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オレンジレンジとあの花壇の囚人

Ah ah なんかイイ感じ
青空 海 どう?このロケーション

ーORANGE RANGE「ロコローション」

小学5年生になると、必ず「委員会」に所属しなければならない制度があった。学校をより良いものにしよう!というスローガンのもと、10種類くらいから好きな委員会を選び、2年間活動する。
クラスとはまた別の集団。こういうのが楽しかったりするよね。

これから話そうと思っているのは、全く楽しくなかった、僕の委員会にまつわる残念な話だ。


🧹


「委員会」という時間割が初めて訪れた日。

5年生の僕たちはホールに集められ、6年生からそれぞれの委員会について軽い紹介を受けた。その後、やりたい委員会を選んで、別々の教室に入る。
最も人気だったのは放送委員会だった。理由は、昼休みに好きな音楽を校内放送でかけられるから。
僕も最初は放送委員会に入って、当時から好きだったゆずやミスチルを流してやりたいと思っていた。しかし、結論から言えば、僕が放送委員会の教室に入る事は無かった。


小学校も高学年になるとスクールカーストが形成され、素質を持っていた奴が順当にオラつき始める。
その中でもカリスマ性のある奴…というのはイケメンでちょい悪でドッジボールが強い奴という事だが、そいつが「放送委員会にしよーぜー」と言った事を皮切りに、オラついた奴らが塊魂のようにホイホイそいつの周りにくっついていき、憎き球体を形成していった。

校内にオレンジレンジの「ロコローション」を流すような奴らだ。僕と交わる事は無い。「あっあ〜んなんかイイ感じー」??校舎をでかいテラスハウスにでもするつもりか???
せめてビバ★ロックにしろ。こちとら未だに登下校で隊列を組んでナルト走りしてんだから。


🥷🥷
  🥷


とはいえ、放送委員会の教室に入っていく"スーパーヤンキーボール(くそでか)"に完全にビビった僕は踵を返し、何でもいいやという感じで別の教室のドアを開いた。ドアに貼られた紙には「ピカピカクリーン委員会」と書かれていた。永遠に掃除当番をやらされる委員会かな??

教室に入った時、既に座っていたメンバーはなんというか、全クラスの「地味」をかき集めて1つにまとめてみました、といった様な顔ぶれだった。いや、「顔ぶれ」という表現は適切じゃないかもしれない。顔が思い出せないからだ。

席について、僕は想像する。

この後突然、V6のメンバーが教室に入ってきて、「お前ら、一軍男子共を見返したくないかー!?」と囃し立てる。ウォ〜〜〜!!!僕は1ヶ月後に学校の屋上から大声で叫ぶ。「もっと、、、ミスチルとかも流してくださぁ〜〜〜〜〜い!!!」
よく言った!!エ~ブリ~シャ・ラ・ラ・ラ〜♪とここでカーペンターズのイエスタデイ・ワンスモアがかかるだろう。


なんてことは、まるでない。


いいさ 誰が褒めるでも無いけど
小さなプライドをこの胸に勲章みたいにつけて

ーMr.Children「彩り」

「ピカピカクリーン委員会は、学校を綺麗で環境に優しい場所にするために活動している……」
あの、ついさっき、学校に不必要だと思われるでかいカタマリを見ましたけど。環境に悪いんでアレをまず掃除した方が良くないですか??

そんな事を思ったが、僕も含めて誰も口には出さない。ピカピカクリーン委員会へ自然発生的に集合してしまう様な僕たちはみんな「良い人」で、ハズレくじを引いた様な仕事をこなし続け、「きっと誰か(好きな子)が見てくれている」と妄想しながら、自分に言い聞かせて、終わる。


現を抜かしつつ話を聞いていると、どうやらピカピカクリーン委員会は掃除っぽい事をあまりしていないらしかった。主な仕事は2つ。

1つ目はアルミ缶潰しだ。月に1度、学校に集められた大量のアルミ缶(どこで誰が飲んでるのだろうか)を袋から出し、皆で盛大に踏みつけ、ペラペラに小さくしてから袋に入れなおす、という仕事。RPGの金稼ぎか??

