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「御社にそのシステムは不要です。」の一部無料公開 - 1章(一部)-

昨日のまえがきに続き、今回は1章の前半一部分を公開させていただきます。

1章は「そのシステムは"何のため"に導入するのか?」がテーマです。
IT化は目的ではなく手段であるという基本的な考えを元にIT化で実現できる目的について書かせていただいています。

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1章 そのシステムは、”何のため"に導入するのか?
〜IT化は"目的"ではなく"手段"である〜


- 「IT化すること」が目的ではありません -

「社長、このシステム、しばらくアップデートされていないようですね」
「あ〜〜。そのシステムは使っていないんですよね......」

 お客様が使用されているシステムを初めて見せていただいたとき、しばしば交わされるのがこのやりとり。
 せっかくお金と時間をかけて作ったにもかかわらず、
 「使い方がわからない」
 「使いづらいから使わない」
などの理由で放置される、いわゆる〝野良システム〟、通称〝野良〟が、多くの会社のシステムに何食わぬ顔で存在しています。

 もったいないと思いませんか。
 使いもしない、存在すら忘れられているような〝野良〟が、いったいなぜ生まれてしまうのでしょうか?
 端的にいえば、経営課題を解決する〝手段〟でしかなかったはずの「IT化」が、 いつの間にか〝目的〟にすり替わってしまった結果なのです。

たいていの経営者は、IT化を考え始めた当初、
 「手書きの帳簿をデジタルに置き換えたい」
 「社員の業務量を平準化したい」
 「在庫数を正しく把握したい」
といった、しっかりとした課題意識を持っています。

 ところが、あれやこれやとITツールを比較検討し、さまざまな情報が入ってくるうちに、この課題意識はどこかに置き去りにされてしまいます。
 その代わりに、
 「このツールは便利そうだ」
 「このアプリが流行っているらしい」
といった、目新しさや流行り、最新技術といった点にばかり目が向くようになるのです。
 そうして、システムの利便性向上や業務の効率化といった、当初あったはずの課題などまったく解決してくれない不要なシステムを、つぎつぎに導入してしまう・・・・。
 これが、〝野良〟誕生のメカニズムというわけです。

 さて、私が本書の冒頭でこの〝野良〟についてお話ししようと思ったのには、もちろんちゃんとした理由があります。
 最近、デジタルトランスフォーメーション、いわゆる「DX」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。
 DXとは、簡単にいえば、進化し続けるデジタル技術を、人々の暮らしはもとより、企業や行政といった組織、あるいは社会そのものの仕組みの中に浸透させていくことで、根本的なところからより豊かなものに変革することです。
 世の中全体が、今、この流れに乗ろうとしています。
 2021年にはデジタル庁の新設が予定されるなど、政府もまたデジタル化の流れを後押しする姿勢を明らかにしました。

 ようするに、今後、
 「DXをやろう」
 「デジタル化に乗り遅れてはいけない」
と考える経営者がさらに増えてくるであろうことは、想像に難くないのです。
 さらにいえば、こうした発想のもとに導入されるシステムの多くは、おそらく〝野良〟となるでしょう。
 「課題解決」という首ひもが切れてしまったシステムは、〝野良〟になるしかないからです。

- その悩み、IT化で解決できます! -

 では、いったいどうすれば、〝野良〟を生み出すような失敗を回避できるのでしょうか。
 重要なのは、
 「IT化は目的ではなく、手段である」
という認識を常に持ち、
 「何のためにIT化するのか」
 「IT化で何を解決したいのか」
と、自分自身に問いかけ続けることです。

 その一方で、自社のIT化に乗り出そうとする経営者の方たちから話を伺うと、皆さんの脳裏には次のような言葉がよぎるといいます。

 「そうはいっても、課題はたくさんある」
 「そもそも、IT化で何が解決できるのかよくわからない」

 なるほど、お気持ちはよくわかります。
 デジタル技術は日々進化を続けています。
 それを専門としない方たちにとって、進化のスピードに追いつくことも、技術を理解し、システムを取捨選択して取り入れていくことも、容易ではありません。
 そもそも、IT化によって何をどうすることができるのか ---。
 まずはそこから解説を始めてみましょう。
 IT化によってできることには、大きく分類して次の3つが挙げられます。

 1.日々の業務のムダとムラをなくす
 2.リソース配置の最適化
 3.新たな事業や働き方の創出

 では、1つずつ見ていきましょう。

- IT化で実現できる目的1 -日々の業務のムダとムラをなくす

 「時間」「労力」「お金」― これこそ業務のムダになりえる3大要素です。
 IT化によって、これら3つのムダをなくすことができます。

 驚くことに、日本企業では未だに、手書きで帳簿の記入を行っているところも少なくないようです。習慣化した仕事のやり方を変えるのは難しいとはいえ、帳簿の記入などは、IT化することでかなりのムダを省くことができる典型例といえるでしょう。
 そもそも「手で書く」という作業そのものが、手間と時間がかかり非効率です。
 さらに書き手が悪筆であれば、他人には読めなかったり、ひどい場合は本人すら読み間違えたりしてしまいます。「品質(Quality)」「コスト(Cost)」「納期(Delivery)」、 いわゆるQCDのすべてが低下してしまう可能性が高いといえます。
 では、手書きで帳簿を書くといった、日常の業務をIT化したらどうなるのか?
 簡単にイメージしてみましょう。

