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おいわさん

小学3年生の時、問題集をやらされていた。

分からない問題があっても教えてもらえる訳じゃなかったので、どんなに考えても分からないものは分からなかった。

すると、男はこんな事を言い出した。

「これ、1冊全て解くまで寝るな。」


学校から帰ってきて、ずーっと問題集を解いていたが分からないまま、気が付けば一瞬寝てしまっていた。

(ヤバい!)

そう思ってバッと顔をあげ、また問題に取り掛かる。

それを何度も繰り返し、朝を迎えた。


朝、男が起きてくると

「お前寝てただろ。デコ出せ。」

そう言われ、デコピンをされそうになった。

その瞬間、思わず私は目をギュッと瞑り顔を動かした。

すると瞼に痛みが走った。

男は何か言っていたが、ロクに寝ておらず頭がボーとしていた私は

(あぁ、これだけで済んで良かった。)

と思っていた。


学校に行く準備をしてるいと、母が私の顔を見て唖然とした。

その様子を見て男は言った。

「んなもん、コイツが顔を動かしたのが悪い。」

母は何も言わなかった。


私は慌てて鏡を見た。

そこには、お岩さんのように片目が腫れて青あざになり、半目しか開かなくなっていた自分が写っていた。

私は咄嗟に思った。

(隠さなきゃ!学校の皆んなに気持ち悪がられる!)


その日は片目をずっと手で覆い隠しながら過ごした。

途中隠しきれず青あざが見えた時、男子から

「それ、ちょっと見えとるよ。」

と、言いづらそうに教えてくれた。

すごく恥ずかしかったが、深く聞いてこないことに安堵した。



その2日後、タイミングが良いのか悪いのか、学校で目の健診があった。

先生達は私の異変に気付いていたのだろう。

いつもであれば、眼科の先生、担任、養護教諭だけのはずなのに、他に3人くらい先生がいた。

私はこの3日間ずっと手で片目を隠していた。

私の番になった時、眼科の先生が言う。

「それ、見せてもらえる?」


「…」

観念して手を下ろした。


「うわっ」
「これはっ」
「いやっ」

大人達が口々に声を漏らす。


「先生、目の方は大丈夫でしょうか?」

と養護教諭が訊ねると

「目は見えてる?」

と眼科医が聞いてきた。

「はい。見えてます。」

と答えた。



視力に問題は無いと分かると、養護教諭に別室に連れて行かれた。


「この目はどうしたの?」

「……ママの、彼氏にデコピン?みたいな、されて、こう…。」

「そっか、ちょっと身体見せてもらっても良い?」


身体を見た後、養護教諭はカーテンの外にいた先生達と話はじめた。


(はい、お母さんの彼氏にデコピンみたいなのをされたと。ええ、身体の方は確認して、アザなどは無かったんですけど。ですよね。ちょっとこれは酷いかと。)


小声だったが、シーンとした室内だったので丸聞こえだった。


保健室の先生が戻ってきてこう言った。

「あのね、ちょっとねこれから児童相談所っていうところに相談して、お母さんがそこの人と話をする事になると思うんだけど、大丈夫だよ、ポロロンちゃんには何もないから、そこは安心してね。」


(…もしかしたら助けてもらえるかもしれない!)

私は短く「はい。」とだけ答えた。


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