「飼い主への思い」が心にしみる短編二つ 動物の本棚(9)

『デューク』江國香織著 「冷たい夜に」(新潮文庫)に所収
『あんず』村山早紀著 「コンビニたそがれ堂」(ポプラ文庫ピュアフル)に所収

『デューク』

21才の女性の愛犬だったデュークは、グレーの目をしたクリーム色のむくげのオスのプーリー犬でした。デュークは卵料理とアイスクリームと梨が大好きでキスがとても上手な犬でした。

愛犬のデュークが死んでしまった時、彼女は泣きました。家を出てアルバイトに向かう道すがらも、ホームでも、電車の中でも彼女は泣き続けました。
電車の中で、深い目をしたハンサムな男の子が彼女に席をゆずってくれました。彼女はお礼に彼をお茶に誘い、アルバイトを休んで彼と夕方まで時間を過ごします。
そして、クリスマス前でにぎわう夕暮れの街で、彼女は彼から思いがけないことを告げられるのでした。

『あんず』

風早という町にあると言われるコンビニ「たそがれ堂」。そこは、何か大事なものをさがしている人だけが見つけることができる、という伝説のコンビニです。

ある日、そのコンビニに、、赤い首輪に金色の鈴をつけた白い小さな猫がやってきました猫の名前は「あんず」と言いました。

猫はまだ若いけれど重い病気で、自分の命がもう長くないことを知っていました。
彼女がたそがれ堂でさがしていたのは「人間になれるキャンディ」でした。
。彼女は、ひとりぼっちののら猫だった自分を拾ってかわいがってくれた、今は高校生のおにいさんに人間の姿になってどうしても伝えたい思いがあるのでした。

犬と猫をめぐるこれらの短編は、リアルな話というよりファンタジー的な味わいの物語です。

動物は言葉で自分の思いを伝えることはできません。でも、動物から見たら、人間は動物が伝えようとする思いをろくに感じ取ることができない存在かも知れません。
その意味でこれらの短編は、動物たちの純粋でまっすぐな思いを私たちに伝えてくれるリアルな物語なのだと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?