ただ、僕たち「良い人」にとって、思いっきり暴力をふるう(踏むだけの)アルミ缶潰しは気持ち良く、結構楽しかった。「ゴムゴムのスタンプゥ!!」とか言いながら、皆でワイワイ缶を踏みまくる。たまにスチール缶が紛れていて、勢い良く踏んでもビクともせず、逆に衝撃を喰らい「痛ってぇ!!」となってる奴もいた。ウケる。

「お前、ゴム人間じゃねーのかよ」
「こいつ…スゲェ”覇気”だ」
「スチール缶だ」


2つ目の仕事は「残飯の花壇埋め」。こっちの仕事が最悪だった。誰が思いついたというのか。

給食で余ったご飯は、給食センターに戻すのでは無く、何故か校舎裏の花壇(ただし花は無く、大量の土が入っているだけ)に持っていく。給食当番が持ってきた残飯を、僕たちピカピカクリーン委員会がしゃもじで土の上へ掻き出し、体の大きさ程のシャベルを使って土の下へ埋める。

こうする事で栄養満点の土になる……という関心など無い。そういう話ではない。キツすぎるのだ。臭いが。また異臭の話になってしまった。

受け取ったばかりの米は問題無い。花壇の土を掘り返していると、前回の米(なにか別のものに変化しようとしている、汚い米)が出てくる事がある。この臭いがとにかくキツかった。

各クラスの給食当番でさえ、「あの花壇」に持って行かなければならないが故に、ご飯担当が最も嫌われていた。それなのにピカピカクリーン委員会は「その場所」でシャベルを持って、全クラス分の残飯を受け取るまで待ち続けなくてはならないのだ。給食当番からはシャベルを抱えた僕たちが死神の様に見えただろう。


地獄の様な仕事は、僕たちが6年生となり、後輩へ引き継ぐ(押し付ける)まで続く。




さぁ一滴残らず どうぞイェイイェイ
(エキゾティック 胸キュン ファンシー)

ーORANGE RANGE「お願い!セニョリータ」

1年後、6年生、昼休み。
季節は秋、校内には相変わらずオレンジレンジが流れている。僕はいつも通り同僚と校舎裏の花壇にて、給食で余ったご飯を待ち、受け取っては土に埋めていた。

当時はオレンジレンジの「ИATURAL」というアルバムが発売され、それまで週間アルバム1位だったミスチルの「I♥U」を上回り1位に躍り出た。僕はそれが憎くて憎くて、両親のパソコンでオレンジレンジのアンチスレを見漁っていた。(※昔の話です)

アンチスレにはメンバーが大物アーティストに悪態をついただとか、曲がほとんど既存曲のパクリだとか、謎の熱量で膨大な文章が書かれており、僕も「そうだそうだ!」と心の中でデモに参加していた。「以心電信」のサビはドクターマリオのパクリなんだ!!!


正直、臭いにもすっかり慣れ切っていた。結局、ハズレくじを引いた様な仕事のままだった。一度くらいは、気になる子が給食当番のご飯担当としてやって来た事があったかも知れないが、人間と死神もまた、交わらない。ニンゲンはご飯を出し切った容器を抱えて、逃げる様に花壇を去るのだ。臭いからね。

今年入った「ピカピカクリーン委員会」後輩の顔ぶれもまぁ例年通りという感じで、特徴も無い。そして、この秋で花壇埋めの仕事は後輩へ引き継ぎ、僕は刑期満了となる。



なぁ、許してくれよ。
きっと何かの役にはたってるからさ。昼休みなのに校舎裏で臭い思いはしたくないよな。ニオイは慣れるから、大丈夫。…一軍男子共を見返したかった??それなら、そうだな、たくさん勉強しとこう。頭いい方が将来有利だ。未来のために今、勉強しとこう。


こんな風に、当時の僕は思わなかった。
ゲームばっかりやってたからだ。お前が勉強しろ。

僕の委員会は、地味で臭くて希望を見いだせないまま、活動を終了した。特に物語にすらならない、残念な話。



皮肉で溢れた世界
不安と怒りの過渡期
見失わぬように進もう

ーMr.Children「PADDLE」

1年後、中学1年生、土曜日。
他校へ練習試合に遠征する日。

僕はソフトテニス部だった。中学ソフトテニス部といえば「運動部に入っとかないとダサい、でも突出した運動神経も経験もない」っていう奴がなんとなく入りがちだ。そう、僕の事だ。

1年生にとっては試合自体が普段少ないため、他校との練習試合は楽しみだった。相手の学校は団体戦でいえば格下。僕の学校は地域の中ではそこそこ強い方だった。先輩方にとっては手ぬるい相手かもしれない。

しかし、その日は異変が起きた。



先に試合を終えた先輩が軒並み負けていた。僕達1年生はコートとは別の場所でアップをしていた為、先輩の試合を直接見ていなかった。おかしい。地の利か…?

