星見守灯也

小説を書き始めました

星見守灯也

小説を書き始めました

マガジン

最近の記事

【エッセイ】近視眼的、眼鏡話

私は強い近視である。 遺伝的なものなのでもうどうしようもない。 医者にはコンタクトレンズを勧められるも、 根っからの面倒臭がりやで衛生が担保できない。 その上、不器用で怖がりときた。 よって常にメガネである。 私にとってメガネとはファッションではない、医療矯正具だ。 なにしろ強い近視だ。 メガネレンズが分厚いのである。 メガネ屋で一番高くて薄いレンズを選んでもまだ厚いのだ。 オシャレで華奢なフレームなんて最初から選択肢にない。 重さでだんだん鼻メガネになるのもいつものこと

    • 【短編小説】手を離すとき(現代、しみじみ)

      「はなさないでね。ぜったい、ぜったいだよ。はなしちゃだめだからね」  娘がさけんだ。  僕は自転車の後ろをつかみ「もちろん」と笑った。  休日の公園。  子供用の自転車からは補助輪が外れたばかりだ。  僕はゆっくりとこぎだした自転車の後ろをついて行く。  自転車をつかんで支えたまま。  初めはよろよろとしていたが、次第に真っ直ぐに進み始めた。  スピードが出て、姿勢が安定してくる。  もう、そろそろいいだろう。  僕はそうっと手を離した。  必死に前だけを見る娘は気づかない。

      • 【短編小説】三分では足りなくて(恋愛、ハッピーエンド)

         俺には三分以内にやらなければならないことがあった。  そのとき、手にあったのは十円玉が一枚きり。  震える指で押し込むと、カチャンと金属の当たる音がした。  なんでこんなときに限って十円玉がこれだけなんだろう。  十円玉たった一枚で何が変わるというんだろう。  駅の伝言板に書かれた「もう終わりにしましょう」の文字と彼女の名前。  焦る気持ちを押さえ、ゆっくりと間違いがないようにダイヤルを回す。  同じ市内にいるというのに、ここと彼女の部屋はこんなにも遠い。 「もしもし、

        • 【エッセイ風】犬を飼った話

          犬を飼ったのは中学生の頃だった。 犬を飼いたいと言った記憶はあるが、むしろ母親が欲しがっていたのだと思う。父の方は最後まで世話をしろよとか言っていたが、どこか距離をとっていたように思う。そんな家に、犬が来ることになった。 犬を見にいったのは春のこと。ブリーダーのところでみた子犬は、サークルのなかで眠っていた。一匹を手に抱くと柔らかくぐんにゃりとして初めて嗅ぐ匂いがしっとりとした。これが犬か。小さいのに確かに犬の形をしていた。 「どの子がいい?」 見ていた私は思う。ぜったいに

        【エッセイ】近視眼的、眼鏡話

        マガジン

        • 死の守り神は影に添う
          0本

        記事

          【エッセイ】恋愛したことがないという話

          少しだけ、俺の話を聞いていってくれ。 人を好きになったことがない。と言うとだいたい驚かれる。 というより信じてもらえない。 同性愛者じゃないかとか、理想が高すぎるんだとか。 あるいはまだ運命の相手と会っていないだけだとか。 なるほど、まだ会ってないだけかもしれないと思ったことはある。 けれど誰かと、つまり異性でも同性でもだ、恋人のように手を繋ぐなんて嫌だった。キスなんて考えたくもない。 性欲もあまりなくて、エロ本を見るのは好きだが興奮しない。 告白されたことはあったけど、そ

          【エッセイ】恋愛したことがないという話

          【エッセイ】統合が失調した話

          統合失調症になってみた。 とはいうが、別になりたかったわけではない。 気づいたら「なっていた」ものだ。 この精神病は幻覚や妄想、会話がおかしいという症状が特徴的で、昔、精神分裂病と呼ばれていたアレだ。 もっとも精神が分裂(多重人格を想像する人が多いだろう)しているわけではなく、さらに言えば俺はどちらかというと意欲や集中力がなくなる症状(陰性症状)が強い。 俺はもともと、ものを作るのが好きな子供だったと思う。 5歳のときには好きなアニメの絵と文を書いて折本をつくっていた。 人

          【エッセイ】統合が失調した話

          【短編小説】姫に振られたら竜と仲良くなりました(ファンタジー、ほのぼの)

           とある王国、王がひとつの布告を出した。 「竜を倒したものに姫を嫁がせる」  最近、鉱山に竜が出たもので、鉱夫は怖がって逃げ採掘が進まない。資源がなければ交易もストップだ。  そういうわけで、王は竜討伐の募集をかけた。  報酬はフォンテーネ姫との結婚!  この布告に国中がざわめいた。姫は若く美しく優しいかただったから。 「マジで?」  エルツは布告を聞き、しばらく頭が働かなかった。  公示人にこづかれてようやく後ろの人の邪魔になっていたことに気づいた。  鉱夫のエルツは今年

          【短編小説】姫に振られたら竜と仲良くなりました(ファンタジー、ほのぼの)