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120%の練習と80%の練習

練習の際に "全力を出し切って追い込む" のと "少し余力を残してこなす" のとではどっちが良いのか?
今回は、どちらが良いかはさておき、余力を残した練習法についてお伝えしたいと思います。

練習強度の定義付け

まず先にお伝えしておきたいのが、どちらも必要な練習であり、時期や目的に応じてブレンドするのが良いと思っています。
実際にいままでに出会ってきた指導者にはどちらのタイプもいて、人によって向き不向きもあります。

そもそもタイトルの120%の練習と80%の練習について定義付けをしましょうか。
まず基準から。ペースとか心拍数とかいろいろありますが、今日のお話は主観的強度を軸におきます。
要するにどれだけキツイかです。
そして客観的に見てこの設定ならなんとかこなせるだろうという設定を100%の練習とします。普通にやったらムリだろうなという設定は120%、この設定なら余力を残して終われそうだというのが80%とします。その他は下記の表の通り。

練習強度の定義

練習方式のメリット・デメリット!

さて認識を統一したところで本題に入りましょう。
練習の方式は大きく次の2通りに大別できます。

  1. 120%の高〜超高強度トレーニングを低頻度に行い、それ以外はポイントに向けた調整メニューとする。

  2. 80〜90%の中〜準高強度トレーニングを高頻度で実施する。

高強度/低頻度トレーニング

それぞれにはメリット、デメリットがあります。
超高強度トレーニングのメリットは何と言っても、一回のトレーニングで得られる効果が大きいことです。特にVO2maxを上げやすいので、これをやっておくと後々、閾値の速度帯も上げやすくなります。
また以下の理由から、勝負強さを身につけることができます。一つは乳酸の溜まった状態で無酸素運動に切り替える(無酸素性の運動の割合を増やす)練習を繰り返すことでスパート力が鍛えられます。そしてもう一つは週に1〜2回試合のような練習をするので自身のピーキング方法を学べることです。
一方、デメリットは練習を外す可能性が高いことです。例えば120%の練習を2回行って1回失敗したらトータルで120%ですが、80%の練習を2回成功させればトータル160%です。まぁ、こんな単純な話ではありませんが、要するに確実性が薄いということです。さらに下手をすると、怪我の可能性も高まります。
また心理的にみると120%の練習に毎回本気で挑むのは相当なハードルです。しかしダメ元でやってしまっては上記の勝負強さが得られないばかりか、"タレ癖"が付いてしまいます。
高強度/低頻度の練習は、ハイリスクハイリターンの玄人向けの練習法と言えるでしょう。

追い込んだ後の崩れたフォーム(左)

中強度/高頻度トレーニング

では中強度/高頻度の練習はどうでしょうか?
まずメリットは確実にこなせる練習で、着実にレベルアップしていけることです。一歩一歩進んでいけるので練習計画が立てやすく、時間をかけて目標に近づいていくことができます。
また高頻度に負荷を加えていくので、 "リカバリー能力" が向上します。これはタフさとも言い換えられますが、朝にスピード練習をした上で午後にロングジョグが出来るとか、そう言った能力です。これを鍛えておくと成長速度を底上げできます。
そしてもう一つ重要なのが毎回の練習を良い身体状態で迎えられることです。100%以上の練習では内臓への負担が大きく一度の練習でフォームが崩れてしまいますが、余力を残した練習をすることで次の練習でもフレッシュな状態で綺麗なフォームを作りやすいのです。

余力を残した設定での練習(右)


一方、デメリットとしてはやはりレース感覚を養えないこと、本当のキツさで我慢する能力を鍛えられないことです。
また中強度とは言っても、高頻度で練習をしていきますので、疲労は溜まります。肉離れのような突発的な故障にはなりにくいですが、シンスプリントのような摩耗系の故障に繋がりやすいです。
そしてもう一つ、副次的ですがもしかすると一番対策が難しいかもしれないのが、時間を確保できないという問題です。特に市民ランナーの方はポイントの頻度以前に、走るのが週末だけということも多いでしょう。期間を定めて早朝練習をするなどして対応したいところです。

各練習方式のメリット・デメリット

★必読★実際の練習を公開

さて、それぞれの特徴を捉えたところで具体的な練習を見ていきましょう。
こちらは、私が実際に行った先週の練習です。
(メイン練習以外のjogなどは省略しています。)

