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【エッセイ集】⑤映画ってすばらしすぎる

 好きな映画のタイトルは?と聞かれて、誰しもひとつやふたつくらいはどこかで見たシーンを思い出すのではないか。それは映画のワンシーンそのものが心に刺さるものだったり、映画そのものよりもシュチュエーション――たとえば彼女との初デートでの緊張した中で見た思い出の映画だったりと人さまざまだと思う。
私の心に刺さる……きっと永遠に刺さったままの三つの映画の話しをしよう。
 一作目は「ジョン・トラボルタ」「オリビア・ニュートン=ジョン」主演、1978年パラマウント映画配給の『GREASE』だ。当時、トラボルタは前作映画「サタデーナイト・フィーバー」の大ヒットで乗りの乗った頃、オリビアは歌手としてレコード界のスーパーアイドル――今度の映画も得意のダンスふんだんに取り入れられたミュージカルスタイルの映画で1950年代、アメリカのハイスクールが舞台だ。ストーリーはダニー(トラボルタ)とサンディ(オリビア)が夏休みに避暑地の海岸で知り合い、二人は恋に落ちたが幸せな夏のひとときはあっという間に過ぎ、9月には3年の新学期がはじまる。その後、父親の転勤で引っ越すこととなったサンディは「ライデル高校」に転校し、なんとそこで偶然、ダニーとまた巡り会った。しかしダニーは、ここでは黒い革ジャン、髪はリーゼント、スリムなジーンズできめた「Tバーズ」というチームのリーダーをしていて、みんなの手前、かっこをつけて知らないふりをする。傷ついたサンディ……しかし、やっと二人きりになれたところで、ダニーは自分の気持ちを素直に伝えてサンディに謝る。「全国高校ダンスコンテスト」や「彼らのチームと張り合うスコーピオンズとのカーレース」などのシーンを彩る当時のヒットナンバーの数々……「ロックンロール・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」「ティアーズ・オン・マイ・ピロウ」「ブルームーン」などはシャナナが担当、テーマ曲「グリース」はフランキー・バァリ、「ウイ・ゴー・トゥギャザー」「思い出のサマーナイツ」はトラボルタ&オリビアによって大ヒットした。
私はこの映画を当時、有楽座のロードショーで見に行った。まだ中学3年だったが、この時代背景のアメリカへの強い興味を抱いた。日本にはない米ハイスクールでの自由な雰囲気――ファッションや車や音楽すべてが輝いて見えた。「ウイ・ゴー・トゥギャザー」日本語タイトル『愛のデュエット』のシングルレコードは今も私の宝物のひとつだ。

 二作目は「ジャン=マイケル・ビンセント」「ウィリアム・カット」「ゲーリー・ビジー」主演、1978年ワーナー・ブラザース――日本での配給は79年、ジョン・ミリアス監督作品である『ビッグ・ウエンズデー』だ。
1960年代初めのカリフォルニアの海辺の町が舞台で、マット(マイケル・ビンセント)ジャック(ウィリアム・カット)リロイ(ゲーリー・ビジー)の三人のサーファーの青春群像を当時激化していたベトナム戦争などを背景に描く。「ビッグ・ウエンズデー」とは〈最大の波は水曜日にやってくる〉というサーファーたちの間にある伝説だ――サンタナと呼ばれる熱い風が作り出す大きな波のうねり――サウス・ウェルが打ち寄せる1962年の夏から74年までの12年間、サーフィンを通じて深い友情に結ばれた3人の若者の物語を当時の全米ヒット曲ナンバーが彩る。青春時代の楽しい時はあっという間に過ぎ去り、マットはプール清掃会社をはじめるが酒に溺れ落ちぶれてしまう。ジャックはベトナム戦争へと志願する。リロイはオクラホマでサーフィンを続けながら社会人となっていた。1960年も終わり、ベトナム戦線からカリフォルニアの海へジャックは帰ってきた。時は過ぎ1970年半ば、彼らが待ちに待ったその日がきた――連絡も途絶えていた三人を「ビッグ・ウエンズデー」が引き合わせ、海岸に集まった三人はサーフボードに乗って波に向かった。
リトル・エバァ「ロコモーション」、ザ・シュレルズ「ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモーロー」、フォー・シーズンズ「シェリー」等などのオールディーズ・ヒットナンバーがそれぞれのシーンにマッチして切なく響く。
この映画も当時、劇場のロードショーで見たが主演の三人とも趣味がサーフィンとあって、スタントなしの見事なサーフィンを劇中で見せてくれる。「Bear」のロングボードが最高にいかしている。ラストシーンの大波ではプロサーファー「ジェリー・ロペス」も出演していて、そのしなやかなライディングをみることができる。
この映画の素晴らしさは、短い青春のひとときと、その後、否応なしに大人へと成長していく三人のそれぞれ違った運命の道のりを時代背景とともに切なく表現しているところや、再開する三人の友情の美しさかと思う。若い時に培った友達の大切さを改めて噛みしめる映画だ。

