おもしれぇ現実 4月編 1話「寒い」

第1志望:もう1回中学生
第2志望:フリーター
第3志望:自宅警備員

 中学3年の時に再提出をくらった進路希望調査書の内容がコンビニの喫煙所でふと思い出された。よかったじゃん、第2希望は叶ったぞ、15歳の俺よ。

 卒業できると思っておらず、就職活動を一切しなかった結果就職先がないという状態で大学を卒業した俺は、新年度一発目のアルバイトを寝坊するというスタートを切った。大学2留目を覚悟していた矢先に人生の夏休みが呆気なく終わった喪失感と、将来への漠然とした恐怖が肩に重くのしかかる、多分これは今降っている雨のせいではない。前髪をかき上げると何本か人差し指と中指に引っ付いている、偶然にもズボンは檜皮色で羅生門は好きだけど今じゃねぇよ、おい芥川顔晒すなよ。こちとら下人さながらに寒すぎてワロタ。

 ただでさえ疲れているというのに、バイト終わりにバイクが故障して雨の中立ち往生した挙句に、トイレを借りようと入ったファミマではノックを壁ドンで返されるという踏んだり蹴ったりなフリーター生活初日、3回ノックしていれば「どうぞ」と言って貰えたのだろうか。兎にも角にも雨粒を吸い込んだユニクロのダウンがじんわりと俺の活力と体温を奪っていく、レッカーの業者さん早く来てくれ、何もかもが寒すぎてワロタ。

 ようやく拾えたタクシーではほんのりと効いた冷房が追い討ちをかける。世界は俺に風邪をひいてほしいそうだ。運転手さん、僕の伝え方が悪かったのかもしれないけれど、僕の家から300メートルは離れていよう場所に停めてくれたおかげで僕はほんのり濡れている男からずぶ濡れ男に進化したよ。雷も鳴り響いている、生きている世界線がポケモンでないことを心から感謝しながら家までダッシュで駆け抜けると、上半身だけにとどめていた浸水率はズボンを通り越してスニーカーまで及んだ、そうだ今日は「ショーシャンクの空に」を見ながら酒を飲もう。それにしても寒すぎてワロタ。

 フリーター初日、俺23歳、天気は雨、明日はもっといい日になりますように。寒すぎてワロタ。

 お前次第だよ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?