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「子育てしながら仕事するってどんな感じ? 聞いてみました劇作家編」 2023年秋

【参加者】
・角ひろみ(岡山県)
・棚瀬美幸(沖縄県) 
・泊篤志(福岡県) 
・古川健(東京都)
・前川知大(東京都) 
・山谷典子[司会](東京都)
(五十音順 敬称略)

【ダイジェスト映像】
YouTube https://youtu.be/CubDD5aMA_g

…「ママ!トイレ!」と叫ばれれば、どんなにいいアイディアが浮かんでいようと強制終了。早く寝かせて仕事しよう…スローなテンポでお話ししていたはずが、気が付けばベッドの上で踊りだす息子。そんな毎日の中で、皆はどうやって育児しながら仕事してるの???と聞きたくてたまらなくなりました。
そんなわけで、日本劇作家協会の劇作家を紹介するこのコーナー。2歳から中学生の子どもを持つ劇作家に集まってもらった「育児しながら仕事するってどんな感じ?聞いてみました劇作家編」よろしくおつきあいくださいませ。


締め切りはどう乗り越える? 

山谷 締め切り前とか、 そんなことは全然お構いなしの生き物と一緒に暮らす 以上、どうやって乗り越えてますか?

前川 締め切り前が大変だったのは、やっぱりこども園から小学校1、2年くらいまでかなって感じがします。今5年生なので、 この2、3年とかは、子どもが自分でできることが増えてきている分、 割と平和に流れています。妻も演劇関係の制作をやっているんで、その稽古と僕の書く時期とかが重なってたりとかすると、結構大変でしたね。

山谷 保育園に預けようと思っても、 夜に稽古がありますよね? 皆さんどうしてますか?

前川 僕は朝方に書く方だから、夜型の人の方が大変なんじゃないかなと思う。

  夜型から朝型に変わりました。

古川  僕も完全に朝方になりましたね。で、締め切りが近くなると、徹夜する。結局は、子どもが寝た後から起きるまでが書くことのできる時間なので、そこはもう徹夜するしかないんですよ。

前川 僕は徹夜ができないから、子どもが保育園とかでいない時間帯に、もうここでやるしかないって感じでしたね。
  私、子どもを保育園に預けられなかったんですよ。5月に産んだんですけど、7月に締め切りがあって。子どもを預けたいって思って役所に行った時に「どんな仕事してますか?」って聞かれるんですけど、「家にいるんですね。無理だと思いますよ」って。もうそこで心折れた感じがあって。もう自分が寝なければいいみたいな気持ちで、生まれた時から書いていて…。3歳くらいまでは夜中に書こうとしても、15分くらい離れると起きるので、添い寝して。書きたいのに子どもが起きるから、すごいイラつくっていうか、なんかもう、どうして?みたいなことになってたけど、「あ、これ仕方がないな」ってある時思ったんです。劇作をやるには、 私がそれに合わせるしかないというかね。フラストレーションを溜めてては私にマイナスだから、少しずつ訓練していった感じですね。でも、保育所に入れられないから、早くから入れる私立幼稚園に入れたんですよ、全然お金持ちじゃないのに。バスで遠くまで行くから、普通の幼稚園より1時間ぐらい長く行っててくれるので、その間に書いて。でも、車で迎えとかも行かなきゃいけなくて。そしたら息子が、友達がいるから付属の私立の小学校にそのまま入りたいって。そのお金、払おうと思ったんです、環境を買おうみたいな。私は子どもが小さい頃も週末に東京行ったりとか、すごくしてた方だと思うんです。だからうち、すごく大きいホワイトボードがあるんですけど、それに全部行程を書き出して。幼稚園の持ち物はこれ、 水筒忘れず、みたいに夫に。 

  うちも家族のスケジュールを書いたホワイトボードあります。そうすると、今日は誰がなにするのかが分かるので。

前川 うちもそうですね。小さいホワイトボードをいくつもマグネットで用意して、なんかそれに追加追加で。

  (うちもうちもというリアクション)

