業務の煩雑さです。もちろん阿里巴巴グループのプラットフォームが提供する倉庫を含めた物流支援サービスを利用するのですが、日々の業務については煩雑であることに変わりはありません。クライアント企業のノンコア業務を取り込んでいくことを意味します。

変革の根底にあるのはビジネスにおける自他のコア・ノンコア意識

自社のビジネスのコア・ノンコアはクライアント企業にとってのコア・ノンコアの裏返しです。宝尊が倉庫・物流に業容を拡大するということは、クライアント企業が当該業務についてアウトソースしてくれるはずだという目論見が根底にあります。その意味で中国で戦う海外企業はコア・ノンコア業務についての選択と集中、結果としてのアウトソースを積極的に進めているということでしょう。

ノンコアも含めて全てを持ちが足る日本企業

では当然ながらその流れの中で戦うことになる日本企業はどうでしょうか?我々チームの中でこの話題について議論をした際、日本企業は価値提供においてその一連の提供業務について全てを持ちたがり過ぎているのではないか、という要点を得ました。

実はこの議論、バブル崩壊から30年以上繰り返されているのです。我々チームの推論ですが、日本企業にとって日本国内での競争原理と中国を含めた海外市場の競争原理とが大きくことなることが、この議論について明確な答えを示せずに今に至る状況をつくり出していると考えます。

今回細かい考察を示すことはしませんが、日本市場では経済合理性ではない部分でビジネスが評価されています。価値提供における全ての業務を自前で持つことに対して、一例ではありますが労使の雇用関係などの経済合理性ではない判断基準が足かせになっていることでノンコア業務自体を定義することがタブーになっているのでしょう。

中国を含めた海外で先にアウトソーシングを展開し逆輸入することを真剣に考えるべき時期ではないか?

日本特有の環境が足かせになっているのであれば、日本ではない地域で先行的な取り組みを行い、それを日本国内に持ち帰るということをそろそろトライしても良いのではないでしょうか。

中国には宝尊のようなアウトソーサーは数多く存在しています。販売業務や物流・倉庫業務については彼らに一任してしまう。そのための日本とは異なる戦略、組織づくりを進めてみる。日本のモデルをそのまま持ち込むのではなく、中国でプロトタイプをつくる。結果として逆輸入が難しければしなければ良いだけの話ですし、もちろんできることに越したことはありません。

我々チームの中国人メンバーの意見では宝尊のモデルは日本の5年先を行っているという感覚です。

中国でTPを単なるパートナーとして見るのではなく、ビジネスモデル変革の先行事例として捉えることで、日本国内の課題にたいする新たな発見があるかもしれません。

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