中強度/高頻度を意識した練習

状況の共有

まず前後の状況説明を。
5〜7月は故障で走ったり走れなかったりがダラダラ続いており、8月からようやく練習を始動しました。ショートインターバルであれば案外走れるけどペーランが全くできない。マラソンのレースペースが2kmごとしか保てず、練習の30km走より遅いペースで10kmがやっとの状況でした。
9月第1週のこの週の目的は「マラソンのレースペースより一個下の速度帯でいいから継続して走り続ける」ことと、「マラソンのレースペースの継続距離を2kmから伸ばす」ことでした。
そしてこの先には2ヶ月半後に神戸マラソンが控えています。

練習内容と目的

それでは内容を見ていきましょう。
火曜と土曜がメインのポイント練習です。火曜がレースペースよりちょっと下で長く走り続ける練習、土曜はレースペースでの分割走。
そして、それぞれ翌日に準ポイントを入れてセット練にしています。水曜はランニングクラブのペースメーカーをしながら、ここ最近不足しがちなスピード練習で動きを良くします。日曜は前日で疲労が溜まった状態で距離に足を慣らす目的でマラソンの想定の時間をゆっくりジョグします。
さらに水曜と日曜にはジムのトレーニングで使いたい筋肉に意識付け。これは高強度トレーニングだとなかなか難しいです。
さらに月曜と木曜も朝はジョグですが、集団走で4/kmくらいとリズムよく走りました。

ジムでのトレーニング

ここでポイントになってくるのが火水と、土日をセットで考えることです。120%の練習であれば火曜はもっと速いし、土曜は本来リカバリーなしで行います。しかし水曜のスピードがあるから、火曜はゆとりを持って終わるし、土曜に乳酸を出した状態でやる日曜の30kmjogは効果が高くなるのです。
そして、もう一つ意識することは練習の種類を変えること。中強度の練習が高頻度で続くため筋刺激がマンネリ化しやすいので、なるべく連続して同じメニューにならないようにします。

結果、1週間前は12kmだったペーランを16kmまで伸ばし、2km×5でやっていたレースペースを6km + 4kmまで繋げることができました。この少しずつだが着実に前進して行けることが中強度/高頻度トレーニングの最大の強みです。

練習強度の判断

ではその設定はどうやって決めるのか。
80%の練習をしようとする時、多くのランナーが「なんか物足りないけど終わりでいいのか?」、「ここで辞めるのは単なる妥協じゃないか?」という思いに駆られることではないでしょうか?
そんな時の判断基準が "次の練習をフレッシュな状態で迎えられるか" です。先に述べた通り2日の練習を1セット、もしくは1週間の練習を1セットと捉えます。そして1セットトータルで最大の練習をしようと考えると、次の練習をよりフレッシュな状態で迎えることがトータルの質を上げることに繋がります。
例えば "10kmPR+1km全力走" というメニューの時にペース走で全力は出し切りませんよね?それはその後の1kmがあるからです。それと同様に翌日の練習を考えて余力を残すことが秘訣です。
またここで言うフレッシュな状態とはフォームを崩さず走れる状態です。もう少し言うとランニングエコノミーを落とさない状態です。100%の力を出し切ってしまうと力みが生じてフォームが崩れたり、内臓疲労が溜まって腹圧が弱まったりしてランニングエコノミーが下がってしまいます。これでは仮に練習をこなせたとしても、その練習効果は薄く、次の練習ではさらに苦しくなっていくことでしょう。だからフレッシュな状態が重要なのです。

ペーランで余力を残すテクニック

ここで、最近取り入れているペーランのちょっとしたコツをご紹介します。
それはラストであえてペースを落とすことです。
解説の前に実際に行った練習記録を見てみましょう。これは前述の16000mPRです。

16000mPR、一番左がラップタイム

この時のスタート前の設定は14000m〜16000m [3'40〜3'30]と幅を持たせておりました。
実はペース走の設定については私自身も悩んでいた部分があります。ペースが速くないので走ろうと思えば走れるが、距離が伸びると内臓へのダメージが残り次の練習に支障が出る。特に走行時間が60分近くになるとかなりダメージが残りやすい。しかし、距離を短くしてはペース走の目的から逸脱してしまう。
こう言ったジレンマがありました。