山谷 ホワイトボードの需要がすごい。

前川 角さん、私立に入れて時間を買うっていうのはすごい決断ですね。

  ちゃんと然るべき段取りを踏んでいれば保育園に預けられたのかもって思いつつも、もうすごい怖かったです。「無理だよ」みたいに言われて。そのころ劇作家の先輩の前例があんまり思い浮かばなくて。柳美里さんとか、シングルで、なおかつたくさん書いて、 子育てをして、それを手記に残されている人のものを読んで心の励みにしたり。私も頑張れるみたいな。

演出家として稽古場に行かなきゃいけないときは?

山谷 作家と演出家を兼ねられてる方もいらっしゃるんですけど、どのように時間を…?

棚瀬  保育所入所前は、0歳児を稽古場に連れていってました。 私は昼間に仕事もしてたので 0歳から保育園に入れました。夫は昼から深夜にかけて働いていて、私は昼働いて、かつ演劇もやってるので全部 素直に書きました。 そしたら「あなたどこで寝てるんですか?」と言われて。書類上、17、18時間働いてることになるんですよね。実際そうなんですと話すと、「土日も休みはないんですか?」って言われ、「稽古行ってたらないですし、台本書いたらないです」と話をしたら、とても高い倍率の0歳保育に入れました。

  すごい。
棚瀬 今の保育所事情って厳しいから、劇作家だけだったら入れなかったと思います。妊娠した時点から、高倍率でも保育所に入所できるよう必死に調べてたくさん準備していました。でも、子どもが小さい時は忙しくて書く時間をとれなかったです。時間のなさにイライラもしていました。けれどある時、諦めがつきました。もう イラ立っていてもしょうがないなって。今は子どもとの時間なんだって、踏ん切りがつけられるようになりました。豊岡での劇作家大会で子育てシンポジウムを企画したんですけど、その時に角さんから「今だけだよ、しんどいの」と言われて、その言葉がかなり励みになってました。実際、子どもが小学校に入ったら生活が激変しました。学校で座って聞くことを訓練してもらうと、親がしてることをしばらくは見ててくれる。それは園児までとの大きな違いです。

山谷 うちの子は 今度の4月から学校なので、学童とか小学校の生活は激変するから不安でしょうがないんですけど。 そこら辺どうですか。

棚瀬 楽になると思います。私は子どもの小学校入学を機に関西から沖縄に移って、環境が大きく変わりましたけど、とっても楽になりました。

  習い事をやり始めると、子どもを車の中で待ちながら、すごく暗い駐車場でパソコンを広げて書いたりね。

  今、娘と一緒にピアノを習い始めました。8年前ぐらいからオペラの演出をするようになって。それで多少楽譜が読めるようになりたいなって思ってたら、子どもがちょうどピアノを習いたいって言い出して。じゃあパパも一緒に習うわって。

子どもは劇作家の仕事をどう見てる?

山谷  皆さん、お子さんは劇作家って仕事をどんな感じで見ているんでしょうか?

 1回聞いたんですよ。小学校1年生になった頃かな、パパのお仕事のこと、どう思ってる?って。そしたら「なんか楽しそうだなーって、ずっと思ってたよ」って言われて。「何が仕事かわかってるよ。演劇でしょ?」みたいな。あ、一応わかってんだって思いました。いろんな現場に連れて行ったりはしていたので。

前川 稽古場によく連れて行きました。稽古場の立て込みとか、稽古場ばらしとか、本番のばらしだとか。労働力として。

古川 男の子だからね(笑)

前川 なんとなく楽屋に放り込んでおくと、みんなにいじられて。仕事によってはテレビに出てるような人とコミュニケーションとって。そういう人が出てる映画とか見て、「あ、この人だよ」って言うとすごく喜んで。まだフィクションと現実の区別があんまりつかない時に、劇団員とかよく会ってる人が、テレビのドラマで殺されたりすることにすごく怯えたんですよね。そういう、その時期だけ得られるような経験とかも結構してて、それはやっぱりこういう仕事ならではだなと思いましたね。

