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ゆきちゃんとさくらさん

さくらさん
桜の花びらが、散り終わるくらいの頃、良い天気の空気感の中、町を東西に抜ける大通りの側道を1台の自転車が走る。
 動き易さを重視した服装で、花柄のスカーフと丸っとした赤い帽子風のヘルメットを着けている。女性の年齢は88なのだけれども、背筋は、シャンとしていて目がキラキラしていて元気いっぱいのオーラを放出している。
 ギッ!自転車のブレーキをかけて、1軒の店の前にサッと止まって自転車にダブルロックを掛ける。
 目の前にあるのは、地元にある風格の出始めたパン屋さん"麦畑"ここの玉子サンドイッチと濃い目のコーヒーを食べるのが目的だ。ここの玉子サンドイッチは、ゆで卵を潰してカラシとマヨネーズと混ぜたものをぎっしり挟んだものと厚焼きにした卵焼き、目玉焼きをハムとキャベツの千切りを特製タレと挟んだもの三種を四角に切合わせて一人前のパックにしている。なので一度に三種類の玉子サンドを食べることができるので値段共々特をした気分にさせてくれるサンドイッチだ!
 年季のはいった木作りの扉を引いて入る。フワァ店内に染み付いた香ばしい香りが、来店者を迎えてくれる。この店にも換気、排気といったあるのだけれど、充満する濃い空気が、勝っている。ほとんどのパン屋では、空調が行き届いていて、この空気を吸えない。なので貴重な店なのである。その空気が逃げて仕舞わない様素早く入店して扉をサッと、
しめる。
「いらっしゃいませ〜!」若い女の子のアルバイトが、入店して来たお客様に向けて挨拶する。何回も通っているので柚木さくらさん(この女性)「こんにちは!また来ましたよ!」と、明るい声で、見知った店員さんに声を返す。
 サッと、店の中を見渡すと、喫茶店部の方は、カウンターもテーブル席もまばらに埋まっている。(今日は、いつもよりお客さん多めね…)満席になった所をみたことはないけど、新聞を読んでいる人やノートパソコンを広げている人、本を読んでいる人がいる。柚木さんは、まだ空席がある事を確認すると木のトレーとトングを持ってお目当てのサンドイッチのあるいつもの棚へと歩きだす。目当てのサンドイッチは、店のだいたい奥、レジの右斜め向こう上から三段目とか…他のパンの位置も店員さんみたく答えられますよ。新作パンとか季節限定のパンとかは、あっちとか。もちろんどれも食べて味は、知っている。(あるある…)視線は、ターゲットのサンドイッチを捉えている。今日もわくわくしながらトングを持った手を伸ばそうとしてふと止まる。ショーケースで、パンをトレーに移そうとしている先客がいたからだ。(この子は、何回か見た事があるわ。だって私みたいにあっちこっちのパン屋さんで買っている姿を見かけるもの、でも今日は、背中に鬼でもまとってそうなオーラが見える気がするわ。気になるわね。)ジッと、先客を見つめる。
 ゆきちゃん
「あああ、どうしよう。」手が震えている。佐倉ゆき(35)は、迷っていた。いつもは、ツナとコーンたっぷりトーストとソーセージメインやわらかいピザと暖かいココアを選んでレジを済ます。そして喫茶部テーブルへという流れ。でも今日は、シナモンロールとコーヒーを食べたい気分なのだ!「持ち帰りでパイクッキーか、何か買おうか?それともピーナッツクリームの瓶?迷うな〜。」今、彼女が迷っているのは、この店で、期間限定のデザインプレートが貰えるハンコが、あと少しで一回分貯まるのだけど、先のシナモンロールとコーヒーのセットでレジするとハンコの数が
足りないのだ。あと少し…
 そしてこのプレートが貰える期間は明後日まで、でも、ゆきが来店出来てそれを達成するタイミングは、今日しかないのだ。それでもう少し多いめに買うか、諦めるか、しかしこのプレート全部で四種類あって三種類まで集めているのだ。あと、一枚。とても小憎らしいポイント設定!こういって迷いながら選択するのも楽しいのだが、ゆきは、わかる人にしかわからないような残念な穴にはまって思考がループしていた。
 自分では、普段通りを装おっているつもりが、意識は、別世界へと旅立っていた。なので廻りが見えていなくて声をかけられているのに気がつかなかった。「あの、大丈夫ですか?」袖を持って揺すられて元の世界へと帰ってきた。ハァ(゚Д゚)!、(やってしまった…)慌てて早口で、話しかけてきた人の方へ事の次第を説明した。(恥ずかしい。)
 するとゆきの前のお婆ちゃんが、自分と同じくこの地域中のパン屋を巡っている人だと気がついた。内心では、ちょっぴり(私は、この県以外も回っているけどねドヤァ)とか顔面真っ赤にしながらあたふたと説明しながら思ってたのが、格好つかない。
