コンタクト
眼鏡派とコンタクト派の争いは熾烈を極めた。
「どうしても行くの?」
「ああ、このままでは眼鏡派に負けてしまう。楽観視している奴も居るが、なし崩しに眼鏡をかけるなんて俺は嫌だ!こんな辺鄙な村ではいつ眼鏡に染まるかわからん。俺は、皆にはずっとコンタクトでいて欲しいんだ。わかってくれ。」
「皆の中に貴方は居るの?眼鏡の貴方を見るのはもう嫌よ!」
「わかってくれよ!なぁ、いいだろ?眼鏡をかけたって別に死ぬわけじゃない。俺は死ぬまでコンタクトだから、約束する。」
「眼鏡じゃないわ。イヤイヤ眼鏡をかける貴方が嫌なの。見てられなくて…貴方が眼鏡派になるなら、私…眼鏡になってもいいわ!」
「ありがとう、絶対帰ってくる。それまでのお別れだ。」
かくして1人の青年が旅立った。
時は遡って今ほど争いが激しくなかった頃、ある眼鏡派の男とコンタクト派の女が出会った。男はたまたま顔を洗っていたためお互い敵だと気づかなかったのだ。顔を洗っていたほんの短い時間で2人は恋に落ち、駆け落ちし、1人の子供を授かった。それが先程の青年である。
そうこうしている間に町に着いた。
青年が町中でくつろいでいると、警官がやってきてこう言った。
「おい、アンタ眼鏡をかけて随分と堂々としたスパイじゃないか。町民の安寧のために出て行ってもらおうか。」
「眼鏡をかけてはいるが私はコンタクト派だ。何なら証明書でも出そうか。」
気づけば辺りに人だかりが出来ていた。
「ム、確かにコンタクト派のようだ。なら何故眼鏡をかけている?返答次第ではただではすまんぞ。」
そのとき、人だかりから恐怖の混ざった叫び声があがった。
「うわぁぁぁ!眼鏡とコンタクトのハーフだぁぁぁ!!」
周囲の人は途端に青ざめた顔をし、 1人の子供を残して蜘蛛の子散らすように去って行った。
子供は青年に尋ねた。
「何で眼鏡をかけてるの?」
青年が答えようとすると警官はいきなり倒れ、気を取られた隙に眼鏡派の男が子供を捕らえていた。
「空いてて忍び込みやすかったぜ、お礼に俺が答えてやろう。昔から眼鏡とコンタクトのハーフは不吉の象徴だと言われていてな。眼鏡派にもコンタクト派にも居場所のないコウモリ野郎。ウケるぜ、ソイツは呪われた存在だ。お前も関わったばかりに眼鏡派になってしまうんだよガキ!!さぁ、わかったら眼鏡をかけるのだ。」
「放せ!僕はコンタクトだって決めてるんだ。眼鏡なんかかけるもんか。」
「その子を放せ。コンタクトの上から眼鏡など、俺が許さん!」
「目が悪いくせに裸眼のふりをする卑怯者め、ちゃんと目が悪いと言え。」
「うるさい!眼鏡なんて鬱陶しい上に雨やラーメンに負ける弱虫じゃないか。すぐ役割を放棄する眼鏡なんて絶対にかけない!」
「黙れッ!俺はドライアイなんだ。そう熱くさせるな。」
戦いの火蓋は切って落とされた。
「フゥ、手強い相手だった。しかし眼鏡など取ってしまえば終わりだ。子供が眼鏡になる前に勝てて良かった。」
「ありがとう。眼鏡をケチョンケチョンにのしてくれて。」
「いいかい、優しさを忘れないでくれ。例え眼鏡派の9割が悪い奴だとしても1割の良い奴を信じてくれ。眼鏡と悪をイコールにしたら何も見えなくなってしまう。これはコンタクト派にも言えることだ。」
「うん、わかったよ。」
「それと、何故眼鏡をかけるのかだったね。眼鏡派の者が眼鏡を取ると裸眼になってしまう。同様にコンタクト派の者がコンタクト取れたら終わってしまうからだ。」
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