あの夏の日

 弟が二人いた。

 上のは車で四十分くらいの所に家族と住んでいるが、下の弟は子供が生まれて2歳になる前に離婚して両親と暮していた。
 父が亡くなって(今年17回忌)からは母と2人。お互い干渉することなく、それでも思いやり合って上手く暮していたんだと思う。

 私だけ高校卒業後に進学で家を出て以来離れて暮している。
 元気なうち、若いうちはそれでも良かったし、むしろたまの帰省は我が家の子供達にも「楽しい旅行」
 車で6時間もかかる距離は、お互いが年齢を重ねる毎に遠くなってように思う。

 一昨年の夏、その母と暮していた弟が亡くなった。

 母から電話がきて

「〇〇が大変なことになった」と

 何がどう大変なのかも解らない。なんぞ仕事でトラブルでもあったか、事故でも起こしたか、まさか借金?
 一瞬で頭の中に「大変なこと」を思い浮かべる。
 思い浮かべたどれよりも大変だった。

 熱中症で緊急搬送されて集中治療室にいるという。「覚悟して下さい」と言われたと。

 暑い暑い日だった。母達が住む地域でその日6人が緊急搬送されたそうだ。
 もちろん私の所も暑かった。

 ただ、胸の奥底が冷たかった記憶がある。


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