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手裏剣連続打ちの解説

こちらの動画で私は棒手裏剣を連続で打っている。
通常であれば棒手裏剣を右手で打つ場合、これから打つ手裏剣は左手にまとめて保持している。この場合の連続打剣というのは「1本1本左手から右手に持ち替えて打剣する」という意味である。
ただ早さだけを見せたいとするならば、複数本を両手に持った上で持ち替えをせずに1本ずつ打つという技術もある。
それを両手で行ったのがこちらである。
これはナイフ投げの世界では「保弾なし」という意味で「No Reload(ノー リロード)」と呼ばれるテクニックである。

改めて最初の連続打剣に戻ると、こちらは前述のとおり手裏剣を1本1本左手から右手に持ち替えている。
連打ほどのスピードは出ないので一見簡単そうに見えるだろう。
しかしこれは実際にやってみるとなかなかに骨の折れる作業である。
ゆっくり持ち替えるだけならそこまで大変ではないが、一定以上のスピードで行おうとした瞬間に難易度は跳ね上がる。
手裏剣は持ち替えた瞬間にはきちんと保持できていないことが多い。
咄嗟に持つといつもの手の内(持ち方)では打つことが出来ないのである。
例えば手裏剣を中指に添えて打つ人がいるとして、このスピードで咄嗟に持ち替えると中指に添えられず人差し指だけで持ってしまうことも多々ある。通常であれば持ち直せば済む話であるが、この練習は咄嗟に手にした形のまま打つことを目的としている。だからこの9本の打剣の中には人差し指一本を添えて打ったものもいくつか含まれている。
たかが指一本横にズレただけと思うかもしれない。しかし、指一本分の誤差をいうのは手裏剣術においてはとんでもなく大きい。
もともと、手というのは非常に繊細なものである。野球、ゴルフ、テニス、ボーリング…どんなスポーツでも、添える指がずれてしまったら感覚は大きく変わる。再現性を重視される競技なら尚更である。
手裏剣の直打法というのは切っ先が倒れ過ぎても倒れなくても刺さらない。そして距離が変わらない限りは動きに高い再現性も求められる。
繊細な感覚をあえて無視してでも同じように刺さる結果を出し続けるのは見た目以上に難しいことである。

この連続打剣は私が考案したものではなく、流派を問わず古くから稽古されている練習方法である。
手裏剣術において最も歴史がある「根岸流」でも取り入れられている。
根岸流の場合は片手に5本の手裏剣を保持することを基本としている。そして、一呼吸で手にした5本を一気に打ち切る。これを「一気五剣」と呼び、5秒で5本、遅くとも10秒以内に打ち終えなければいけないと言われている。
私は9本を手に持つことが多いのでさしづめ「一気九剣」と言ったところだろうか。ちなみに打つ速度は最初の動画で9本を9秒と言ったところである。一見ゆっくりに見えても実はそれなりのスピードで打剣している。
この連続打剣のポイントだが、手裏剣術得道歌という手裏剣術を稽古してきた者たちの残した歌の中にも記述があるのでご紹介しようと思う。

「早打の 極意は呼吸と 左手の 送りの指に あるものと知れ」

この場合の「呼吸」は「止めずに吐き切る」ことが肝心だということだと考えられる。息を吸ったり止めたりするとほんの僅かだが身体は固くなり動きはぎこちなくなる。だからこそ一息に吐き切る。
ここに私なりの理解を付け加えるならば、その際の吐き方は「ふっ」と勢いをつけるものではなく、的の奥まで届くように「ふぅーーーっ」と細く長く吐いてほしい。なぜならいつも以上のスピードで手裏剣を持ち替えている関係上、どうしても少し焦ってしまい各動作が少しずつ早くなる傾向があるからだ。結果としてこの連続打剣で失敗をするときは大抵手裏剣が回転しすぎてしまうのだ。だからこそ、的の奥まで届かせるように深くゆっくりとした呼吸が必要になる。動きに合わせて呼吸をするのではなく、ゆっくりと深い呼吸をまずして、それに身体の動きを合わせるのである。この練習をしていると緊張した局面で打剣をする時にも有効であると言える。緊張をして動きがゆっくりになるものはいない。だからこそ強いプレッシャーのかかる局面ではあえてゆっくりとした深い呼吸をして身体の動きもそれに合わせることが必要不可欠なのである。これは今後、棒手裏剣の大会が開かれるとしたら必ず役に立つし、何よりも手裏剣というものは人前で打つだけでもえらく勝手の違うものである。そうした場面でも手裏剣を落ち着いて打ち、安定をした打剣を行うためにも知っておいて損はないだろう。
加えて私自身は咄嗟の手の内でも打てるように人差し指を添えた打剣や、もっと極端なことを言うと親指を添えても、握り込んでも打てるように稽古していることは付け加えておく。
手裏剣術はプレッシャーとの闘いでもあるからいつでも確実に成功させることは難しい。しかし、こうしたポイントを一つ一つ押さえることで成功の可能性を少しずつ上げることが出来ることは間違いないのである。

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