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”プライマリ・ケア2021年夏号”使える論文My Top5

日本プライマリ・ケア連合学会の実践誌、“プライマリ・ケア”の『使える論文My Top5』は若手医師部門 病院総合医チームが紹介しているリレー連載です。

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2021年夏号は、平松が担当しました。
『医学以外に医師が身につけるべき知識編』と題して、以下の5つの論文を紹介しています。

1. 意思決定における不確実性

Marieka A Helou, Deborah DiazGranados, Michael S Ryan, et al. Uncertainty in Decision Making in Medicine: A Scoping Review and Thematic Analysis of Conceptual Models. Acad Med. 2020 Jan;95(1):157-165. PMID: 31348062
日常診療は意思決定の連続です。しかし、日常診療は不確実な要素だらけ。意思決定を妨げるような“不確実な要素”があっても前に進むためのフレームワークを紹介しています。

三重県志摩市で地域研修をしていた医師4年目の冬に、“Uncertaintyのマネジメント”を取り上げた文献(JAMA Intern Med. 2020;180(3):452-453. PMID: 31961378)と出会い、「診断がつかなくてもできること(やらなければならないこと)があるんだ!」と、急に視界が開けたような気がしたのをぼやっと思い出しながら、このテーマを選びました。


2. 省察をガイドしてプロフェッショナリズムとは何かを学ばせる

Patsy Stark, Chris Roberts, David Newble, et al. Discovering professionalism through guided reflection. Med Teach. 2006 Feb;28(1):e25-31. PMID: 16627318
プロフェッショナリズムを教えるのはとても難しい、と思いませんか。ロールモデルや組織の文化があり、知らず知らず真似ているうちにプロフェッショナリズムが身に付いていく...といった方法もありますが、これは逆にアンプロフェッショナルな部分も伝染していってしまうという側面も。
この論文では、どんな行動が、どんな意味合い(どういった点)で、アンプロフェッショナルなのか?を言語化し、学習者の省察を助けるツールを紹介しています。

Hospitalist vol.8 No.4 病棟管理 特集病棟診療医のプロフェッショナリズムを執筆していたときに出会った論文です。結局、その原稿の中では引用せず仕舞いでしたが、個人的には参考になるなと思ったのでこちらで取り上げることにしました。


3. パンデミック時に医療資源をどう配分するか?

Yasuhiro Norisue, Gautam A Deshpande, Miku Kamada, et al. Allocation of Mechanical Ventilators During a Pandemic. Chest. 2021 Jan 11;S0012-3692(21)00044-1. PMID: 33444616
COVID-19の流行で、マスコミでは“命の選別”という言葉が使われるようになりました。医療資源が枯渇しそうな場合の海外でのトリアージ原則と日本の現状は異なっており、日本では、限りある医療資源はいわば『早い者勝ち』のルールに則って分配されています。
海外でのトリアージ原則を日本にも当てはめられるのか? 医療従事者、非医療従事者からのアンケート回答を集計し、質的分析まで行った論文です。こちらの論文は、日本語訳が載っているWebサイトもありますし、CHEST誌のEditorialにも取り上げられてますので、興味のある方はぜひご参照ください。

このアンケートには実は自分も回答していたのですが、この論文を読むと、「(自分とは違って)こういう考え方の人もいるんだなぁ」と多様な視点に気づけました。【感染のリスクを負って最前線で働いていた人を優先する】原則を支持する割合は、医療従事者よりも非医療従事者で有意に多かったという結果も、なんだか心温まるというか...。


4. “3つのいいこと”(ポジティブ心理療法)のバーンアウトへの効果

Yu-Fang Guo, Louisa Lam, Virginia Plummer, et al. A WeChat-based "Three Good Things" positive psychotherapy for the improvement of job performance and self-efficacy in nurses with burnout symptoms: A randomized controlled trial. J Nurs Manag. 2020 Apr;28(3):480-487. PMID: 31811737
“1日の終わりに「その日うまくいったと思えること3つ」と「それがうまくいった理由」「自分がどう貢献したか」をSNSに記録する”という介入が、業務遂行能力と自己効力感を高めた、という結果になった小規模単施設RCTです。

医療従事者のバーンアウトは、患者ケア、ヘルスケアシステム、医療従事者自身の健康のすべてに悪影響を及ぼします。バーンアウト予防の戦略には、組織レベルのものと個人レベルのものとがあります。(J Intern Med. 2018 Jun;283(6):516-529. PMID: 29505159
組織を動かすのはかなり大変です。自分や他者のバーンアウトに気づくのも意外と難しいです(気づいた時にはすでに手遅れだったり)。
別に3つじゃなくたって、SNSに書かなくたっていいと思います。一緒に働いている同僚に「今日の成果は?……へぇーすごいじゃん、やったじゃん!(+肩パン)」とコミュニケーションをとるだけでも違うんじゃないかしら、と(信じたいのです)。


5. 一般診療での「共感」の効果

Frans Derksen, Jozien Bensing, Antoine Lagro-Janssen. Effectiveness of empathy in general practice: a systematic review. Br J Gen Pract. 2013 Jan;63(606):e76-84. PMID: 23336477
共感の効果についてのシステマティックレビューです。
①患者の満足度、アドヒアランス向上
②患者の不安、苦痛の軽減
③よりよい診断とアウトカム
④患者のenablement(患者自身が病気に対処する能力や、健康に対する自信)につながるという結果でした。

共感力のある医師のもとでは、通院する患者のHbA1cやLDLコレステロール値、風邪の罹病期間もよくなる!というのは驚きでした。
でもまぁ、皆さんにとっては『共感が大切』はもう“耳たこ”かもしれません。共感力を鍛える、というのも難しいですよね。プライマリ・ケア誌の本文には、いかに共感能力を高めるか?医学生を対象にしたプロジェクトベースラーニングについての論文も紹介していますので、興味がある方はぜひ読んでみてください!


今回取り上げた5つは、純粋な医学知識(Medical Knowledge)とは違うけれど、同じくらい医師にとって必要な知識かと思います。
会員の方はぜひお手元の雑誌をご覧ください。今後もリレー形式で続いていきますのでお楽しみに!

(文責:平松 由布季 東京ベイ・浦安市川医療センター総合内科)

※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
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