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深紅のリボンとココアがあれば

真っ赤な帽子、背中には白くて大きな袋。あれは間違いなくサンタさんだ。

おーい、サンタさーん、私にもなにかくれない?大人だっていいでしょう。今までなんとか踏ん張ってきたんだもの。そりゃあ大きな声で言えないようなこともしちゃったけど、でもそのあとちゃんとペシャンコになったんだよ。すごく痛かったし寂しかったし怖かったし逃げたかった。あ、半分うそ。わりとすぐに立ち上がったこともあったかも。だけど傷が見えなかったときは大変だった。だってどこに薬を塗ったらいいかわからなかったんだもの。

でもね、トキグスリっていうの?万能薬を見つけてね、知らないうちに治ってたこともあって。結構、私って強いのかもね。あ、話がそれちゃった。そう、プレゼント。まあそういうわけなので、もろもろ時効にしてもらって私にもなにかいただけませんか?

オッケー?やった!なににしようかな。

えーっと、あれ? … 考えてなかった。自分から声をかけておいて、こういう計画性のないところ、ダメだなほんとに。いつも同じ失敗ばかり。気をつけなきゃって思ってるのに、なんで変われないんだろう。

「なんくるないさー」

「え?」

「なんくるないさー、です」

「待って待って、なんで沖縄?え?っていうか、サンタさんうちなーんちゅ?そういえばアロハじゃないですか。寒い寒い。そんな格好じゃ風邪ひきますよ。第一、子供たちが目を覚ましたらどうするんですか。さすがにまずいな、怪しすぎる。それ、通報レベルですよ。」

「そんなに慌てなくても大丈夫。なるようになります。なんくるないさー」

「だからなんで沖縄の言葉?

 あれ?……

…… そうだ、

 なんであの夏、沖縄に行けなくなっちゃったんだっけ」


『35歳』


人一倍 さみしがりやなキミのこと しあわせにする自信ないんだ

取り乱すこともできずにうなずいて 35とは面倒な歳

愛されるために愛していたようで 自省すべきは 身勝手と知る

何しても誰と会っても もう自由 失ってまた手に入れたもの

この先も罪悪感と生きてゆく 君を救えるものとは何か

賞味期限切れの油が気にかかる 台所など立たぬ人なら

髪捨てる代わりにすべて受けとめる 多分私が今すべきこと

ひとつずつ部品外して磨きゆく 次に私を組み立てるまで

宝箱 ひっくり返せば無駄なもの 何ひとつない35年


なんていうか、不自然なものはいつか壊れるってことですよね。なんだ、学習してるじゃない、私。でもね、結婚決まって、10年以上勤めた会社を辞めて、その直後に破談ってなかなかキツかったですよ。彼が急に事業を立ち上げることになって、プレッシャーで心が揺れたのはわかっていたつもりでしたけどね。でも私だって一応、仕事を手放して揺れてたわけで、それをさみしがりやって言われちゃうとね、まあ否定はしないですけど。さすがにあのときはすごい落ち方だったなあ。それでもなんとかなるもんだ。うん、なんくるないさー。

彼とは数年前に再会したんです。SNSのおかげ?しわざ? 会ったらストンと腹落ちしました。この人じゃなかったって。彼が選んできた道を知って、私はこの人には寄り添えなかったなって思えたんです。役不足だし、望んだ結末でもなかった。壊れてよかった、と。それで最終的には一緒に笑えたりするんだからおもしろいですよね。そう、これは回収成功事例。

あ、短歌を書き始めたのは10代の終わりなんですけど、ここまで本当にいろいろありました。ダメージを受けるたびにcampusノートに気持ちを綴って。でも不思議ですよね、調子のいいときはほとんど言葉を思いつかない。だからまだ1冊目なんです。経年劣化でぼろぼろですけど。