  私、幼稚園まで子どもに劇作家ということを隠して生活してました。 他のお母さんみたいに、時間をちゃんと配分して接してあげなきゃみたいな気持ちがあって。保活(子どもを保育園に入れるための活動)の時にも、役所からちゃんとそうしなきゃダメみたいに言われたので…。夜中に子どもに隠しながら書いてました。
 幼稚園の時に新聞に載ることがあって、同級生の男の子が紙面に私の写真を見つけたんですね。容疑者って言ってきて(笑)面白かったんですけど。そこら辺から息子にも少しずつ、演劇をやってることを見せていって…。私はこの夏、初めて 東京に50日滞在して、作・演出をさせてもらったんです。これまで演出は断り続けてきたんですが。その作品を息子が初めて見に来て、「面白かった」って言ってくれて。

前川 それは、感動しますね。

  そうですね。まー、東京に来たかっただけだったのかもしれないけれど(笑)

古川 僕は娘に、パパはお話を作ってるって言ったら、絵本作家だと何年か思われてましたね。

  最近、何度か音楽モノのリハーサルに連れていくことがあったんですけど、 音楽だと歌う人もいるし、演奏の人もいるし、なんか楽しかったみたいです。僕がやってることが楽しいというよりも、父親が関わってるものが愉快で、楽しいものを作っているっていう感覚だったみたいですね。

古川 僕は稽古場に子どもはほとんど連れていかなかったですね。邪魔になったら悪いと思うので。やっと去年ぐらいから本番を見せるようになりました。僕の書くのって、あんまり子ども向けじゃないので、わかったのかわかってないのかはわかんないですけど。最近は見せるようにしてますね。

棚瀬 私の場合は、小劇場の主催者で公演形態を自分で決められるので、子どもが観られるステージを作るようにしました。そのステージでは未就学児無料で、代わりに「この回は静かではありません」と銘打って、観劇料金を安くしました。でも、連れてくる親が大変そうで。なので別の回では500円とか1000円とか格安で託児をつけることにしました。子どもと一緒に観ることもできるし、預けて身軽に観ることもできる。選べるのがいいなと。他には、育児中のお母さんを俳優さんで呼ぼうと考えて、オーディションをした公演もありました。自分で子ども育ててみて、こんなに演劇ができないんだと感じたからです。じゃあ、同じように芝居ができないで困ってる女性の俳優さんもいるんじゃないかと思って。基本稽古は夜にはしないようにしました。みんなで話し合った時間帯で、全部託児つけて稽古しましょうって。その時は保育士2名を稽古時間に配置して、託児費用は助成金を申請して補助してもらいました。

前川 棚瀬さん、すごいですね。ひとつひとつ準備がすごい。

棚瀬 自分の環境が変わって演劇ができなくなることが怖かったんです。マイナスに感じてしまってできないことがあるなら、私の考え方を変えなきゃいけない。同じ思い持った女性で協力し合って、プラスに変えてしまえ!という考え方で 始めました。あと、人に甘えることが上手になりましたね。頭を下げないと、子育てと演劇は両立できないので。

山谷 すごい。

棚瀬 今までは稽古場での人の声って大嫌いだったんです。話をしているスタッフさんとかにも、ごめんなさい、静かにしてって言っちゃうぐらい。けど、今は赤ちゃんが泣こうが許します。

 (笑)

棚瀬 自分さえ集中すればいいし、役者も集中できるようになればいい。まあ、役者さんには文句言われましたけど。

子育てと演劇、ともに継続していくには?

