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診療の現場において初期・後期研修医を教育する能力

臨床をしながら教育をするには?

我々病院総合医は普段主に病院の入院病棟で患者診療を行っています。以前の記事でご紹介したように我々病院総合医に求められる能力および期待されるものとして「初期・後期研修医への教育」というものがあります。

患者診療だけでもかなりの業務量があるかと思いますし、それに教育という”業務”が加算されると、どちらかの質を落とさざるを得ないように思われるかもしれません。

どのようにしたら両者を両立することができるのでしょうか。

医療の分野における教育者(Teacher)の役割とは?

そもそも、医療分野での教育者の役割とはどんなものがあるのでしょうか?

Hardenらは、以下の8つがあると提唱しています。以前の教科書では12 rolesでしたが、それが統廃合され現在の8 rolesになってようです。

1.The teacher as information provider and coach
2.The teacher as facilitator and mentor
3.The teacher as a curriculum developer and implementer
4.The teacher as an assessor and diagnostician
5.The teacher as a role model
6.The teacher as manager and leader
7.The teacher as a scholar and researcher
8.The teacher as a professional

実際にこれをすべてこなすのは、臨床しながらでは難しいところもあると思います。

”良い”臨床指導医の要素とは?

では、研修医からみた”良い”臨床指導医とはどんな指導医でしょうか?菊川らの研究によると様々な特徴が抽出されていますが多かった意見を抜粋すると、①適切なサポートを提供する(Provided sufficient support)②研修医に考える機会を創出する(Presented residents with chances to think)③フィードバックを提供する(Provided feedback)④改善が必要な分野を指摘する(Provided specific indications of areas needing improvement)⑤気軽に相談できる(Was accessible)⑥練習する機会を与える(Provided residents with opportunities to practice)⑦研修医の役割を明確にする(Established clear roles for residents)などでした。あとは、怒らないことやえこひいきをしない、などの要素が挙げられていました。

先に述べた8つの役割の中で1.The teacher as information provider and coach や2.The teacher as facilitator and mentor の中のLearning facilitatorと言われる分野の比重が大きいのかなと私は感じました。

研修医の自主性を尊重しつつ、ペースメークや脱線しそうになると元のレールに戻るように誘導してくれる(気づいたら元のレールに戻っていた)指導医というのが良い指導医といえるかもしれません。

忙しい臨床の現場で如何に教えるか?

これまで書いてきたことを元に、どうすれば忙しい臨床の現場で研修医の満足度も高められるような教育を提供できるでしょうか考えてみようと思います。

研修医が主体的に何かを行った際に、直接的に答えを与えるのではなく、どこができていて、どこができていない(改善が必要)かをフィードバックでき、一緒に改善プランを考えてあげる ということが良い指導医の要素であり、これを如何に効率的に行えるかというところに尽きると思います。

フィードバックの手法はたくさんありますが、その中でも5 micro skills、別名 One-Minute Preceptorというものを紹介します。

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フレームワークは上記のようなものですが、やりたいことは前述したとおり学習者(研修医)が何をどのように考えたかを一緒に振り返り、正しかったことは正しいと承認する(Positive feedback)、間違っていることや気づいていないことには気づかせる(Negative feedback)を行い、その場でしか伝えられないパールなどを伝える。というものです。

特に後ろ3項目に関しては必要なければ省略可能となっており、考えと根拠が完璧であればそれが正しいことを承認するだけでよいということになります。

これなら忙しい臨床の中でも、研修医がこのフィードバックを受けた後に主体的に動けるようなフレームワークなのではないでしょうか。

落とし穴もある

教育手法を学ぶと、使ってみたくなるのが世の常だと思います。ただし、やはり使用上の注意点があります。

求められていない教育を押し付けると逆効果になることがある。ということです。例えば、フィードバックの場合は文化社会的な影響を受けやすいと言われており、まだ教え・教わると言う文化が根づいていないところで突然フィードバックを行ったとしても逆効果に終わることがあります。また、信頼関係のできていない状況でのフィードバックも注意が必要 と言われます。

注意点を守って使えれば、すごく良いツールになると思いますのでぜひ使ってみてください。

我々病院総合医には「初期・後期研修医への教育」が求められていますし、先に述べた「気軽に相談できる」ということも病棟にある程度長時間いるので達成しやすいと思います。

<参考文献>

The Eight Roles of the Medical Teacher, 1st Edition
The purpose and function of a teacher in the healthcare professions
Authors : Ronald M Harden & Pat Lilley

Kikukawa M, Nabeta H, Ono M, Emura S, Oda Y, Koizumi S, Sakemi T. The characteristics of a good clinical teacher as perceived by resident physicians in Japan: a qualitative study. BMC Med Educ. 2013 Jul 25;13:100.PMID: 23883367

Neher JO, Gordon KC, Meyer B, Stevens N. A five-step "microskills" model of clinical teaching. J Am Board Fam Pract. 1992 Jul-Aug;5(4):419-24. PMID: 1496899

Watling C, Driessen E, van der Vleuten CP, Lingard L. Learning culture and feedback: an international study of medical athletes and musicians. Med Educ. 2014 Jul;48(7):713-23. PMID: 24909533


文責:小杉俊介 飯塚病院 総合診療科

※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
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