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初心者でも楽しめる! パラサイクリングの見どころ紹介!!

7月26日にパリオリンピックが開幕し、歴史に残るような熱戦が繰り広げられました。選手の活躍が気になって寝不足・・・という方も多かったかもしれませんが、8月28日からは、いよいよ「パリ2024パラリンピック競技大会」が開幕します!

私たち日本パラサイクリング連盟も、パラサイクリング日本代表チームとしてパリパラリンピックに臨みます。まもなくスタートするパラリンピックを前に、今回は、パリパラ特別企画「初心者でも楽しめる! パラサイクリングの見どころ紹介」をお送りします! 


このnoteでは、文章で紹介していますが、動画版もあります! 文章にまとめきれないパラサイクリングの見どころを、日本パラサイクリング連盟の権丈さん、寺澤さんに伺っていますので、ぜひこちらもご覧ください!

動画では権丈さんが丁寧に解説してくれています!

パリ2024パラリンピック競技大会の戦いの舞台

自転車競技は大きく分けると、「トラック種目」「ロード種目」に分けられます。トラックは競輪場のような施設の中で勝負する種目。これに対してロードは一般の車道に出てレースを行う種目です。トラックとロードで会場が異なりますので、まずはその会場と日程を紹介していきます。

トラック種目

日程:8月29日〜9月1日
会場:ヴェロドローム・ド・サン・カンタン・アン・イヴリーヌ

トラック競技会場は、パリ近郊の都市サン=カンタン=アン=イヴリーヌにあるヴェロドローム・ド・サン・カンタン・アン・イヴリーヌ。「ヴェロドローム」というのはフランス語で「自転車(velo)競技場(drome)」を表す言葉で、特にこのヴェロドロームは世界最高峰の設備を備えた競技場として知られています。

ちなみに、2022年にはトラック世界選手権が開催され、日本選手が好成績を収めるなど日本選手との相性がいい会場としても知られています。今回も期待大です! 会場の紹介ムービーも掲載しておきますのでご覧ください。

ロード種目

日程:9月4日〜9月7日
会場:クリシー=ス=ボワ

ロード種目の舞台となるのは、パリ郊外のクリシー=ス=ボワという町。通常、試合前に選手たちがコースを下見し、コーナーリングのポイントを押さえたり、補給やスピード調整をどう行うかを考えて本番に備えます。本番ではなにが起きるかわかりません。当日、走りながらアジャストしていく力も求められそうです。

念願の大舞台に立つ5人の選手

さあ続いては、出場選手の紹介です。

今回は、パラリンピック初出場の選手から、複数回の連続出場を果たしたベテラン選手まで5人が選ばれています。選手の名の後ろに、アルファベットと数字で組み合わされた記号と、出場する種目名が書かれていますが、この意味は後ほど詳しく解説しますので、まずはこちら、5名の選手の名前をぜひ覚えてください。

買えない手土産を持って帰りたいと意気込む杉浦選手

杉浦 佳子選手(WC3)

出場種目:

  • トラック:3000m個人パシュート(C1-3)、500mタイムトライアル(C1-3) 

  • ロード:個人タイムトライアル(C2)、ロードレース(C1-3)

パラサイクリング界の女王、杉浦佳子(すぎうら・けいこ)選手。もともと自転車競技の選手でしたが、2016年のロードレースで落車。脳挫傷、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨・鎖骨・肋骨・肩甲骨を粉砕骨折、三半規管損傷という深刻な怪我を負いました。医師から「治らない」と言われた容態は乗り切ったものの、記憶力などが低下する高次脳機能障害、右半身のまひが残りました。

リハビリのために再び自転車に乗り始めると、奇跡的な回復を遂げ、知人の勧めもあって事故の翌年2017年からパラサイクリング選手として本格的に競技に参戦。初めて参加したワールドカップで3位、世界選手権でも優勝を果たします。その後も国際大会でトップの成績を残し続け、東京2020パラリンピック競技大会では2つの金メダルを獲得しました。トライアスロンで鍛えた持久力が武器。小柄ながらガッツあふれる女王の走りに注目です。

東京大会での屈辱を果たすべく、金メダル獲得を目指す川本選手

川本 翔大選手(MC2)

出場種目

  • トラック:3000m個人パシュート(C2)、1000mタイムトライアル(C1-3)

  • ロード:個人タイムトライアル(C2)、ロードレース(C1-3)