前川 うちも共働きで、妻も僕も仕事を続けられる環境を作るために、最大限やってきたつもりです。でも手続き的なこととか僕は妻に任せてたから、実際そこがどれだけ大変だったかっていうのは、今聞くとやっぱりすごい。僕の場合は、そこまで しんどい時期ってのは実はそんなになくって、割とできてた感じがあったんで、恵まれてたなと思いますね。

古川 妻にばかり負担が行かないように、書く以外の仕事を全部手放して、ずっと家にいられるようにしたんですよね。以前は俳優もやってたんですけど、子どもがきっかけで俳優をやめて書くだけになった。そうすると、外に出ていく妻と比べても家にいる時間が長くなるので、できることをやるっていうふうな考え方でやってましたね。

前川  僕も妻より圧倒的に家にいるんです。狭い家に子どもといるとやっぱり集中できなくて、家から歩いて10分ぐらいの場所に、風呂なしのちっちゃい部屋を借りたんですよ。

古川 (分かる分かるというリアクション)

前川 書斎を外に借りて出勤をするっていう形にして。僕、大体年に演出作品1本か2本だから、一年で3か月か4か月ぐらいなんですよ。それ以外の自宅でやってるときには、もう朝5時に出て、午後3時ぐらいには帰ってくる。 妻は朝8時ぐらいに家を出て、夜7時、8時ぐらいまで仕事。早番と遅番みたいな感じでやってて。子どもが帰ってくる時間には、もう僕がいるみたいな感じのリズムができましたね。

  すっごい羨ましいです。うちは夫はほぼいない中で私が全部やってるので、お金をお願いしますみたいな感じでした。「ご飯が作れないなら洗って」とか言いながら、なんとかやっていった感じです。

  奥さんが2年前から正社員で働き始めたんですね。昼間は比較的僕が家にいて、夕方子ども迎えに行って、奥さんが帰ってきてタッチして、僕は稽古に行きます、みたいなサイクルができつつあって、それでギリギリまわってますね。年単位のスケジュール 調整、月単位、週単位のスケジュール調整を頻繁にやっています。この日は誰が迎えに行けるとか行けないとか。

棚瀬 うちは大体分担でやってます。私がいない時は掃除もするし。料理人なので晩御飯は全部作ってくれるし。ただ、社会はやっぱりお母さんの方が子どもの面倒を見るものだって思ってますよね。2人とも働いてるのに電話は全部私にかかってくる。社会は変わらないなっていう…。はっきり言っちゃいました、「いついつまでは私にはかけないでください。夫の携帯番号知ってますよね。そちらにかけてください。」って。

山谷 たぶん私なんかはちょっとそこもいい顔しちゃって 対応しちゃう気がするんですよ。自分の首を絞めちゃうのに。

棚瀬 それは諦めました(笑)。いいお母さんじゃない方が生きていきやすくなりますよ。私は子どもの小学校に演劇のワークショップをボランティアで教えに行ったりとか、自ら私はこんなやつですって学校に出向くっていう。その方が生きやすくなりました。

  お父さんが学校行くこと、結構あるんですか?

前川 僕は昼間は結構動けるから、行けるときは保護者会とか行ったりします。でも30人いるクラスの中で、参加してるお父さんは3人ぐらいですね。

古川 保護者会に行く勇気がなくて。妻がそこは譲らないっていうところもあるんですけど、やっぱり参加率が 圧倒的に母親の方が多いから、勇気がいるなって感じてますね。 授業参観とかなら全然余裕で行けるんですけど。

  卒業してしまえば何の関わりもなくなるので、そんなに気を回さなくていいと思います。

 (笑)

子どもを得て、書く内容は変化した?

山谷 子どもが生まれて、書く内容が変わったなって思われることは?

前川 変わったと思いますね、社会との関わり方がこれまでとは違ってくるから。制度のことだったり、金銭的な問題だったり、地域との繋がりだったり。子どもを通して感じることは増えました。

  前川さんの作品を見て、「あ、これは 子どもがいる人ならではの感覚を描いているな」って思った瞬間がありますよ。

前川 孤児とか子どもの貧困とかも書くようになったんですけど、自分が子育ての過程で知ったことだったりします。関心が変わってきたなって感じはありますね。

  僕は子育てと同時に親の介護も始まっているので、子どもと高齢者っていう社会的弱者の面倒を同時に見ていることになるんです。するとやっぱり書く目線は変わってきたかなとは思いますね。あとうちの劇団、どんどん劇団員が年を取ってきて、今、20代から50代までいるんです。なので、劇団の中で親子っていう設定を描きやすくなってます。

