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『オナ禁論』の道①

2週間ほど前に、3月末には一度進捗を報告すると宣言したので、第一弾の報告を行いたい。

物理的な進捗

・2月26日ころから関連論文・文献をコンスタントに読み始めた。
・文献リストは88本。今後も随時更新予定
・現在13本目。
・分析対象としている資料数は174。すべてkindle本。
・現在通読したのは19。
・本文は書いていない。
・アウトラインは作成しており、逐一書き足している。

以下、修論の本文に書き加えられるようなメモ書きを構成していこうと思う

議論の前提をつくるための柔らかい問答

1.そもそも「オナ禁」とは何か?

日本で用いられている言葉で、自発的にマスターベーション(オナニー)を禁じる行為として、主に男性の間で流通している。マスターベーションで性的絶頂(=射精)を得ることを禁じる行為なので、ポルノグラフィーの視聴は禁じるがマスターベーションや射精は必ずしも禁じていない海外(欧米圏)での"NoFap"とはやや異なる。

実践にはルールがあり、期間や禁止行為に関して、いくつかのバリエーションがある。これら根拠は、次項の「効果」と関連づけて主張されることが多い。

期間に関しては、1週間に1回、定期的な射精を行うものと、1か月以上オナ禁を行うものが代表的。

禁止行為に関しては、「エロ(=オナニーはしないがポルノグラフィーは観る、といった行為)の禁止」、「汁遊び(=射精までは至らずに、性器を刺激して性的興奮を得る行為)の禁止」などが付加されることがある。なお、夢精を禁止するかどうかについては、上2つほど厳格に禁止されていない場合が多い。

自らの目標・ルールを破ってしまった場合、つまりオナ禁を解除してしまうことを「リセット」と呼ぶことが定着している。また、「オナニーが習慣化している男」に対して「オナ猿」という名称が用いられる。これはオナ禁実践者が差別化のために用いるほか、実践する前の自らの状態や姿を表現する際に用いることが多い。

2.オナ禁の「効果」とはどのようなものか?

短期間(1週間~10日)で表れる効果には、抜け毛が減る、ひげが薄くなる、目覚めがよくなる、肌の質が向上するなどが挙げられることが多い。

長期間(1か月~半年)で表れる効果には、行動力が増す、異性の友人が増える、思考が前向きになる、目に力が宿る、髪質がよくなる、筋肉がつく、身体から良い匂いがするようになる、運がよくなる、女性にモテるようになる、などがある。

長期オナ禁に取り組んでいる実践者は、長期間のオナ禁の実践で得られる効果が劇的かつ魅力的であることを理由にしていることが多い。長期オナ禁に取り組む者の成功談(kindleで読むことができるもの)には、「人生が変わった」といった表現が頻出する。

議論を進めるための土台の知識

・現状、国内の研究で「オナ禁」という用語が使われているもの、この現象に焦点を当てたものは見つかっていない。(←リサーチが足りていない可能性がある)

・海外では、ポルノグラフィーを断つ(マスターベーションをする際にポルノグラフィーを見るのをやめる)ことを、"NoFap"という言葉で表していて、これを目的としたオンラインコミュニティの研究や、理念を説明したYoutube動画を対象とした分析は行われている。

※ 代表的なものは、現状では以下の2つ。前者は社会心理学者、後者は社会学者による研究であり、いずれも言説分析の手法をとっている。
Taylor, K., & Jackson, S., 2018, “‘I want that power back’: Discourses of masculinity within an online pornography abstinence forum.” Sexualities. 21(4): 621-639.
Marlene Hartmann, 2021, “The totalizing meritocracy of heterosex: Subjectivity in NoFap.” Sexualities. 24(3): 409-30.

・「マスターベーション」「ポルノグラフィー」「オルガズム」が混合して問題視されている。

・たとえば、ポルノグラフィーの問題化の歴史について。これは約半世紀前に高まった。フェミニズムによる批判が当時は主流だったが、アメリカ合衆国では1986年のミーズ委員会などに代表されるように、ポルノグラフィー依存〔嗜癖〕=病理としての認識が形作られていく。逸脱が医療化されてゆく過程にポルノグラフィーも結びついていくことで、問題化の文脈はフェミニズムとは分離していく。(Taylor, 2019)

・このように、最近の海外の研究ではポルノグラフィーが依存〔嗜癖〕=病理と結びついて問題化されているが、こうした傾向は日本のオナ禁の語りではクローズアップされない。むしろ、オナ禁をすることによる積極的な効果が前面に押し出される。

※ もちろん、海外の研究でもポルノ断ち(abstinence from pornography)による効果が注目されている(Fernandez et al., 2020)。しかし、ポルノ断ちという行為の前には、ポルノ依存〔嗜癖〕を問題視することが前提にある。その意味で日本のオナ禁は、実践者たちの中で「自己啓発」と表現されているように、「病理からの回復としてのオナ禁」ではないのではないかと考えられる。

次の目標は?

・海外の関連文献を読むところからスタートしたが、「日本のオナ禁となんか違うぞ??」と感じる背景状況が浮かび上がってきている。

・日本と海外の比較が目的ではなく、「オナ禁が実践され、推奨される場で用いられている知/知識が、どのような経路で構成され、流通しているのか」を明らかにすることが修論での目的になると思う。

・目的が絞れてきたので、方法としてはTaylor(2019)の研究が用いているイアン・ハッキングの動的唯名論の考え方や、批判的言説分析を通して知識の出どころを探っていく方法が、有効なのではないかと考えている。

・4月末までに論文は25本までは、資料は60本までは読み進める。

・今日、これまでのメモ書きやアウトラインから一部掘り下げて書いてみたが、すでに先行研究の整理がおぼつかなくなっている。これまで1か月ほど「読む」に専念してきたが、「書く」作業も少しずつ増やしていく必要がある。

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