期待のエース、川本翔大(かわもと・しょうた)選手。病気のため生後2か月で左足を付け根から切断するという経験をしましたが、物心ついたときからスポーツ少年として育ち、さまざまなスポーツにチャレンジ。高校時代には障がい者野球の日本代表になるなど将来を嘱望されましたが、高校卒業後、日本パラリンピック委員会による選手発掘事業のイベントに参加してパラサイクリングと出会いました。

競技歴わずか8か月で2016年のリオデジャネイロでのパラリンピックに出場し8位入賞。リオ大会以降は結果を残せない日々が続いたものの、東京大会でなんとワールドレコードを更新。他の選手に記録を抜かれ惜しくも4位となりましたが、大会後も成長を続け、2022年の世界選手権で銀メダルを獲得して以降、好成績を叩き出しています。パリでは、まだ一度も獲得できていない金メダルを勝ち取りたいと意気込んでいます。

ベストを尽くしたいと闘志を燃やす藤田選手

藤田征樹選手(MC3)

出場種目

  • ロード:個人タイムトライアル(C3)、ロードレース(C1-3)

両足義足のパイオニア、藤田征樹(ふじた・まさき)選手(MC3)。もともとトライアスロンの選手でしたが、交通事故によって両足のひざ下を失いました。しかし、事故の2年後から義足をつけてトライアスロン大会に出場し、健常者と混じって参加して完走を果たしたことから各方面から注目されるように。その後、日本障害者自転車競技大会のロードレースに出場したことが契機となり、本格的にパラサイクリングに参戦。

両足義足の選手は世界的にも珍しく、同じような障がいのある人たちに希望を与えています。今大会で5大会連続出場。なんと3大会連続でメダルを獲得しています。数多くの大会で実績を残してきた39歳のレジェンドの走りに期待が高まります。

パリ大会に出場できる感謝を結果で返したいと語る木村選手
タンデムのパイロットを務める三浦生誠選手

木村和平・三浦生誠ペア(MB)

出場種目

  • トラック:4000m個人パーシュート(B)、1000mタイムトライアル(B)

  • ロード:ロードタイムトライアル(B)、ロードレース(B)

最後に、パラリンピック初出場のペア、木村和平(きむら・かずへい)選手(MB)と三浦生誠(みうら・きあき)選手のペアを紹介します。

木村選手は生まれつきの弱視でしたが、それに気づかず高校1年生まで健常者としてサッカーをプレー。視力が落ちた後はブラインドサッカーでパラリンピックを目指したものの出場できず、盲学校の先生に勧められて自転車を始めました。2017年デビュー。その翌年に行われたインドネシア2018アジアパラ競技大会で優勝するなど目覚ましい成長を遂げてきた選手です。

パイロットの三浦選手は、大学の自転車競技部でのタンデムパイロット経験があり、現在は日本競輪選手養成所に所属する選手です。今大会で飛躍が期待されるタンデムペアの走りに注目ください。

パラサイクリングの基礎をおさらい

ここからは、パラサイクリング観戦を楽しむのに欠かせない「クラス分け」について確認しましょう。パラサイクリングは選手の障がいによって以下の4つのクラスに分けられ、クラスごとに自転車の形状も決められています。

Cクラスの川本選手。片足でペダルを漕いで駆け抜ける姿に圧倒されます

パラサイクリングのクラス分け

Cクラス(二輪車):切断・まひなど四肢の障がい
Tクラス(三輪車):体幹の障がい
Bクラス(タンデム):視覚障がい
Hクラス(ハンドサイクル):切断・まひなど下肢に重度の障がい

このクラス分けのアルファベットに、障がいの程度を示す数字を組み合わせて細かくクラス分けします(障がいが重いほど数字が小さくなります)。さらに男子(M)女子(WまたはF)のアルファベットが加わり、「MC3(男子、二輪車、障がいの程度が3)」というようなクラス分けがされます。

もう一度、選手のクラスをおさらいすると・・・・

杉浦選手、川本選手、藤田選手が該当するCクラスは一般的な二輪車を使い、身体の特性や障がいに合わせて自転車を改造します。障がいの程度は1~5まであります。

木村選手と三浦選手のペアが出場するBクラス。タンデムという2人乗り用の自転車を使い、パイロットと呼ばれる健常者選手が前に、ストーカーと呼ばれる視覚障がいの選手が後ろに乗ります。パイロットはストーカーの目となってハンドルを操作し、ストーカーは後ろから後押しする役割。木村選手は男性ですので、MB(男性でタンデム)ということになります。