棚瀬 子どもの虐待とか子どもの問題は、自分が産むまでは ニュースとしての情報でしかなかったのに、いまは共感してしまって、すごく調べたりします。ただ 私、子どもを産むまでが自由に生き過ぎてたんだと思っています。時間全部を自分の好きなように使えるから。だからこそか、なんか息苦しさみたいなものを感じて、作品もそちらに向かってたんですね。自分を持て余す時間があったのが、一気になくなって、人や社会とつながらないと何もできなくなった。演劇以外の人とも繋がらなきゃって、意識が外に向きました。あとオーディション公演を多くするようになって、違う立場の方たちにあて書きをしたくなりました。

古川 書くよりも先に、芝居を見る目が変わったなって思います。子どもの話が出てくるだけで、感情移入の度合いがぐっと変わってしまう。ってめっちゃありがちな感じで嫌なんですけど(笑)。もっと作家の目を持ちたいと思いながら、普通に親の目で 物語を見ちゃうようになって。自分の筆が変わったんだろうなっていうのは常々思いますし、なんだろうな、弱くなったというか優しくなったというか。物事をできるだけきめ細かく、色々な側面を見るような感じになってきたのかなと思います。

 私は本質的なところはそんな変わらないような気がしてて、 むしろぶっ飛ばしていけたらなと思ってる感じです(笑)。子どもと接する中で、子どもが昆虫をすごく好きになれば昆虫のことをたくさん知るし、全然興味のなかった地層のこととかも知ったり。 うちは、読み聞かせを小学校5年生ぐらいまでずっと、寝る前30分とか毎日してたんです。キャーキャー楽しみながら、ベッドの上で2人で読むみたいなことをやっていて。なんかそういうことを経て、内容というよりは、子どもの中で摂取したものが、 作劇っていうか、演劇の中に生きていくみたいなことはあるんじゃないかなって。

前川  すごく、自分のことを思い出すようになったんですよ、自分が息子と同じくらいのその時に感じていたことっていうのを。子どもが悔しくて泣いてたりするのを見て、あの頃の自分の感覚とか忘れてたものが、わーっと蘇ってくるようなところがあって。それもちょっと、ある種の感動がありまして。それは、書くことに、ものすごく役に立ってます。
角 私はすごく違うかも。私、 彼は彼、私は私みたいなことが、子どもが大きくなればなるほど確立していった感じです。子どもは子どもとして、自分とは別の1人、みたいに接するようになってきた感じで、彼と私の小さい頃は、すごい切り離されてる感じがします。

  僕も子どもと接していると、自分が小さい頃のことを思い出しますね。一緒に散歩をしていると足元にいる花とか虫とか見つけるんですけど、大人になると足元なんて見ないじゃないですか。僕もちっちゃい頃は動物が大好きで、獣医さんになりたかったんですけど。いまはもう足元を見なくなった、っていうことにやっぱり衝撃を受けたりします。

棚瀬 私もあります。ちょうど今日、子どもが空手大会で負けたんですね。その時に、「ひどい。エコひいきだ。」と言ってて。 私も人に向かって、ひどいとか思ってたなって。昔の嫌な自分を、子どもを見て思い出させられて…。親としてはどう声をかけるべきか悩んでるんですけど。忘れたことを思い出せさせられるのは、刺激的ですね。

都市部と地域で違いはある?

山谷 都市部と自然の多い地域と、執筆と育児とでメリットデメリットみたいなことはありますか?

