効果がないとは言わないけれど。
さて。
同僚Aさんと会話した日の夜。
夕飯、入浴と済ませて寝支度を整えた後、洗面所で歯を磨き、件のロラゼパムを服薬した。
この薬自体は断続的ではあるが、5年の服用歴がある。飲むこと自体にさしたる抵抗はない。唯一気になる事と言えば依存性に関してだが、まあ、そこは今回は目を瞑ることにした。というか、そこに拘る精神的余裕がないというのが本音だ。
服薬後、テレビと電気を消して布団に入る。
ほんとに眠れるのかなあ。
また寝付けないんじゃないだろうか。
今夜は何時になったら眠れるんだろう…
そんな事を考えながら布団の中で目を瞑る。
ああ、眠れないなあ。
うーん。すぐ眠れないのは仕方ないか。
でも、また3時4時まで眠れなかったら…
と、ウダウダ考えていたら、いつの間にか眠っていた。布団に入ってから何分経っていたのだろう?
その夜は早朝覚醒することもなく、目覚ましが鳴るまで眠ることができた。
気分爽快とはいかないが、取り敢えず眠れたことに安堵する。
ロラゼパムが効いたのかな?
それともたまたま?
眠れたことに安堵しつつ、薬の効果に疑問を持ちながら布団から起き上がり出社の支度を始める。
眠れようが眠れなかろうが、働かなければ生活できないのだ。
さてさて。
それからいうもの、寝る前のロラゼパム服用は当たり前のことになった。依存性のことは常に頭の片隅にチラついたが、眠れるのならと手が伸びる。薬の怖いところは、身体的依存よりも精神的依存にあるとつくづく思う。
『飲まなかったら眠れないかもしれない』
そう思うと大袈裟ではなく、本当に血の気が引くようにゾッとするのだ。胃の辺りがギュッと掴まれるような、胸一杯に何かがジワリと広がるようななんとも言えない不快な感覚。
それが嫌で自然と薬に手が伸びる。
こうなると薬物中毒患者となんら変わらない。
そう思いながら1週間、2週間と経過していき、現在通院しているメンタルクリニックの予約日が来た。
「で、最近どうですか」
「あーなんか不眠症になったみたいで、眠れなくなってしまって」
「眠れないというのは」
「最初は早朝覚醒っていうんですか、朝4時5時に目が覚めたら、もう眠れなくなって」
と、不眠症の症状が出始めてからの経緯を話した。
「…で、今は入眠障害?最初は早朝に目が覚めたら眠れなくなって、今度は全然寝付けなくなりました」
そして、眠れないという症状に伴い「眠れないことへの恐怖」や「眠れない時間、どんどんネガティブな想像が浮かんできて苦しくなる」といった症状を説明し、
「同じようにメンタルクリニックに通ってる同僚の主治医が『ロラゼパムが睡眠薬代わりになる』って言っていて、試しに私も今飲んでるんですけど」
「うん。で、眠れるの?」
「うーん…それなりに眠れて、ますかねえ?」
「じゃ、いいんじゃないの」
「でも依存性が気になるし、最近、なんとかいう、良い睡眠薬が出たとかも(同僚から)聞いたんですけど」
同僚Aさんにその睡眠薬の名前を聞いたが、彼女は覚えていなかった。ただ「最近発売されたものらしい」と言っていた。
主治医なら知っているかと思ったのと、できればその睡眠薬を処方してもらえないかと思い言ってみたのだが。
「睡眠薬ね。でも、あなたロラゼパムで眠れるんでしょ。なら、ロラゼパムでいいんじゃない」
「あーまあ、確かに眠れてますけどねえ」
「じゃ、ロラゼパムで。何日分必要?」
「……。」
釈然としないものの、その日は結局、ロラゼパムを28日分処方してもらい、クリニックを後にした。