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中国の小売の進化から見る”体験価値”についての考え方の違い

探検隊メンバーの1人が中国ではオフラインチャネルの価値がますます高まっているのに対し、日本は百貨店も含めてリアル店舗を閉めている印象があるという話をしました。客観的に考えて、生活者の成熟度の違いなどを考えると単純に比較はできないのですが、よくよく話を聞いていくと、中国人と日本人にとっての”体験”に対する価値の概念・定義が違うということがこのテーマの本質であることが分かりました。今回は中国における小売店舗についての大きな流れについて触れつつ、体験価値についての両国の差異について分析し、日本にとっての商機に繋げていきます。

ジャック・マーがアリババによって中国にもたらしたリテール2.0

2000年代までの中国を経験した方ならお分かりいただけると想いますが、何かモノを買おうとする場合は必ず店舗等のリアル接点に行く必要がありました。また、物流についても量・質の観点から整備されておらず、北京市や上海市などの大都会と内陸部の都市では店舗に並ぶブランドや品物、更には価格についても大きな差がありました。

この時代をリテール1.0とするならば、その不合理や矛盾に目をつけたのがアリババグループ(阿里巴巴、Alibaba)の創業者であるジャック・マーでした。彼はIT技術をフル活用してインターネット上で生活者が商品を確認し、選び、購入(決済)し、アフターサービスを受けるところまで完結させ、かつ物流・配送センターを整備しました。それにより生活者は家の外に出ることなく、世界中の様々なブランドの、あらゆる商品をスマホ上でストレスなく手に入れることができるようになりました。また、その体験についての地域差はほとんどなくなりました。アリババが中国にもたらした革命、リテール2.0です。

”オフライン型の体験”への回帰に見られるリテール3.0の本質

一方、足下ではオフラインへの回帰が進んでいます。ショッピングモールでは”ショーウィンドー”としての位置づけで、非常に高い都市部での家賃に目をつぶってのブランド側の出店が続きました。また、ショッピングモール側も単純にモノを売るための施設ではなく、変わった体験や、遊びの要素を取り入れた形態の開発・展開を進めています。例えば、三井不動産が上海市の金橋に開発したモールである”ららぽーと”には海外初のガンダム立像やVR技術を活用した広場を含めて遊びの体験がふんだんに盛り込まれています。

訪れた人々は喜んで写真や動画を撮り、WeChatの”Moments”と呼ばれるタイムラインやSNSであるRED(小紅書), Tiktokなどにアップしたり、その場でライブ中継するなどします。リアルな体験がシェアされることにより店舗側は新規顧客獲得ができ、サービス改善を行うことで顧客のリピートに繋がります。結果的にはみんなハッピーになるのです。これがリテール3.0の核心であるO2Oの本質です。

中国人と日本人における体験に求める価値の違い

こういった流れは中国が特殊なのではなく、世界でも日本でも起こってきたこととして普遍的に説明することができます。ではその本質は何なのでしょうか。

それは体験を良化させていくということについての考え方と速度です。中国と日本では体験に求める価値が異なります。また、体験を広げていくことについて競争相手との関係性が異なります。

探検隊の中国人メンバーは、日本の百貨店等で靴を購入する際に箱を捨てるそうです。家に帰っても結局捨てることになるので店舗スタッフに申し出るのですが、あまり良い顔をされたことがないそうです。また、様々な店舗でスタッフからなされる説明は型どおりのもので、本当に自分のことを考えてくれているのか分からないことがあるそうです。店舗とは異なりますが、住宅を購入する際に重要事項説明書をこちらが理解しているのかどうか分からない状態で延々と説明される時間について、本当に意味があるのかと疑問を感じています。

日本人は体験における”手続きが行われているかどうか”について重視し、”その量が多ければ多いほど良い”という考え方で、それが”礼儀”や”おもてなし”になっているのではないか、と分析します。

一方で、中国人は手続きは簡単で短ければ良いという考え方です。正確に言えば、自分にとってありがたい価値に到達するまでのプロセスをできるだけ簡素化して、生産性を最大化して欲しい、と考えます。ですから、日本の体験提供について戸惑うのです。

高度経済成長期、日本は広い意味での生産性を向上させることによって世界第二位の経済大国にまで上り詰めました。その世代にとって見れば、中国人の方が生産性に対して厳しいという意見について否定的に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、中国人は仕事にプライベートに猛烈に忙しいのです。都市部では”/青年”という言葉が流行っています。”/”は副業を持つことを意味します。効率的に仕事をして、プライベートの時間も充実させたい、そういう思いを強く持っています。

競合でパイを奪い合うのではなく、協業でパイを大きくする

メンバーはこうも言います。日本では同業他社は完全な敵であり手を組むことなど考えられないが、中国ではコラボしたり、場合によっては相手に便宜を図ることもある、と。実際、中国では同業他社同士でキャンペーンを開催したり、訪れた顧客に対してライバル店をあえて紹介することもあります。コーヒーショップに来たお客さんに、ライバル店では異なる豆の味が楽しめるよ、と勧めたりするのです。

同業他社と小さなサイズのパイを奪い合うことよりも、パイのサイズ自体を大きくしていくことを重視します。巨大な人口を抱える成長市場であるからこそできることなのかもしれませんが、体験を享受する客の立場になってみれば体験の質は上がるという点で良いことと言えるでしょう。

日本企業、日本人にとっての示唆

生活者が求める体験を再定義してはいかがでしょうか。型通りに手続きを踏襲することも悪いことではありません。ここで重要なのは、どちらが正しいということではありません。日本にも中国にも様々な考え方、競争の仕方がありますが、本質は生活者が何を体験に求めているのかを常に深く観察・分析し、自社の強みと照らし合わせて、提供の内容ややり方を適切にしていくことなのではないでしょうか。

また、探検隊メンバーは”個々の体験は悪くない印象を受けたが、個々の体験をどうすれば世の中に知らせることは工夫が必要ではないか”と言います。現場力には定評のある日本人にとって末端の提供部分の適切化は得意分野、課題は上流部分。企業の内側の目線や立場ではなく、相手の立場に立つという原点に立ち返ることを、中国企業や中国人から示されているのではないでしょうか。

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