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『オナ禁論』の道⑤

昨日の投稿の続き。

序章メモ②

(再記)まだメモ段階なので、出典等は明記していないものが大半である。もし、仮にオナ禁の研究に関心があるという方がいる場合は、ここに書かれた内容を参考にするのもよいが、まずは自力で資料にあたってみてほしい。

序章をひとまず「0章」として、0.1節でまず、「オナ禁」が不可解にもこれまで20年間続いてきた現象であることを述べていく。

前回は、インターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」で出現、流通しはじめた「オナ禁」関連スレッド数を大まかに把握した。

0.1.3 形成過程の概観

以下では、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のスレッドの簡単な観察から見出せる「ルール」「日数」「効果」の関係、さらに「効果」への焦点化の過程について記述する。

具体的には、まず、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のオナ禁スレッドで最も歴史のあるスレッド「禁オナニーマラソン始めましょう/続けましょう」(2001年12月23日~現在まで)の157スレッド(パート1~154と、これに続く「新■禁オナニーマラソン続けましょう」の1杯目~3杯目)を観察した。基本的な情報とともに、そこで見い出せた興味深いポイントを整理する:

・ このスレッドは、「身体・健康」カテゴリの板として始められた。

・ 各スレッド冒頭の数コメントには、テンプレートと呼ばれる慣例的に記載される定型文がある。このテンプレートは、基本的にはスレッドへの参加者が新しくスレッドを立てる際に過去のものを参照(コピペ)して作成することが多いが、20年の間にたびたび改変されてもいる。

・ テンプレートには、途中から出現したものも含めて「ルール」「階級表」「禁オナの効果」「過去スレ」「追加事項」がある。

・ 「ルール」と「階級表」は、先行する他のスレッド(「独身男性」カテゴリの板で2000年9月3日に始まった「禁煙マラソンならぬ、禁オナニーマラソンしません?」)を参照して最初から設定されていた

 - 「ルール」は「最後のオナニーから24時間で一日経過」「名前欄に(何日目)と記入する(例:「ひろゆき(3日目)」「ひろゆき(リセット)」)」「夢精は可」の3項目からなる。

 - この3項目は、それぞれ(1)計測・集計上のルール、(2)記入上のルール、(3)射精にかかわるルールとして、以後変更が加えられてゆく(後述)。

 - 「階級表」は、「禁煙ならぬ、禁オナニーマラソンしません?Part9」で2001年12月16日に提案されたひな形(No.681)が参照されている(下図)。

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・ 以下では、これら2つの要素への改変だけでなく、「禁オナの効果」の出現とそれが「ルール」と「階級表」とに対してもった位置関係をやや丁寧に追っておこう。

1.「ルール」の改変

(1)計測・集計上のルール

パート17から37にかけて、厳密さへの志向が明確に現れている。「経過」と「日目(にちめ)」の厳密な区別がパート17でなされ、これ以降は「日目」表記の際の具体例が詳細に記される。

パート28以降は、日付の表記のパターンとして「経過」と「日目」のいずれかを用いることが求められている。さらに、パート37以降はこれら2種類の表記法のうち「経過」を用いることが推奨されるようになる。これは、後述する「階級表」が基本的に「経過」の記載に準じて設けられており、集計において統一性をもたせるためだと考えられる。

また、パート66以降はオナニーをすることに対して「リセット」と「リタイア」の区別をし、参加者にどちらであるかの記入を求めている。前者であれば集計の対象となるし、後者ならば集計から除外されるので、これも集計の便宜を図るために設けられたルールだといえよう。

パート25以降は、「リセット」時の日数を並記することが推奨されるが、それは「望ましい」から「していただけると嬉しい」(パート28)という呼びかけ、さらに「ご協力よろしくお願いします」(パート37以降)という要望に変化する。

以上を可視化したのが以下の表となる(小さくて見づらい)。変更になったパートの文言を赤字で表記している。以下(2)、(3)でも同じ。

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(2)記入上のルール

3つの主要項目のなかでは最も変化の少ない項目である。パート66になって「コテハン(=固定ハンドルネーム)」を名前に記入することが定められたことや、パート3から「年齢」を任意で記入することが勧められたほかは、基本的にパート1からのルールを踏襲している。