棚瀬 大阪に住んでいたときは、都市部はお金がないと苦しいけど、お金で解決できることはあるなって思いました。今住んでいる地域は託児がないんです。その需要もない。お金を払えばなんとかなるとっていうことがないんですね。1人で深夜にどこかに行きたいと思っても、大阪ならばどこでも行けたのに、今は夜中に開いてる場所がない。子どもの距離感は、大阪とは違い、今住んでいる地域は近いと思います。子どもの演劇ワークショップをしても強く感じます。何人も抱っこしなきゃいけないぐらいの勢いでやってくるので、そこはやっぱり違うなって。

前川 僕は子どもが小学校入る前に、 静かな場所に引っ越したかったんです。さっきも話したように、僕が演出家として出勤しなきゃいけないのは年の3分の1くらい。だったらもっと環境がよくて家賃が安い場所で生活したいって僕は主張してたんですが、妻は移住することは賛成だけど、仕事のことも実際に考えなきゃいけないわけですよね。
 都会でひとつ嫌だなと思ったのは、まわりの7割ぐらいが中学受験を考えるみたいなところで、3年生の終わりぐらいから塾に行き始める。どこの塾に行ってどこの学校を目指してって、一度そういうのに巻き込まれてヘトヘトになったことがあって。すごい迷った挙げ句、もうやめたって言って今は僕が教えてるんですが、これはやっぱり地域によるものだなっていう感じはすごくあった。

  私自身は関西で生まれ育ってるので、演劇でも美術展でも、東京よりは少ないけれど、選択肢がたくさんあった。知らずと自分の中に蓄積したものが たくさんあったんだなって、岡山も来て気がついたんですね。で、東京はさらにいろんなものから選べるから、すごくいいなって思ったり。子どもが小さい頃に接したり体験したりする環境は、やっぱり都市圏だといいのかも。
 あと、私の場合は私立に通わせてたから、みんなが 受験戦争の中にいるようなところがあったんですね。家の医療機器の借金のために小さい頃から医者になんなきゃいけないみたいな子たちもいるから、住んでる地域というより、環境によっても違うのかもと思っていて。
 劇作をやるにあたって自分がどこを拠点に活動するのかっていうのは、結構大きいんだなって思っています。この間、東京に行って東京の劇団さんとやらせてもらった時、50日東京にいると岡山のことなんて 想像もしないですよね。東京にいると、地方のことなど あんまり見えないし、地方にいると東京だったり、別の地域っていうのは、よそのことの感じがしてしまう。思ってる以上に、どこで生まれてどこで生活するっていうのは、演劇や劇作に反映するというか、 影響が大きいんだなって。

古川 娘を見てて、明らかに外に出る頻度は低いなと思うんですよね、家の中で過ごす趣味が多いというか。逆に体を動かすことが特別というか、若干ハードルがあることに関しては、もうちょっと体を使ってほしいなって思うけれど。じゃあ自分が子どもの頃はどうだったかって言ったら、大差なかったんだろうなと思うんですよ。東京ってそういうところなんだろうなと思わざるを得ない。

  うちの子は友達と話しながらゲームしたり、遊んだりしてて、そういう時代なんだろうなっていう気はします。

山谷 知り合いのお子さんが小4ぐらいなんですけど、 学校からタブレットが支給される前の時代に戻りたいって言ってて。学校からタブレットが支給された途端に、もうずっとyoutube見ちゃって、みたいな。

古川 もうまるでうちの話を聞いてるようです。

山谷 その前はもっと会話があったみたいで。

  でも、むしろ楽になりましたよ。

 (笑)

  小5ぐらいの時にゲーミングPCを 買い与えたんですけど、自分で吸収していくものが多くて、興味の矛先も世界は広いこともそこから知ったり。私が外に出て、夜、演出するようにしたのも、子どもが小5ぐらいのときだったんですね。夫は遅くに帰ってくるから、息子は1人じゃないですか、その時タブレットなり、PCとかがあれば孤独じゃないし、 彼にもよりどころがあることになる。それは結構ありがたいなって思っています。

山谷 うーん、そうか。

 中学生になると、いろんな手続きとかも、子どもの方がさらさらっとやってくれるようになったりしますよ。やっぱりネット強くなればいろんなことを吸収してくれるから、その環境をプラスに思えると すごいいいかも。私は買い与えて本当よかった気がしています。だってこの時代で生きていく人たちなんだから。ハイスペックなものを与えてくのもいいのかもって、その時思いました。

子を持つ劇作家として伝えたいことは?

