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なんでアイツの名前が?からの幸せな勘違い

体育館の入口でざわついている男子。
不思議そうにこっちを見てる。
わかってる、わかってるって。

「なんでアイツの名前が?」でしょ。


学校集会で校内マラソン大会の成績発表があった日、学年ごとに男女50位までの名前が体育館に貼り出された。ギリギリ滑り込んだような順位だったけれど、そこには私の名前も入っていて、それが彼らを小さく混乱させたらしい。一緒に喜んでくれる友達とクラスの列に並ぶ。こちらを見ている男子の声が聞こえてきそうで思わず下を向いてしまった。恥ずかしい。頑張った結果なのに恥ずかしい。スポーツで褒められたことのない人間というのはこういう時に困ってしまうのだ。

あれは小学2年生だったか。マラソン大会で最後から3番目だったことがある。歩道で見守るお母さんたちの拍手を受け、泣きながら先生と一緒にゴールを目指した記憶。逆上がりに続いて、私の苦手がまた増えた瞬間だった。


そんな私でもなぜか体を動かすことは好きだった。だから中学でも高校でも運動部に入ったし、ダイエット方法にも走ることを選んだ。高校の近くには海があって、部活前のランニングコースが海岸との往復になることもしばしば。そんな時は潮風を浴びながら気持ちよく走って…なんていうのは嘘で、先輩のイジメにも似たしごきが辛かったという話なんだけれど、振り返ればそういう積み重ねがいつしか走ることへの苦手意識を消し去ってくれたのかもしれない。

大会当日、直前までの緊張は走り出した途端に消え、私はゴール付近までパワーを残したまま走り続けていた。コースは部活の練習ルートとほとんど同じ。嘘みたいに体が軽い。短距離では全くかなわないあの子もあの子も、残りの数メートルで抜くことができた。すごい、奇跡だ、奇跡。


跳び箱が飛べなくても、はやぶさができなくても、平均台から落っこちても、体育の時間を完全に嫌いにならずにすんだのはマラソンのおかげだった。


ーーー


「なんでアイツの名前が?」からの勘違い。
あの日から私は、走ることが好きだと思っている。

速くは走れないし、長すぎる距離は無理かもしれないし、
途中にハードルなんかがあったら間違いなく飛べないけれど。


でも、好きなことを考えながら走る時、
おでこに当たる風は優しく、頬を伝わる汗は清々しい。

今日は走ったからスイーツいっちゃっていいよね!
なんて、自分を甘やかせるところも気に入っている。


高校卒業から30年あまり。
あの時はビックリしたといまだにからかわれるけれど、
すっかり中年になった男性陣よりも、
私の方が長く走れるような気がしてしまうんだ。
また笑われそうだから言わないけど。


自分の歩幅で自分のペースで。

そんな風に走れたらいい。
そんな風に生きられたらいい。


リフティング練習中の息子を横目で見ながら公園を走る日曜日。
幸せな勘違いはきっとこれからも続いていく。



***

こちらの企画に参加させていただきます。

懐かしい記憶を引っ張り出して眺めてみたら、不得手だからこそ味わえる小さな幸せもあるんだな、なんて思えました。素敵な機会をいただき、ありがとうございました。





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