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29日【肉の日】に290円でステーキを喰らう!

 今日は5月29日、世間的には語呂合わせで『肉の日』だ。

わたしはこの日に度々、上野へ出かける。ひとつの目的はステーキを食べること――肉の日にかけて、なんと290円にてステーキやハンバーグを食べることが叶う日なのだ。
さらにカレーライスも同額であり、ステーキとカレーライスを食しても580円とほぼワンコインに近いのである。

この物価高にもかかわらず信念を貫いている店側の心意気には敬意しかない――頭が下がる思いだ。しかしながら、食す方もそれなりの覚悟をもって望まなくてはならない。開店する10時から受付がはじまり、ランチ営業は11時から開始されるが、2時間待ちはざらである。ちなみに今日、わたしは11時に到着して、受付機器に登録するとすでに88番だった。まさにランチ営業がスタートしたところなので、あと88人後となるわけだ。
受付レシートを握りしめて、とっとと店を出て時間を有効につかう。
約2時間後と予測して早速、本屋へとむかった。わたしのもうひとつのこの日の目的は古本を購入することだ。よく行く古本店がディスカウントをおこなう日であり、通常よりも格安で購入することができる。レストラン入店を待つ間の時間には丁度よい。まずはコミックのコーナーを見て回る――目的のものがないとわかると、こんどは単行本コーナーをくまなく見て回る――前々から欲しかった「原田ひ香」のものを迷いなく手に取った。中古価格でも値落ちしない最近の本を大変安価に入手することができ、少しの間、幸せに浸る。
この間、1時間ほど――レストランに戻り、受付機器を確認する――44番まで進んでいた。「1時間に40客ペースだから、あと1時間はかかるなあ」と心の中でつぶやき、次の目的地へと向かう。

家をでるときに「帽子」を持ってくるのを忘れたことに気づいたが、そのまま電車に乗ってしまった。
昨夜は春の嵐で、都内は風速10メートルもの風が吹き荒れる中、どしゃぶりの雨だった――一夜が明け、台風一過のような晴天の空となり、日差しがまぶしい。「どこかで、いい帽子があったら購入しよう」
アメ横にはスポーツ店が軒を並べている――何軒か、覗いてみたが気に入ったものがまったくない。「今日は、帽子はあきらめるか」

レストランに戻ると80番代まですすんでいる――ギリギリセーフだった。
待ち客は増えて160番代まで発行されている――すでに13時を時計が指している――「最後の人はこれじゃ3時のおやつタイムだなあ」とつぶやく。すぐにカウンター席に案内された。メニューは至ってシンプルなので、もう決めてある「すみません……ステーキとカレーをお願いします」
入店してからは、スムーズに料理も運ばれてきた。スマホを出して「パチリ」と1枚写真を撮ってから、お待ちかねを食べだした。

ステーキ&カレーライス

牛ステーキは和風ソースがかかっており、箸でもたべやすいようにカットしてくれている。290円のレベルではない――通常のとても美味しいステーキだ――150gはあるだろうか。さすがは「肉屋」が経営するレストランだ――カレーライスも30cmはあろうかと思う大皿にでてくる。これも、辛さもちょうど良く、味もなかなかのものだ。食べだすと早い――ものの20分程度で食べ終わり会計をすませた。レジで申し訳ないように、頭を下げつつお釣りを受け取る。心のなかで「また来るよ、ありがとう」と……。

その後は、腹減らしに稲荷町まで歩く。下谷神社の裏道を抜けて、目的の古本店へ――単行本と文庫本のコーナーをくまなく見て回った。「江國香織」、「瀬尾まいこ」と洋書1冊を購入し、ここでもディスカウントの恩恵を受けつつ会計を済ませた。
喉が乾いたので稲荷町交差点にあるカフェに入店してアイスティーをいただきながらこのエッセイを書いている。今は便利な世の中になった――パソコンを持ち歩かなくても小さく折り畳める「キーボード」さえあれば、スマホに楽に文章を書くことができる。この頃は外出時はもっぱらこれだ――書籍を購入してもさほどリュックを重くはしない。あとで、パソコンへ作った文章を転送しておけばいい。さらに究極は「ボイスチェンジャーアプリ」を活用して文章化すれば、なにも持ち歩かなくても、スマホだけで用が足りることとなる。思いついたことを忘れないうちに記録できるのである。とは言っても、文学好きは気取って、今だに自宅のデスク上では「原稿用紙と万年筆」が最近はほとんど使われないまま、待ち続けているのである。

帰りしなに、稲荷町の駅のあたりで中東方面からの旅行か?――ご主人がスマホを手に構え、奥さんとまだ小学生くらいの子供3人――4人が並んで写真を撮るところだった。邪魔をしてはいけないと思い、その前を通るのを一瞬躊躇した――いや……せっかくだから撮ってあげようと、ご主人に「take a photo?」と声をかけてみた。するとすぐに満面の笑顔が返ってきた。2枚シャッターを切り、スマホを返して、きちんと撮れているか確認をして貰った。とっても礼儀正しく、家族全員からお辞儀をされて、恥ずかしいなか辞した。
まるで『富嶽百景』の富士の如く、あまりに正統派すぎて見てはいられない光景だ。
それからは帰りの電車内でも、しばらくは5人家族の笑顔とお辞儀の残像が頭から離れなかった。Fin

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