読みます? 笑っちゃうくらいアップダウンが激しいですよ。ジェットコースターかな、ってくらいに。


『19歳』


不思議だね 君に会うまで知らなかった デイリーストアで夕食を買う

皿の上 残したパセリの茎さえも せつないほどに Y のイニシャル

思い出にしたくないから あなたとのことは一切 日記に書かず

もう少しきれいだったら心配はしないと歌う美人歌手見る


すごいですよね、初期のこれ。字余りあり、ただの作文あり。おまけに固定電話に美人歌手って昭和感たっぷりじゃないですか?でもね、一生懸命だったんです。懐かしいな。



『↗︎ 』


カラシ色 君に似合うと決めていた 初めてのシャツほらねと思う

ざるそばが おいしいだけでうれしくて モトハスヌマという君の街

ホッとした途端に気づく空腹に君の言葉は魔法と思う

一緒だと世界はこんなにも素敵 たとえばコハダがおいしいだとか


よかった。ところどころに ちゃんとしあわせな歌もある。なんか食べ物のことが多いですね。食いしんぼうか。

あー、サンタさん、やっぱり寒そう。冷えてきたからココア入れますね。アロハでココア、なんかのキャッチコピーにならないかな。アロハでココア、ココアでアハハ、とか。ダメ?やっぱり。あの、前に沖縄に行ったとき、タクシーの運転手さんがアロハシャツ着てて。わあ沖縄ってすごいって思ったんです。自由な雰囲気も、ゆっくり時間が過ぎていくような感覚も。アハハ、大抵のことはなんくるないさー、ってその時教えてもらったんですよね。ん?サンタさん、あの時の運転手さんだったりして?まさかね。

うわぁ、出てくる出てくる、小さな下り坂がいっぱいだ。



『↘︎ 』


大阪の土地の愛する男ゆえ「ようわからんけどかまへんちゃうか」

「君の夢」という名の新種 ”アメリカの土で5年” が栽培基準

いつだって疑問だらけの吾の心 俺は知ってるからって何を?

そっけない返事に気づく 今 君が過ごす空間こそが一番

君の持つ優しさという残酷さ 今日は来るなと言えばいいのに

この夜にブルーはいらぬ 体ごと痺れさせてよ黄色いワサビ

乙女座は蟹座と似合う 結局は人魚姫しか選べぬ さかな

合鍵を100個作って誰にでも配りたくなる 馬鹿だと思う

言い訳も嘘もいらない 欲しいのは私でなくてはならぬ理由


20代も30代も40代も晴れたりくもったりずぶ濡れになったりの繰り返し。でもやっと、全部ひっくるめてアハハって笑えるようになりました。え? 今ですか? 最近はうまく自分の心と折り合いをつけて大事な人たちに寄り添えるようになったと思います。小さなアップダウンは相変わらずですけど、歩きやすい道が続くよりいいかなと思っているんだから仕方ないですよね。結局 自分でデコボコ道を選んでいるんだから。

ごめんなさい、ずいぶん引き留めちゃいました。ココア、飲めました? よかった。あったかくなったでしょう。アロハでココア、ココアでアハハ、しつこい? ですよね、すみません。でもおかげでちょっと楽しくなってきました。


それでね、サンタさん、プレゼントなんですけど。
私、決めました。

深紅のリボンにします。ベルベットのゴージャスな感じの。なにに使うのかって?そんなのまだわかりませんよ。大切ななにかにかけたいんですけど、今はまだ私、しあわせの途中にいるんで。でもクリスマスだし、アロハだけど本物のサンタさんだし、せっかくだから赤いものをもらっておこうかなって。いつでも使えるようにすぐ取り出せるところにしまっておきますね。そう、お守り。


で、サンタさん、この展開ですけど。

やっぱりこれって夢なんですよね?目が覚めると枕元に素敵なリボンが置いてあって、息子になんでリボンだけ?って、つっこまれるとか。

ああ、それも十分しあわせだなあ。



***

それでも。

願わくばもう少し欲張りたい2022年のクリスマス。

今年、満面の笑みで過ごす人も、笑顔は積立貯金中です、という人も。大人も子供もみんながサンタさんに出会えたらいいですね。そして会えたら、ちゃんとプレゼントをもらってほしいな。今、手に入れたからといってすぐに使わなくてもいいんですもん。

どんなときも、いくつになっても、思いっきり笑えない時間は多分、”しあわせの途中” にいるから。そう思っている限り、しあわせはなくならないし、寝かせているうちに倍に膨らんだりすることだってあるかもしれない。

なんて、自分に言い聞かせてたりして。


飛び込んで 飲み込んで 今ここに立つ いつかどこかに たどり着くため


寒い夜はココアでアハハ。
大抵のことは、なんくるないさー。

どなたにとっても素敵なクリスマスになりますように☆





*こちらに参加しています*

七海さん、今年も素敵な企画をありがとうございます。
すぐに手を挙げられなくてごめんなさい。書けるかどうか不安で、ぐずぐずしていました。

誰もが楽しめるものを書くというのは難しくて、結局は自分のための文章になってしまったけれど、誰か1人でも心が軽くなったと思ってくださる方がいたらうれしいです。なんだ、こんな人でも数年後は笑ってるじゃん、とか。

*

イブまであと9日。

思いの詰まったカレンダーはまだまだ続きます。
ぜひ最後までご一緒に。私もゆっくり読ませていただきます。

今年も参加させていただき、ありがとうございました。

長い文章を最後まで読んでくださったみなさまに感謝を込めて。

2022.12.15 suzuco




届けていただく声に支えられ、書き続けています。 スキを、サポートを、本当にありがとうございます。