 三作目はフランシス・フォード・コッポラ制作、ジョージ・ルーカス監督作品の『アメリカン・グラフィティ』だ。主演はリチャード・ドレイファスで1962年カリフォルニア北部にある小さな地方都市で暑い夏の一晩におこる出来事を見事に描いた青春物語だ。若者のたまり場「Mel‘s Drive-in」に仲の良い4人が集まる。カート(リチャード・ドレイファス)17歳、車はシトロエン、スティーブ(ロニー・ハワード)17歳、車は58型シボレー、ジョン(ポール・ル・マット)22歳、車は32年型カスタム・フォードのデュース・クーペ、テリー(チャーリー・マーチン・スミス)16歳はスクーター・ベスパを乗り回している。今夜は4人が顔を揃える最後の晩だ――高校を卒業したカートとスティーブが東部の大学へ進学するため翌朝、町を去る。
この夜、カートは寸前まで大学へ進学するか町に残るか思い悩みながらも、町で見かけた白のサンダーバードに乗った謎の美人を追いかける。夜明けにあったカーレースでジョンは辛くも勝利する。
この映画のファッションにも注目したい。スティーブやカートたちの「ボタンダウンのコットンシャツにコットンパンツ、スリップ・オン・シューズ」は優等生ファッションのオーソドックスなアイビールック、ジョンの真っ白いTシャツにすらりと長い足を包んだブルージーンズはロックンロール・ファッション――半袖Tシャツの片袖に巻きとめた「ラッキーストライクの箱」、不良軍団の着ていた「ファラオ・ジャケット」などが当時の時代風俗を見事に描く。
ラストシーンは東部へ向かう飛行機の窓からカートが生まれ育った町を見下ろすのだが、テロップに四人それぞれのその後が出てくる。カートは小説家に…スティーブは弁護士に…ジョンは自動車事故で死亡…テリーはベトナム戦争で行方不明に……これが青春のひとときから一気に大人となったリアル――衝撃的なエンディングへと導く。
劇中ではビル・ヘイリー&ヒズコメッツ「ロック・アラウンド・ザ・クロック」からはじまり、クレスツ「シックスティーン・キャンドルズ」バディー・ホリー「ザットル・ビー・ザ・デイ」ダイアモンズ「リトル・ダーリン」など上げたら切りが無い当時の名曲がずらりと流れる。この音楽をさらに彩るのが「ウルフマン・ジャック」によるラジオから流れるDJだ。この映画はこのラジオと共にあると言っていいほど重要な位置付けにある。夜明けにサンダーバードの美人とカートを電話で繋いでくれるのもこのラジオを通じてだ。
また高校の体育館でのダンスコンテストではソック・ホップ――木の床を傷つけないように靴を脱いで靴下で踊るシーンの演奏を担当するフラッシュ・キャディラックとコンチネンタル・キッズによる「アット・ザ・ホップ」「シーズ・ソー・ファイン」のステージ、レタードカーディガンにチェックのスカートを履いたスティーブの妹ローリーのファッションもかわいい。
この映画はカート少年のモラトリアム――逡巡を60年代のよきアメリカとともに描き出した傑作であり、いくら語っても語り尽くせない素晴らしいシーンの数々が詰まっている。まさに映像芸術の神髄だと私は思っている。当時まだ30歳にも満たないジョージ・ルーカスの監督作品であり、後年は、かの「スター・ウオーズ」で全世界を席捲するのだ。

 この三作品に共通するのは「十代の青春群像」と「時代背景」だ。1950年代から60年代のよきアメリカとその時代の音楽――私はこのシチュエーションがたまらなく好きになった……40年以上を経た今でも当時の感動と私の脳裏にすり込まれた映像は今もいきいきと躍動する。
手元にある三冊の映画パンフレットは随分と時が経ち色あせたが、私の中の輝きは決して色あせない。

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