山谷 では皆さま、最後に一言お願いします。

  常に思うことは、私が子供を持ったときに、相談できる先輩がいればなって思ったんですね。いまはそういう相談を聞いてあげたいと思う。けれど、子どもがいると、子どもがいる身の上でものを見てしまうんだけれど、いろいろな立ち位置や立場があるわけですよね。私も作家として子どもがいない人のことも書いたりするし、こうやって子育ての話をさせていただく時も、立ち位置が違う部分もあるじゃないですか。子どもがいない人に対して「子どもが子どもが」と言いづらい部分もあったりしますよね。その両方の相談に乗りたいって思う部分と、自分も頑張っていきたいって思う部分と。その両極で、いつもちょっと悩むっていうところはあります。

棚瀬 男性の作家さんで子どもを持ってる方と、女性の作家さんで子どもを持ってる方を比べると、圧倒的に女性が少ないじゃないですか。作家さん自体、男性より女性の方が少ない中で、さらに子どもを育てながらというのは、やっぱり相当のマイノリティだなって思ってたんです。でもやってみたら、自分の個性って言ったら変ですけど、要素の1つでしかないんだなって思いました。自分にとって要素が1つ増えただけなんだって、子どもが大きくなってきてようやくそう思えてきました。なので、お子さんが小さい頃の不安を山谷さんが持たれている事には、すごく共感します。こういう企画があって同じ立場の人と喋れたり、本で読めたりと、少しでも状況を共有できる場が広がるといいなって思います。

  僕は結婚する前は、子どもを持つということに対してあんまりイメージがなかったんです。でも実際に子どもを持ってみると、大変なことはいっぱいあるけれど、それを上回るいろんな発見が、子どもと一緒にいることでたくさんあるんですよね。子どもがいたら大変そうだな、演劇できんのかなみたいに思っている人がいたら、特に男性作家の場合は、そこを躊躇しなくてもいいよって、僕はちょっと背中を押してあげたい気持ちに今なっています。

古川 僕もやっぱり、積極的に子どもが欲しいと思っていたわけではなく、でも子どもが嫌いというわけじゃなく、育てていくっていうことのプレッシャーを背負えないなって思っていたんです。けれど実際、子どもができて、育ててっていう中で、ちょっと変な言い方かもしれないですけど、「愛されること」って別に自分を変革しないんですけど、「愛すること」って自分を変革する力だって、子どもができて初めて本当にわかりました。自分の中でそれは本当に腑に落ちたし、少なくとも僕はその力に支えられてる感覚がずっとあります。

前川 まだ僕が、子どもが理由で稽古場を一番早く出なきゃいけなかった時期に、たまたまある俳優さんも子どもが小さい時期が重なったんですね。僕は主宰で、作・演出だから、「子どもを迎え行かなくちゃいけないから帰る」って言えるじゃないですか。でも俳優さんはなかなか言えなかったりする。僕が自分勝手に言い出したことで、まわりの人が言えるようになることもあるんですよね。時代的にもそういうのが当たり前になってきて、稽古場も変わってきている。これからずっとオープンになっていってほしいと思います。
 子どもがいない人だって、プライベートなことで早く帰ったって休んだっていい。演劇の稽古場って、作品を作ることも一番大事なんだけど、みんな子どもに限らずそれぞれのプライベートも大事にして要求出せた方が いいよねって思うんです。
 泊さんちはね、まだ下の子が小さいからまた大変な時期が来ると思うけれど、うちみたいに1人だけだと、大変なのはほんとに一瞬。子どもって一瞬で大きくなるなっていう感じがもうしちゃってるくらいだから、皆さんに「大丈夫」と言いたいという感じですね。


まとめ 山谷典子
2023年10月15日収録

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