今回出場する選手はいませんが、Tクラスはトライシクル、つまり三輪車を使います。脳性まひなど二輪車を操縦することが難しい選手が乗ります。こちらは障がいの程度によって1~2のクラスに分かれています。

そして最後にHクラス。Hクラスの選手は、日本ではまだパラリンピック出場を果たしていません。ハンドサイクルと呼ばれる自転車を使います。主に車椅子で生活している選手が腕を使ってペダルを回していくのですが、腕だけの力で70~80kmもの長い距離を走っていきます。こちらは障がいの程度で1~5のクラスに分かれています。

ハンドサイクルについては、過去に育成合宿の模様を取材した記事があります。こちらの記事をぜひご覧ください↓

スピード感ある刺激的なトラック種目

パラサイクリングは、クラス分けに加え、冒頭で紹介したように「トラック」と「ロード」の2種目に分けられます。ここからは改めてトラックとロード、それぞれの楽しみ方や魅力について取り上げていきます。スケジュールについても紹介していきます。

杉浦選手の疾走。凄まじいスピードが魅力のトラック種目

まずトラック種目。クラスによって、タイムまたは着順で競います。トラック種目に使用する会場は、1周が250m。すり鉢状のような形をしていて、床は木製の板張りになっています。ブレーキや変速機がついていないトラック専用の自転車を使用し、(1)「タイムトライアル」、(2)「個人パーシュート(追い抜き)」(3)男女混合の「チームスプリント」で競います。

タイムトライアル

タイムトライアルは、ひとりずつトラックを走ってタイムを計り、最もタイムが速かった選手が勝利となります。ある意味で、単純明快でわかりやすい競技。選手一人ひとりの走りにしっかりと注目できるのも魅力です。

個人パーシュート

個人パーシュートは、トラック競技場のホームとバックにひとりずつ選手が配置され、同じ方向に向かって同時にスタートし、相手を追い抜くか、早く距離を走りきったほうが勝利となります。追い抜き競争とも呼ばれ、スピードスケートなどでも知られるようになりました。試合の魅力はなんと言っても、追い抜くか、追い抜かれるかのハラハラドキドキな展開。興奮が止まらない競技です!

チームスプリント

チームスプリントは、1チーム男女混合の3人で編成するCクラス限定の団体競技。3名で一斉にスタートし、1周ごとに先頭の選手が抜けていき、トラックを3周したタイムを競います。1周しか走行しない選手はスピードをガンガン上げていき、その選手が抜けるタイミングで後続の選手もギュンっとスピードを上げていきます。先頭の選手が抜ける前から後続の2人がスピードを出せる状態にしておかなければならず、頭脳戦でもあります。

女王・杉浦佳子選手の走り。今回もきっとやってくれるはず!

◆トラック種目・日本選手スケジュール
時間は日本時間です。公式サイトでもチェックできます。

ドラマが生まれるロード種目

ロード種目は一般の道路などを使います。(1)タイムトライアル、(2)ロードレース、(3)Hクラス限定のチームリレーで競います。トラック種目とは違い、ブレーキや変速機を用いた自転車を使用し、障がいに応じたさまざまな改造をすることができます。

タイムトライアル

ロードのタイムトライアルは、選手一人ひとりが一定の時差でばらばらにスタートし、単独走によるタイムの優劣を競います。前を走っている選手に追いついても、その選手の直後について風除けに使う行為は禁止。つまり、周りに選手がいない環境で、前からの風圧をまともに受けるため、自分の脚だけが頼りという過酷なレースです。

ロードを走る川本選手。どこでアタックをかけるのか最後まで見逃せません!

ロードレース

エントリー選手が一斉にスタートし、最初にゴールした選手が勝利するというシンプルなレース。クラスごとで距離が変わりますが、最長120㎞にも及ぶコースの中で、駆け引きを行いながら戦っていきます。ゴール前のスプリント勝負で決着が決まることもあり、観客も一緒に盛り上がる競技です。

チームリレー(Hクラス限定)

ハンドサイクル(Hクラス)の男女混合で行われるリレー形式の競技。性別とクラスごとに点数が決められていて、最大6ポイント以内でチームを組んでいきます。障がいの程度が高い選手も入ることが多いため、多くの選手たちに開かれた競技だと言えるかもしれません。

