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水無月は木漏れ日に始まり

                        「午前4時」
午前4時、私は今日も眠れてない。
迫ってくる天井と気怠い空気が部屋に立ちこめる。
「朝日が昇るまであと27分」と、あの人は言った。
確かに時間を見てみると日昇まで刻一つ、
といったところだ。
あの人は外の配達員の二輪車の音が耳を伝うと晨朝を感じると言う、悔しながらも共感と言ったところだ。

さて、着替えるか。
丁度この罪悪感から逃れたいと考えていたところ、
あの人は私にとっての最高の言い訳を与えてくれた。
外に出れば気分も晴れるから、そう中の私に言い聞かせ若干曙色の空に足を踏み出していた。

                  「いつものあの公園で」
足を止めることなく到着したいつもの公園。
そこにあの人は居た、パシャパシャと写真を笑顔で一人撮っている様子はまるで朝のテロリスト。
声をかけ共に公園の山を登る。
「うーん、ここからじゃ良く見えなさそう」
それもそうだ、この公園は木々に囲われた自然豊かな場所で日なんて差すどころか木漏れ日程度だ。
「もっと高い所に移動しよう」
誰もいない。見慣れたはずのこの街はいつもと違う表情をし、それはノスタルジーさえも感じさせた。
少し高い空が開けた所に足を運んだ、そこから見える景色はえもいえぬ程清々しく爽やかな気分にさせてくれる。写真に収めるには勿体ないくらいだ。

                       「早朝徘徊」
もっといい所があるのでは、そう思い淡々と思い当たる場所へ向かった。 1つビルを見つけた、いかにも関係者以外立ち入り禁止の建物だったが蒼い心が僕を駆り立てた。
「いやまずいっしょ、やめときなよ」
                          (微笑)
どこから湧いてくるのか、不貞な余裕と安心感で僕はそのビルの回り階段を早々と登る。
6階と思われる頂上まで登りつめあの人に声を掛ける
思いのほかあの人は意気揚々と登ってきた。
顔を上げるとそこには驚く程に綺麗な曙空が広がっていた。
ほんのりと曙空に染まりつつある空に、気づけば目を奪われていた。
沢山の写真を撮り満足した私たちは別の景色を求めそのビルを後にした。
昨今、新しく出来た身寄りの駅へ着いた、
分かりきっていたがそこは坂の頂点にある駅で
とても綺麗な景色が水晶体を刺激した。
あぁ、街が目を覚ますまでもう少し。

                     「ラジオ体操」
集まった公園に戻ろうと言い、帰還。
街が目を覚ましご年配の方達がなにやら集まってきた、これはまさか。
そう、時計の秒針は6時半を指していた。
ラジオ体操の時間だ。
参加するか躊躇いながらも私は体を動かしたい気分だったので答えは出ていた。
ラジオ体操なんて5年ぶり、うろ覚えでも体ははっきりと覚えていた。あの人も一緒に参加してくれた。
なんだか不思議な気分、ご年配の中に異端な若者。
彼らのコミュニティは見ているだけで暖かい気持ちにさせてくれた。たわいのない会話、彼らの一日はこうして始まるのだと、そう感じた。
眩しい木漏れ日を顔に浴びながらラジオ体操に参加する自分たちを俯瞰した時、とてもシュールで何だか気恥しい。けど、公園全体の暖かい空気感が私たちを包みそんな気恥しさを拭い払ってくれた。

                     「各々の一日へ」
事を終え、各々の一日が迫っていた。
私たちは別れを告げ、渚のような公園を後にした。
家路に着き、目を覚ました温もりに溢れた街の表情眺め思わず笑顔を浮かべてしまう。
こうして晨朝が終わり一日が始まる、心に暖色が広がり水無月が訪れた。

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