この時も12000m〜14000mあたりでキツくなるだろうと言う予想のもと、距離に幅を持たせていました。そしてこのキツくなってからの2000mが、練習の質と疲労の残り方に大きな影響を及ぼします。
この2000mをあえてペースダウンさせて走ります。14000mの時点で練習強度的にはほぼ完成しているのでペースを上げても得られる効果は蓄積される疲労に対して割りに合いません。しかし時間的に走り続ける能力は鍛えたいのでペースを落としたまま最後まで走ります。ペースを下げたところで心拍数はそこまで大きく落ちませんので練習効果は十分です。(下の図参照)

ペースと心拍の推移

さらに14000mの時点で最後まで走り切れる確信を得ているので現状把握と次の練習設計にも支障はありません。
これでいて内臓への疲労を軽減できるので非常にコスパの良い練習になります。

高強度トレーニングはいらない!?

ここまで中強度/高頻度トレーニングについてお話ししてきましたが、それでは高強度のトレーニングは必要ないのでしょうか?
結論から言うと私はそうは思いません。
高強度トレーニングには、中強度トレーニングでは強化しづらいVO2maxを上げたり、レース慣れをしたりと魅力的なメリットがあります。
それでは、どんな時に使うのか。

私の場合は次の2つのタイミングで行います。

  1. 中強度トレーニングで自力を付けてレースが近づいてきたら。

  2. 一つのレースが終わり、一段階上のレベルに挑戦する時。

レース前の100%

まず①の方はレースに向けてのトレーニングです。練習を導入期基礎トレ期仕上げ期調整期にわけると仕上げ期にあたります。(練習の期分けについてはまたの機会に紹介しましょう。)
重要なのは、1つ前の基礎トレ期に中強度トレーニングをしっかりと積めていることです。メリデメのところで言及したように高強度トレーニングの難点はその練習消化の難易度にあります。ただし中強度トレーニングができていると、この練習の成功率を上げることができます。なので基礎トレ期→仕上げ期の以降タイミングは十分に見定める必要があります。

この①に関しては目的がレースへの適応ですので、基本的には100%の練習がメインとなります。(120%は必要ない。)
練習難度は高くなりますが、絶対に外したくありませんのでギリギリを攻める形になるでしょう。

レース後の120%

一方②については超高強度の110〜120%練習です。
これは先ほどの期とは別に強化期として行います。なのでしばらくレースがないタイミングが理想です。
目的は抜本的な能力開発です。仮に練習を外しても心肺や筋肉に刺激が入れば良いので、成功率度外視で攻める練習ができます。これ、めちゃくちゃ楽しいです
大切なのでもう一度言います。めちゃくちゃ楽しいです
ただし目前にレースが迫ってるときにはそんなことをしてる場合ではないので、計画に基づいた練習をしましょう。

120%追い込み切った後の状態

裏ルート110%ゴリ押し

実はもう一つ110%の練習を回し続けて、100%にすると言う方法もあります。
「居心地の悪い場所に居続けることで成長を促し、コンフォートゾーンを広げていく」というような話はビジネスシーンでもよく聞くかと思いますが、要するにアレです。ただ肉体的なコンフォートゾーンの拡張には長期継続が必須となります。(理想的には3か月以上)
と、難しい言い回しをしましたが、要するに「毎回全力で練習する」という皆さんの得意な練習かと思います。ただここにはコツがあって、練習成功率を下げないため、ジョグの強度調整・定期的な筋力トレーニング・練習ごとにリコンディショニングできる体制が必要です。
非常に難易度の高い練習方ですので僕自身もあまりやらないのですが、特に5000mや10000mのトラックのタイムを短期間で大きく上げる可能性のある練習ですので、マラソンのタイムが頭打ちになっている方は一度試してみる価値はあるかと思います。

結局、自分なりの練習法を。

ここまで長々と書いてきましたが、結論「どっちも一長一短だから上手く使い分けてね!」という至極当然なお話でした。
ただメリット・デメリットを理解した上で目的に応じた練習を選択するというのが重要です。
また得意不得意も個人差がありますし、生活リズムによって出来る出来ないもあるでしょう。
自分なりの練習スタイルを確立することも一つの醍醐味だと思いますので、「俺流最強練習法」を見つけてください。

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