藤田選手のロードでの走り。粘り強く相手に食らいついていきます

◆ロード種目・日本選手スケジュール
時間は日本時間です。まだ詳細な時間が出ていませんので、判明次第、更新します。公式サイトでもチェックできます。

選手に合わせてカスタマイズ

ロードで使われる自転車は、選手の障がいなどによって改造することができます。たとえば、手に障がいのある選手は、ブレーキや変速機を障がいに応じて使いやすい場所に配置したり、選手それぞれの状態に合わせてカスタマイズします。

最近では、電動変速機の普及によって、あごで変速機を操作する選手も出てきました。同じクラスでも障がいの程度はそれぞれ。だからこそ自転車の改造も多彩です。選手用にカスタマイズされた自転車そのものにもぜひ注目してみてください!

もうひとつ、ロードの大きな特徴がフィードゾーン(補給エリア)があること。長距離を走る選手にとって、競技途中の水分・栄養補給は、大会結果にも直結します。スタッフが水やゼリーなどを手で渡すのですが、一瞬で手渡すのは想像以上に至難の技! 成功するか否かがレース結果にも繋がってきます。フィードゾーンのやり取りにもぜひ注目してみてください。

ロードは個人戦のように見えますが、同じ国の選手の前を走って風除けになることで、後ろに走る人の空気抵抗を和らげる役割を果たす場合もあり、チーム戦の側面もあります。各国のチームプレーにも注目です!

ゴールの瞬間まで目が離せません!

順位の鍵を握る「係数」

パラリンピックでは、トラック・ロード共に選手が一緒にまとめて走ることがあります。公平な条件で勝負できるよう、実走タイムに係数をかけた計算タイムで順位が決まります。見た目の順番や手元のタイムとは違う結果が出ることも多く、最後まで目が離せません。

一方、この「係数」がかからない、つまり、障がいが重かろうと軽かろうと全部一緒の条件で走るというレースもあります。最も障害の重い選手がレース序盤から積極的にアタックをかけ、レースの行方が誰にも予想できないものになる、という可能性もあります。こちらも大注目。

パリ2024パラリンピック競技大会でも、係数がかかるレースと、かからないレースがあります。この記事に掲載したスケジュールでも、係数があるレースは「※」の印がついています。事前に予定表と係数の有無を確認しておくと、観戦にも役立つはずです。

今大会の具体的な係数について詳しく知りたい方は、こちらから係数表をチェックできますのでご覧ください。

輝かしい選手たちの活躍の裏で…

パラリンピックは大きな大会ですから、選手のサポートに回る裏方の役割も欠かせません。そこで、今回のパリ2024パラリンピック競技大会に監督として帯同する権丈泰巳さんに話を聞きました。

パラサイクリング日本代表の権丈監督

権丈さんは2004年のアテネ大会以降、すべてのパラリンピックに関わってきました。アテネ大会当時、パラリンピックの認知度は今ほど高くはなく、苦労も多かったそうです。現在のように専属のスタッフがいなかったので、権丈さんがメカニックもコンディショニング担当も兼任しながら、6人の選手をケアしてこともあったそうです。

また、アテネへの移動も、出場するすべての競技団体の選手全員がたった1機の飛行機に乗らなければならず、搭乗にもかなり時間を要したとか。それでも懸命に選手をサポートしてきたのは、「ベストなパフォーマンスを発揮してほしい」という強い気持ちがあるからです。

超人的な走りで見る者を感動させてくれるパラサイクリングですが、選手たちは、様々な障がいを抱え、健常者にはなんの困難もなくできることでも時間がかかってしまうことがあります。選手たちの活躍の裏にあるスタッフたちの存在も、ぜひ思い出してもらえたらうれしいです。

一方、権丈さんは「パラリンピックならではの楽しみもある」といいます。「自転車競技以外の選手に会えるのはパラリンピックだけです。選手村は他の競技団体の選手と交流するチャンス。他の国の文化や競技、スポーツ事情などを知ることは選手たちにもいい刺激になります」と権丈さん。パリではどんな出会いが待っているのでしょうか。

パラサイクリングは、多彩な見どころがあるスポーツです。今月末に迫ったパラリンピックに向けて、選手たちの最終調整もいよいよ大詰め。選手の皆さんの健闘を祈るほかありません。私たちの応援も、きっと励みになるはず。日本からパリまで届く最大級の追い風を、選手たちに送りましょう!

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