【地の利】は中学ソフトテニス部においてはままある事だ。ボコボコのグラウンドを無理やりテニスコートにしている為、普通のバウンドをしない時がある。自分の学校であればコート毎にボコボコの特徴を捉え、あの辺に打ったら変なバウンドする、という知識が自然と身についてくるものだ。埋まっているスプリンクラーはホットスポットと呼ばれる。

考えているうちに名前を呼ばれた。ようやく自分の出番がまわって来た。

温まった体で、テニスコートまで走って向かう。
異変にはすぐに気づいた―


🎾


「先生!試合終わりました。」

「結果は?」

「3ー1で僕たちが勝ちました!」

「ナイスゲーム。格上の学校によく勝った!」

「ありがとうございます!…あいつら、相当苦しんでましたよ」

「そうかそうか。まぁ練習試合だ。【地の利】はこちらにある」

「ようやく普段の苦しい練習が報われましたね!」

先生はコートから少し離れたところで、練習試合の工程表に結果を書き込んでいた。これで10戦10勝。素晴らしい結果だ。公式戦だったらお赤飯を炊いてお祝いしただろう。

何故これほどに勝利を収められているか?
理由は明白だった。


テニスコートのある校庭、そのフェンスの向こう側に畑が広がっていた。この畑から時おり、何かの肥料なのか、猛烈なニオイが校庭へ流れてくる日があった。農家のみなさんには敬服する。

しかし、このような日が部活と重なると練習は殆ど苦行だった。ただ、生徒を指導する立場として「今日は臭いからやめよう」とは勿論言えない。少し離れたところから、生徒達へ練習を指示する。これが精一杯だった。

生徒は最初こそ苦い顔で練習していたものの、意外と慣れてくる様で、気がつけばニオイなどものともせず、逞しく成長していった。


そう、【地の利】はこちらにある。
奴らは嗅ぎ慣れていないニオイに苦しみ、鼻が効かないだろう。五感剥奪。我々は学校単位で相手の五感を奪うテニスを実現していた。


「…!…!」


生徒達も格上に対する勝利で自信がつくだろう。生徒のモチベーションコントロールの為にも、今日は何としても全勝したい。


「…生!先生!」


「先生!!大変です!!相手の学校に1人……」


「【五感剥奪】が全く効かない男がいます!!!」


🎾


同条件であれば、日頃の練習量がものを言う。

「運動部に入っとかないとダサい」という軽い理由で入部したのは事実だ。だが、そこそこ強豪校として、僕はこれまで厳しい練習を耐え抜いてきた。
そして今、相手の「五感を奪うテニス」に自分だけが対抗出来ている。あの地獄の様な花壇の毎日が、まわりまわって、今報われようとしている。あの日の僕と今の僕は地続きで"繋がっているんだ!"


みんな、この程度のニオイで苦しんでいたのか?

こんなニオイはなぁ!!

あの!!地獄の日々と比べたら!!

手ぬるいんだよ!!!!



「ゲームセット!ウォンバイ青学!シックスゲームストゥフォー!!」




…なんてことは、まるでない。


おわり




(おまけ)

大学生になって、ふとオレンジレンジの曲が聴きたくなった。なんだかんだでどれも良い曲だ。

健全に成長して良かった。もしあのアンチスレに住み続けていたら、今頃はヤフーニュースに嫌なコメントを書いてばかりの人間になっていたかも知れない。

オレンジレンジには2枚のベストアルバムがあった。
【オレンジ】と【レンジ】だ。

僕は【レンジ】の方だけをTSUTAYAで借りた。「ビバ★ロック」「花」「以心電信」が入っている方だ。

ちなみに【オレンジ】には「ロコローション」と「お願い!セニョリータ」が入っていた。他意はない。

CDを自分のiPodへ取り込んだ後、兄も曲を入れたいとの事だったので、CDを渡す。
しばらくすると僕の部屋に兄がやって来た。


「オレンジレンジのベスト、曲少なくね?」
「コレ、2枚あるうちの1枚しか借りてないから」「なんでだよ」
「こっちで十分だし。いるなら自分で借りてきて」「じゃあ借りてくるわ」


TSUTAYAへ行く準備をする兄。

「借りてきた方のタイトルって何だっけ?」
「こっちは【レンジ】」
「あーなるほどね、そういう事ね」


自転車の鍵を持って玄関に立つ兄。

「じゃあ借りてくるわ、【オーブン】」
ガチャ


…いやオーブンレンジやないかぁ〜〜〜い!!!


おわり

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