 たとえば、仕入れた商品や来客者の数を自動で集計し、台帳に入力するシステムを導入すれば、手書きはもちろん、手入力にかかる手間と時間も削減できます。
 また、ペーパーレスで情報を管理できますから、書類を管理する手間もスペースも削減できます。誤字や記入ミス、入力ミスすらも防げます。
 これらは、「手書き、手入力の作業を効率化する」という目的をもとにして、IT 化する一例ですが、このように目的が常に明確であれば、システムを導入したあとに、
 「入力ミスがどれだけ減ったか」
 「社員の残業時間が何割減ったか」
など、IT化による効果がどれだけ得られたかを容易に数値化できます。ようするに、IT化の成否について、正しく評価することが可能になるのです。
 「IT化は手段である」とは、まさにこの点を指しています。
 経営面から見て重要なのは、「自動入力システムを導入したこと」ではありません。

 そのシステムを導入したことにより、
 「『手書き、手入力の作業を効率化する』という目的が果たせたか」

という点なのです。
 期待通りの成果が得られたなら、正しい経営判断だったといえますし、逆に効果がいまいちだったなら、別の手段を検討しなければならないでしょう。

 こうして成果を評価したり、その結果を受けて次の改善策を考えたりするためにも、
 「何のためのIT化なのか」
をあらかじめ明確にし、それを常に意識してIT化に臨むことが大事
なのです。

- 「能力差は仕方がない」のウソ -

 同じような案件なのに、個々人のスキルに差があるため、「誰が担当するか」によって、結果が変わってしまうことがあります。
 「能力差は仕方がない」と原因も探らず、対策も練らずに放置すると、仕事は自然とスキルの高い人に集中してしまいます。そうして、ある人はものすごく忙しいのに、ある人は仕事がなくてすごくヒマ、という状況ができ上がってしまうのです。
 社員の能力のムラが、忙しさのムラにつながり、最悪の場合、忙しすぎて、優秀な社員ほど辞めてしまう。
 こうした問題を解決するのにも、IT化は一役買います。
 たとえば、営業担当者によって営業トークのスキルに差があることが、それぞれの成果を左右しているという問題があったとします。原因を探った結果、各担当者を指導する先輩社員の営業トークに、そもそも能力差があったのだとわかりました。
 この問題をどうすれば解決できるでしょうか?

 1つ考えられるのは、営業トークの上手な先輩社員が、後輩たちを一手に引き受け、まとめて指導する方法です。
 しかし、この解決法は現実的ではありません。営業トークの上手な人に負担が集中してしまい、かえって〝さらなるムラ〟ができることになりかねないからです。
 その他の業務に影響が出ることも考えられます。
 そこで、IT化です。育成制度をデジタル化するのです。
 たとえば、営業トークを学ぶための教材となる動画を制作します。
 お手本となる営業トークの動画を用意することで、皆が同じレベルのものを、同じように学べる環境を作ることができます。少なくともトレーナーである先輩社員の能力差が、後輩たちの能力育成のムラにつながる事態は解消できるはずです。
 トレーニングやスキルの評価を、オンライン化するといった方法も考えられます。
 営業トークに関して、先輩社員とオンライン上でコミュニケーションをとれる環境を整えるのです。疑問や悩みがあれば、先輩社員が他業務で忙しかったり外出したりしている間にも、質問を送っておくことができます。先輩社員は空き時間に質問に目を通して、答えを送るのです。
 時間と手間が省けて効率化が図れます。

 こうした育成制度のデジタル化は、業務の属人化を防ぐことにもつながります。
 とくに営業は属人化しやすい職種の1つです。
 担当者個々人が独自の営業術を持っていたり、自分の顧客を囲い込んだりする傾向があり、そのノウハウやデータは個人に蓄積され、他の担当者に共有されることが少ないため、部署内で売れる人と売れない人のムラが生まれやすいのです。
 しかし、先に挙げた「営業トークのお手本動画」を共有できたらどうでしょう?
 売れない人が売れる人の方法を学べるのはもちろんのこと、売れる人も、動画を見たり、その制作を担ったりすることによって、自分の営業方法を見直したり改善したりするいい機会になるはずです。
 売れる人も、売れない人も、スキルアップできる。また、売れない人が売れるようになれば、これまで売れていた人ばかりに集中していた仕事も分散されます。
 つまり、営業部全体の能力が底上げされ、業績も上がりやすくなると考えられます。