「あら、そうだったのね。じゃあ良かったら、私の今日の分のハンコは、あなたにあげるわ。」と、言ってくれた。「でも…」「いいのよ、決まったらレジに行きましょう。そしてあっちのテーブルで一緒してお話ししましょう。」「はい、ハンコ貰います。」そうしてレジを済ませてテーブルにつく。それぞれのコーヒーも席に運ばれて来ました。ゆきは、四枚目のポイント皿を有難く受け取りながらテーブルに置いて写真に撮っていた。うぇへへ(コンプリートb)
「それでは改めまして佐倉ゆきです。ハンコありがとうございました!」ペコリ頭を下げる。「はい、どういたしまして、柚木さくらです。初めてお話ししますね。」やわらかい笑顔を見せた。「何度かお見かけします。パン屋とかパン屋とかパン屋で」「そうね、私もパン好きだもの…でもこのお婆さんのことも何となく視界に映ってくれてたのね嬉しいわ。」両手をパンと合わせて喜ぶ。本当にそれだけでも嬉しそうだ。その時私は、名前に気がついた。「私達の名前って前と後ろが入れ替わっているんですね。」コップの水滴を使ってテーブルに二人の名前を書き出す。「あら、同性同名ではないけれど本当にそうね」ウフフ
 今度は、二人で微笑んだ。とたんに長いこと付き合える友達に思えた。ホッとしたのでソッと「いただきます。」と、言って食べかけた時、「今日は、いつもと違って短いのね…」と、残念そうに言われた。ん?
 さくらさんは手を膝の上に置いて「天の神様今日も日々の糧を与えてくださりまして感謝します…」この後も何か呟いていたけど聞き取れなかった。生で見た。食前のお祈り!
 さくらさんはキリスト教の信徒さんなんだね、ふむ。「アーメン」そう締め括るのが聞こえたので、私も、「アーメン」と、揃えて言っておいた。さくらさんはこっちを見て何かを期待している。ああ、アレか…ゆきは、それに気がついた。「期待しないで下さいよ。そんな私のは、食前のお祈りとかみたいな大したものではないので…」1人の時は、知らず知らずの内に唱えている言葉があった。
「塩分を取りすぎないように、糖分を取りすぎないように、油を取りすぎないように、あんまり固いものは食べないように、喉に詰まらせるものは食べないように、辛すぎるものは食べないように、料理に元々含まれているもの以外はお酒に気をつけるようにしかし、出された物を残して帰らないよう気をつけるように。」今日は、さくらさんが聞いているので周りに気をつけながら唱えてみた。そうかぁ、見られていたか。聞かれていたか…そうですか…そうですか…
 ゆきちゃんとさくらさん
「素敵な心掛けね。」いつものはこれだったのね。納得したと頷いている。「そんな大したことではないのですが、あるとき両親に何かの記念日とかにプレゼントを送ろうと考えたときに実家中ドライフラワーも含め花だらけだし、二人で好きな所へ出かけて景色とか含めて私も食べたことのないグルメとか食べ放題だしでもとりあえず食べ物だと鮮度も含めて呪文を唱えるほどあれもこれも気をつけないといけないなと、結果自分の食生活もとりあえずそうしたほうがいいね的な、だからお祈りと比べると、凄く遠いので恥ずかしいです。」「そうなのね。」「それで、イロイロと行き着いたさきにお金でも買えない、出かけても見れないものでけんとか市とかの課題作品でちょっといいのをみつけたので力作して応募してみたのですけど落選みたいでうまくいってたら小さく賞状くらいもらえたのかなと。」「名誉的な方向のプレゼントなのね。」「そうです。又、その方向性で、何かないかとアンテナだけ張ってます。」「そう。うまくいくといいわね。」
 その後は、コーヒーのお代わり(無料)とか飲みながら携帯で、撮ったパンの写真も交えてつい3時間くらい?話し込んでしまった。
「こんなにパンの話で初めてで面白かったわ。」「私もこんなに話が盛り上がるとは思いませんでした。」「「又、会いましょうパン屋さんで!」」
 そして、二人は手を振り合いながらそれぞれの帰途についた。
 後日、パン屋を巡る二人は、連絡を取り合ってイートインでしか食べられない食パンとか、食べることを考慮していない映える絵画的ピザの店とかパンではないけれど電車で出掛けて台湾カステラの焼き立てとかを食べ歩きしたりと末永く仲良くしたとかしないとか。
「さくらさんこんなチョコレートの食べ方するパン体に悪そう。」「ゆきちゃん、本当ね、でも、せっかくだから食べましょう。香りは凄くよいわね。」
 おわり
(とてもフィクション、どこまでもフィクション)
 

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