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『オナ禁論』の道⑥

序章メモ③

まだメモ段階なので、出典等は明記していないものが大半である。もし、仮にオナ禁の研究に関心があるという方がいる場合は、ここに書かれた内容を参考にするのもよいが、まずは自力で資料にあたってみてほしい。

前回「0.1.3 形成過程の概観」の途中までだった。2ちゃんねるのスレッドを例に、オナ禁がどのように形成されていったかを見てきた。

「ルール」と「階級表」に変化が見られること、それに加えて、「効果」という項目が出現し、それがいかにオナ禁において重要な位置を占めるようになっていくかを今回は見ていきたい。

今回の話を聞けば、オナ禁研究においてなぜ「効果」に着目するのかが分かってくるはずだ。

3.「効果」の出現と地位上昇

(1)テンプレートにおける「効果」の出現とその位置

2004年1月6日の投稿で、「オナ禁って何かメリットってあるんですか?」(パート13 No.173)という質問に対し、「オナ禁の効果」が「美容版」から参照(コピペ)されて回答されており(No.174)、「次スレからは『本当かどうか分からないけれど>>174のような効果があります』と(あくまで)参考としてテンプレに入れてみては」(No.175)という提案がされている。

この提案は次のスレッドのテンプレートに反映はされなかったが、パート18のスレッドの冒頭のコメント(No.1)に「ひょっとしたら禁オナ効果があるかもしれませんよ」という文言が現れる。2004年にはすでに、「禁オナニーマラソン続けましょう」のスレッドにおいて「効果」への関心が広がりつつあることがわかる。

また、同じくパート13では、外部サイトである「手淫禁止HP」へのURLをテンプレートに加えるよう提案もされており(No.929)、パート14から63までの間、テンプレートに「手淫禁止HP」のURLが記載された。このサイトには、後述するように参加者から報告された「声」をまとめたページや、「効果」が箇条書きになったページが作成されている。

このような経緯を経て、2005年5月のスレッドから、「効果」がテンプレートとして表示されるようになる(パート25~154, 新・1杯目~3杯目)。この「効果」は当初「手淫禁止HP」からの引用であったが、パート33以降は「くそ丸」というハンドルネームの男性による個人サイト(後述)が詳しい解説先として紹介されるようになった(パート33~154)。

また、テンプレートの順番に着目すると、「禁オナの効果」が出現以来その位置を少しずつ上げていることが分かる。具体的には「ルール→階級表→効果」という順番でレスが書き分けられていた(パート25~59, 67)が「ルール→効果→階級表」(パート60~66, 68~119)を経て、「ルール+効果→階級表」(パート120~154)のように、ついには「ルール」と「効果」は同じレス(No.1)に書かれるようになる。

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(パート1からみたときのテンプレートの要素の位置。「効果」をオレンジで色づけした。)

(2)外部参照サイトの影響力

「効果」の地位上昇には、特に2004年2月から2005年2月にかけて禁オナニーマラソンを支えた先述の「手淫禁止HP」における体験談の蓄積と、2005年10月以降はこれに代わる「くそ丸(のち空僧丸に改名)」による個人サイトが大きく影響している。これらを併せて観察することで、オナ禁における「効果」が「日数」とともに語られるようになった過程を概観することができる。

2004年4月から2005年1月にかけての10か月間は、「手淫禁止HP」に月別の「喜びの声:体験者は語る」というページが作成され、様々な板の禁オナニーマラソン参加者がスレッドに投稿した「喜びの声」がまとめられた。

このサイトは、2ちゃんねるの主要な禁オナニーマラソンのスレッドに参加している者のランキングを集計している。各スレッドの「ルール」では、集計の便宜を図ってハンドルネームに「日数」(「○日目」や「〇日経過」など)を付記するよう求められているが、そのような報告の形式が「喜びの声」の集積において重要な機能を果たしていると思われる。

なぜなら、「声」だけを集める際にも、「誰が語った体験か」を明確にするためにハンドルネームと紐づけられるが、それによってハンドルネームに付記されている「日数」も同時に情報として集められるからだ。かくして、「日数」と「効果」が1つのセットとなり、一目で見られるかたちでまとめ直されたのが「喜びの声」なのである。

このようにして集積した「日数」と「効果」のセットは、「○日目~△日目の効果」というかたちで再びまとめられることになる。2009年にはこのかたちでのテンプレートが2ちゃんねるのスレッドでは流通するようになる(「オナ禁でネクストレベルを目指すスレ」No. 785(2009年11月5日)下図参照)。2010年代前半に作成されたと推定される「オナ禁.jp」に記載される「効果」もこのタイプである。