- 実は少ない「その人にしかできない仕事」 -

 会計、労務、人事などの業務も、専門性が高く、担当者以外が関与しづらいため、営業と同様に属人化しやすい傾向があります。
 さらに中小企業では、人事部や経理部などの部署が独立していないケースも多く、それらの業務はもちろん、その他のあらゆる業務を総務部が一手に引き受けていることも少なくありません。その負担は相当なものでしょう。
これも、業務のムラの1つといえます。
 そして、重すぎる負担を軽くするのに、IT化は有効な解決策となるのです。

 かつてシステムの導入には、時間もコストもかかるのが普通でした。
 しかし、最近ではサービスの形もさまざまに増え、安価に手早く導入できるような選択肢も増えました。
 その1つがSaaS(サース/ Software as a Service)。 従来はパッケージ製品であるソフトウェアを、利用者側のハードに導入するというやり方が一般的でした。
 一方SaaSは、ソフトウェア自体はそれを提供する側のクラウドサーバー上にあり、利用者側はインターネット経由で、サービスとしてそれを利用します。
 ソフトウェアを開発する必要がなく、導入までにかかる時間とコストはかなり抑えられます。自社に合わせてカスタマイズする自由度は低いものの、業務に必要な機能は充実していますから、すぐに利用できます。
 また、アカウントで管理されるため、デバイスが変わってもソフトを利用でき、インターネット経由でアクセスするので、リモートワークにも対応可能という便利なサービスです。

 たとえば、業務改善系のソフトウェアとしてよく知られている、会計ソフトの freee(フリー)や、人事・労務管理ソフトのSmartHR(スマートエイチアール)と いったソフトウェアもSaaSで提供されており、これまでより安価に利用できます。
 会計業務や労務管理業務などは、不慣れな人が担当すると、どうしても時間がかかります。さらに、中小企業では、それらの分野について専門性の高い人を採用するのが難しい面もあるでしょう。
 そこで、仕方なく、社長が夜な夜なエクセルファイルと向き合っている・・・・そんなケースも珍しくありません。
 しかし、freeeやSmartHRを導入することで、さほど専門性が高くない人でも、業務をこなすことができるようになります。
専門性が高い・低いを問わず、担当者の負担は激減し、日々エクセルと格闘していた社長も、本来の仕事である経営や営業に時間を割けるようになるはずです。

- 「誰もが簡単に使える」システムを目指す -

 さて最後に、「ムダとムラをなくす」という観点からもう1点、お話ししておきましょう。すでに何某かのシステムが導入されているケースでの話です。
 中小企業でありがちなのが、〝社内の他の人よりはITに詳しい〟という人をたった1人の担当者として、システムの管理や情報の整理をすべて任せてしまうことです。

 たとえば、担当者は1人でシステムから顧客や売上のデータを抽出し、エクセルでデータを管理し、周りはその担当者に頼り切って、データの入力や分析を任せっぱなしにしていたとしましょう。
 さて、この担当者がいなくなってしまったら?
 残された社員たちは、データの入力方法も抽出方法も、集計するやり方もわかりません。当然、システムを更新する方法も知りません。無理にやろうとして見当はずれな業績予測を出したり、そのせいで経営判断を間違ってしまったり・・・・。
 決してあり得ない話ではないのです。
 有効に扱える人間がいなければ、どれだけ有能なシステムも役立たずになってしまいます。使いこなせないシステムはやがて放置され、〝野良〟の仲間入り・・・・。
 何とももったいない話だと思いませんか。
システムを理解し使える人間が新たに入社してこない限り、重要なデータは誰の目にも触れないまま、〝野良〟の中に閉じ込められ続けることになります。
 どうすれば、こうしたリスクを未然に防げるのでしょうか。

 難しいことではありません。
 それが誰にでも簡単に使えるシステムであればいいわけです。
 そんな都合のよいものなどないと思われるかもしれません。しかし、技術は驚くほど進化しているのです。
 私がシステム導入を支援してきた会社には、「エクセルが少し使える程度」「ほとんどPCに触ったことがない」という方たちもいましたが、最終的には皆さんきちんとシステムを使いこなせるようになりました。
 日々、血のにじむような努力をしたから、というわけではもちろんありません。
 意外に思われるかもしれませんが、今やちょっとしたシステムくらいなら誰にでも作れてしまうくらい、システム開発は簡単なものになっています。
 kintone(キントーン)は、プログラミングの知識などなくとも数分で業務システムを作成できてしまう という、業務改善プラットフォームの代表格ですが、 今はこうしたITツールを活用することで、システム の構築も運用も容易なものになっているのです。

 もちろん、業務改善ソフトやプラットフォームを導入すれば万事解決、というわけではありません。それは「何のため?」の視点がない「IT化ありき」の考え方ですから、注意してください。

 業務改善系のシステムはいくつもあり、それぞれ使い勝手や機能が違います。
 もし使い方の難しい、特定の人しか操作できないシステムを導入してしまえば、結局は属人化し、やがて無用の長物にならないとも限りません。

アナログからデジタルに置き換えることによって、操作や管理を簡単にする。
 IT化が持つその効果を、最大限活用する。

この視点を持ってIT化を推し進めていくことが、属人化のリスクを抑えることにつながるのです。

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