ただし、パート3の記入例ですでに「何日目」から「何日経過」を採用していることから、第一のルールで重視されていた厳密な計測が進められていたことがうかがえる。

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(3)射精にかかわるルール

パート3までの間で、「夢精」「寸止め」「オナニー」「セックス」について言及される。他の2項目についてのルールと比べても、これらの事項についてはいち早く整備されたことが明らかである。

パート9までは、これらの行為はいずれも許容されていた。ただし「寸止め」に限り、パート2の時点で「体に悪いらしいので出来る限り控えましょう」と呼びかけられる。このことから、パート9までは「体にとって良いか悪いか」という基準のもと、「寸止め」だけが制限の対象となったようである。

厳格化するのはパート10からで、射精の有無にかかわらずオナニーとセックスは禁止事項となる。パート17以降は「当然寸止めもNG!」と追加で明記されるようになる。さらにパート25から37にかけては、この厳格さが「本板のルール」であることを強調し、「難しいようなら、他所の板への移転を勧めます」と、参加者の選別を強化している。現実に射精に至っていなくとも、射精につながるあらゆる行為が制限されるようになる。

しかし、セックスに関しては途中で「セックスもリセット扱いになります。(でも、彼女との愛も大切にしましょう。)」(パート66)となり、「快楽目的のセックスもリセット扱いになります。(でも、彼女との愛も大切にしましょう。)」(新・1杯目)へと変化する。パート66から154までは、「リセット」となることには変わりないが、禁止事項とされている他の行為と違って、「彼女との愛」が「ルール」の外にある重要な価値として認識されている。新・1杯目になると、快楽を目的としないセックスは許容されることになる。セックスに対する規制は、禁オナニーマラソンにおいて緩和される傾向にある

また、夢精については基本的に許容されているが、参加者の判断に任せるようになっている。「夢精は可」(パート1~38)から、「参加者の自由意志に委ねています」(パート39~68)を経て、「不可抗力の部分も大きいので、参加者の自由意志に委ねています」(パート69~154)へと文言が書き換えられてゆく(傍点はいずれも引用者)。夢精を「リセット」の対象とみなすか否かは参加者次第であり、それは夢精が「不可抗力」によって生じることが多いからだ、というわけである。

※ 夢精に関しては2006年6月のスレッドで「問題ない」というコメントが付記されるようになる。

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2.「階級表」の改変

「階級表」には、「ルール」ほど頻繁な変更は見られなかった。パート7で1か月以上継続している参加者の称号が整備し直され、パート33から154までは、1年を超す継続期間を「3年以上」まで表せる階級表となった。

 注目すべきは、用いられている中心的な階級が軍のそれであるということである。「オナ禁=性欲との戦い」や「同じ時間を共にして我慢する」という認識が、戦争のメタファーを使用することに繋がっているのではないか。

また、パート33から154にかけては、軍の階級の上に、「皇帝」「教皇」「天使」「神」という位がつけ加えられる。ここまでくると単なる遊び心で付け加えられているようにみえるが、軍の最高位(人間)<世俗の最高位(人間)<聖職の最高位(人間)<聖なる存在(非人間)<絶対的な存在(非人間)という順で並べられていることから、オナ禁の日数が1年を超すということに対して、常人の域を超えて聖なるものに、さらに人ではない存在に近づいてゆくというイメージが与えられていることだけ確認しておこう。

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しかしながら、長期間にわたってテンプレートに使用された「階級表」も、「新■禁オナニーマラソン続けましょう」に入るタイミングで破棄され、「100日目~」を上限とするものに変更された。それだけでなく、「新■禁オナニーマラソン続けましょう 3杯目」では「階級表」自体が引き継がれなくなり、テンプレートから姿を消す。「効果」の位置づけが高まってゆく(後述)のとは対照的に、「階級表」はその意義を失っていったと考えられる。

続きは長いのでまた明日...

明日、「効果」の出現とその地位上昇が「禁オナニーマラソン続けましょう」のスレッドからどのように見てとれるか、分析の続きを投稿したい。

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