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バンド活動7 空回りするような感覚

今ほどネットやSNSが発達していなかった2000年代、僕たちは音楽での夢を見ていたんだ。

手探りで、効率の悪いやり方で。

そんなお話。


全国ツアーを自前でやる。

そんな大ぶろしきを広げたこのバンド。僕の意思は入っていないからバンドとあえて書く。

自分たちで撮影した宣材写真と、新しい音源と、直近のライブ予定を書いたポスターをたずさえて、全国ツアーに出発した。

どこからその金を用意すればいいんだ・・・。

まだ、バンドとして黒字のライブなんてしたことないだろう?

そんなもやもやを抱えた僕を乗せて、機材車は進む。(スタッフもついてきてくれた)

全国ツアーといっても、関東から九州の小さめのハコを回る形だ。

さいわい、全国のツアーバンドに顔が効いていたおかげでいろんなところを回ることができた。


社長が”バンドごっこ”をやっていると思った明確な出来事があった。

絶対に炊飯器を持っていく!ことだった。

全国ツアーというものは炊飯器。なのだそう。

ライブの実力はあったのに(初めての土地でモッシュが起こったりもした)その変な全国ツアーごっこに、僕はヘドが出るなと思った。


ツアーも中盤を迎えた、とある土地でショウがこのバンドを辞めたい。と言い出した。

おカネの面で迷惑をかけていた僕は、極力メンバーと真剣に向き合うことをしなくなっていった。目線も合わさなかった。

そのせいで、ショウは一人でこのバンドの未来を見据えて悲観したようだ。自分が表現したい音楽ができない今の状態ではしょうがない。

僕個人、楽になりたいのもあって、了承した。

走りすぎたんだ。その全力疾走に体と精神がついていけない。

でも、ショウとは形を変えてでも、つきあっていきたいなとは思っていた。

社長も、ショウがいなくなれば意味はないからということで了承。(ホント、極悪人みたいなやっちゃな。友達は多いんだけどね)

初の全国ツアーが解散ツアーか。笑けるな。

と、思っていたら・・・。

「思い通りになってたまるか!!!」

なんでもショウは止めてくれると思っていたらしく、びっくりしたそうだ。

謎の反骨精神である。


いろいろありながら全国ツアーは終わった。成功とも失敗とも思わない。

CDもそこそこ売れたし、知らない土地での手探り感、仲間バンドのホームでやるのもうれしかった。

これは、やった人間でしかわからないし、”経験”という意味では、バンドを成長させるイベントであることも確かだ。


だが、”求められて”行く、

”求められてないのに”行く

意味合いが違ってくる。

地元から離れた土地に一人のファンを作ったって、地元のライブくるのか?そもそも、高速代を払って赤字ツアーして、一体全体きみは観光しに行くのかい?社長よ。

いいライブをするバンドは、まず地元で一番を取るんじゃないのか?地元でほかのバンドに埋もれているのに、なぜ東京で花が咲くと思える?

ここでも、社長と意見の相違が顕著に出始めた。

しかし、このバンドのイニシアチブを握られているこの状況では、こちらがマイノリティなのである。

余談だが、GREEN DAYで一番好きなアルバムはMINORITYだ。あの、独特な空気感は最高である。余談だが。


全国ツアーをやったことで、県外(特に東京)に目を向けるようになったバンド。いや、社長。


ひどいときは3カ月連続で東京のライブハウスに出張っていた。自ら行くものだから、ノルマも発生する。

ぼくはここで、一度破綻をきたす。財布の中に100円しかない状態でどうやって行くというのだ。

明日が東京ライブだってのに。

金銭管理が下手なのは自分でもわかるが、そういう風に持って行ったのはどこのドイツだと人のせいにすることにした。

もういっそ、蒸発するか楽になるか。

そう思い、連絡を絶った。

しばらくして、練習に来なかった僕の実家に来るメンバー。結局、親に借りて東京に行った。

自分を苦しめるだけのバンドなんて、必要ないな。

そうおもい、脱退の意思を固め始めた僕。


しかし、それと反比例するかのように成長するバンド。

新曲はバンバン出るほどでもないが、それでもショウの作る曲はやっぱり違う。

ショウ自身が相手に対して

「これはこう思うから、君は間違っていないと思うよ。でも、君自身は君が一番よくわかっているんだから、自分を信じて。自分を信じると書いて自信だろ?」

という、真顔で言われた赤面モノの(失礼っ!)いい曲を書くんだ。


いいライブをするバンドというものは、ライブハウス全体を、客を、自分の支配下に置く。

客に多幸感に似たようなものを与え、共有し、バンド自らもそれに呼応する。

客が求めるものを提供するのが職業音楽家で、客と共に空間を作るのがバンド。

バンドは、バンドの成長を見せる代わりに、客は応援を惜しまない。

客はバンドの成長を、自身の成長に重ねる。

僕たちの音楽を聴いてくれた人が、例えば家族を持って環境が変わっても、サビを聴くだけであの当時の光景が呼び起こされる。

そうなってくれたら、それに勝る喜びはない。

そんな、音楽の源流の大事なところを大事にしていきたかったんだけどな。


いい音楽を作る

売れる音楽を作る

は、違うのだ。

特に、有名になるためにバンドを選んでしまう、愛すべきバカたちは焦らずに自分だけのマイウェイを歩んでほしい。

そうすればいつか花咲く。


プロモーションはお世辞にもうまくなかった僕らだが、響く人には響いていた。

たくさんのライブハウスに顔を出していたおかげで、顔が広くなり、ビッグチャンスが何度か訪れるのだ。

それを自らの選択でつぶしていく・・・。






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