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2005年10月以降は、「くそ丸」による個人サイト「自己改善により毎日を大切に生きる」でまとめられた、期間ごとの「効果」が2ちゃんねるのスレッドで影響力をもつ。この個人サイトは、後述する自己変革系オナ禁の代表例である「オナ禁.jp」というサイトにも明示的に紹介される。

先の「禁オナニーマラソン続けましょう」では、パート32(2005年10月13日~23日)以降、パート154(2015年11月6日~2016年7月20日)までのテンプレートに記されていた。「上級士官・くそ丸氏によるオナ禁ページ」として紹介されたのち(「パート32」)、「禁オナの効果」が「くそ丸氏のホームページに更に詳しい詳細あり」と参照URLが示されるようになる(パート33 No.6)。

同氏のウェブサイトは、削除されその多くが見られなくなっている。当時は「自分のスペックを格段に上げる(仮)」(http://light.kakiko.com/sionta/index.html)といった名称が考案され、公開されていたが、現在はリンク切れとなっている(「禁煙ならぬ、禁オナニーマラソンしません? Part42」No.808)。

現在も残されている部分で確認できる限りでは、333日目までの記録が簡潔にまとめられている。そこでは、「1日-10日」「10日-20日」「20日-30日」「30日―50日」「50日-70日」「70日-80日」「80日-90日」「90日-100日」「100日-110日」「110日-120日」「120日-130日」「130日-140日」「140日-150日」「150日―160日」「180日-210日」「200日-220日」「230日-250日」「250日-300日」「300-327日」「327-333日」という日数の区分で「効果」が整理されている。先のタイプ(上図)と比較すると、①70日までの日数の区分はまったく同じであり、②各区分での「効果」には細かな差異はあるが多くの点で共通しており、③30日から50日の間に「スーパーサイヤ人効果」と呼ばれる状態を経験するという点でも共通している。

出現時期からすると、同氏のウェブサイト上の報告のほうが4年ほど早いことになるので、むしろこちらでの区分が「日数」と「効果」のまとめ上げに影響力を及ぼして、先のタイプの区分につながっている可能性が考えられる。ただし、本論はオナ禁の成立過程を詳細に追うことを目的としていないので、ここでは2000年代後半の時点で「日数」と「効果」が結びついて語られるようになっていることを確認するにとどめておく。

付け加えておくと、2ちゃんねるのスレッド名で「オナ禁」と「効果」が同時に出現するようになるのは、「オナ禁」という言葉が単体で用いられるスレッドよりもやや遅れてである。再び、レスポンス数が800/1000を超えるスレッドの数を見てみると、2008年から2017年にかけて、30件前後のスレッドが継続して現れていることがわかる。このことからも、オナ禁がその「効果」とともに語られるようになってきたといえるだろう。オナ禁を研究対象とする際に、「効果」を手がかりとすることには必然性があるように思われる。

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(2ちゃんねるにおいて「オナ禁」と「効果」がスレッド名にともに出現するのは、「手淫禁止HP」や「くそ丸」の個人サイトがスレッドで「禁オナの効果」を伝えるようになった後の2007年以降に数を伸ばしてゆくことが明らかである。)

もちろん、電子掲示板以外にも、ブログやネットニュースなどの他のウェブサイト、YouTubeなどの動画投稿サイトや電子書籍、Twitterをはじめとするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、果てはオナ禁専門の特設ウェブサイトに至るまで、インターネット上には大量の「オナ禁」語りがあり、その全てにあたることは時間的・能力的に不可能である。

そこで、次に行う作業では、オナ禁研究を始めるにあたり、この「オナ禁」がどのようなものとして語られているか、そのレパートリーを大まかに把握する。それにより、この言葉によってとらえられている実践の広がりと、いかにこの言葉が「効果」とともに語られているかを理解することができるはずである。

「0.1 「オナ禁」という不可解な現象」はここまで

ざっくりと、こんな具合で序章での簡単な分析を進めているところだ。

このあと、語られ方のレパートリーを示し、海外の類似現象(NoFap)に言及した上で、「このオナ禁という現象を、社会学においてどのように理解することができるか」という理論的な整理と、「具体的にどのような視点で分析していくか」という方法論の検討へと展開してゆく予定である。

研究室での報告会もおわり、もう少し理論面での整理と、それに合わせて方法論の検討をし直さなければならないので、以降の更新はまた間が空きそうだ。

ただ、ここまでで示したように、オナ禁研究において「効果」に着目することは不可欠だろうと思うし、感じとってもらえたのではないかと思う。今後の執筆作業に乞うご期待。

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