レコードの針の進化と歴史
2010年以降レコードの生産枚数が右肩上がりで、2022年には200万枚を超えたそうです。中高年の皆さんにはレコードの音の良さが再認識され、また若い人たちには大きなジャケットが大変な人気の様です。嬉しい話ですね。
ところで、レコード盤に針を落としてなぞると、なぜ音がでるのでしょう? そこには精密加工のなせる技がたくさんあるようです。
レコードの溝から音を取り出す針とカートリッジの老舗、ナガオカの記事が、JASジャーナル2023冬号に載っていますので、ご紹介します。
概要
ナガオカ(1940年創業)は、世界シェア90%以上の金属ダイヤモンド接合針(メタルボンデットスタイラス)を製造し、レコード針からカートリッジの完成品までを一貫生産できる、世界的にも数少ない精密加工メーカーです。
レコード針の進化
レコード針の材質や形状は、レコード盤と共に進化してきました。まずはその歴史から見ていきましょう。
蓄音機で聴くSP盤は、シェラック=カイガラムシが分泌する虫体被覆物を精製して得られる樹脂で作られ、屋根瓦のように重く、割れやすいものでした。そのSP盤用の針として、鉄針・竹針・ソーン針(大型のサボテンの針)がありました。ソーン針は音の面で人気があったようですが、のちにワシントン条約のため入手困難になりました。
1948年にLP盤、翌年1949年にはEP盤が登場し、レコード盤の材質も硬質塩化ビニールに変わり、安定剤や静電気防止剤などが入るようになりました。これにより、レコード盤とレコード針によるスクラッチノイズが減って、より原音に忠実な再生が出来るようになり、特に宝石針の良さが一般に認められるようになりました。
ナガオカは、1947年にはサファイヤ蓄針(形状は鉄針と同じ細い金属棒の先端に研磨されたサファイヤチップが埋め込まれた針)の市販にいち早く着手します。
1956年にいよいよ最も堅い宝石ダイヤモンドに挑戦することになります。
当初、ダイヤモンドの加工研磨は容易ではありませんでした。米粒の様なダイヤモンドにダイヤモンドの刃物を使い、共摺りで先端に丸みをつけて、やっと1本のダイヤモンド針(チップ)が出来上がります。1人の作業員が1日掛けて1本もできない日もあったそうです。
そこでダイヤモンド針の溶着工程の専門的研究が行われ、1960年直径0.3ミリ~0.35ミリの小さなダイヤモンド粒を金属棒に溶着するという難題を解決し、安定した強度を持つ溶着に成功しました。これによりダイヤモンド針の原価は最初のブロックダイヤ針に比べて大幅に低減することができ、一般の方々に幅広くダイヤモンド針を用いて音楽を楽しんでいただけるようになりました。
針先形状
ナガオカでは現在、接合針の針先形状として丸針と楕円針を製造しています。針先形状はレコード再生にかなり影響します。
丸針はその名の通り、先端の形状が丸く、ステレオ再生針の標準形であり、一般的に多くのメーカーで採用されています。低音再生力が特に良く、安定した再生ができます。
楕円針は丸針を両側から削り、さらに角を丸めた形状で、丸針に比べて音の歪みがかなり減少し、高域の再生能力が特に優れています。ただし単位面積に及ぼす圧力も増大してしまうため、針の寿命は短くなります。極小の丸針の2面を削って楕円を作るのですが、驚くことにこの楕円針の全てが手作業で作られているのです。また、ナガオカのレコード針を作る機械類も自社設計自社製造で、他には販売されておりません。まさに全てが職人技です。