承認欲求モンスターの独白
もし私が子供の頃にSNSを使っていたら、絶対に炎上した筈だ。
私は目立つために、あるいは仲間に対するサービスのつもりで、
回転寿司の醤油差しを舐めたり、
コンビニにあるアイスケースに入ったりして、
それを動画に撮りSNSに上げるだろう。
賠償金を課せられた可能性もある。
幸いなことに私がSNSを使い始めたのは、承認欲求をコントロールできる立派な大人になってからだった。
私は人が読んで心から喜ぶような、生活に関するハウツーやニュースに対する的を射たコメントなどしか投稿していない。
……だったらいいのに。
と私はスマホの画面に溜息を吐く。
私のXには、ドアップになった胸の谷間の画像(ネットで拾ったもの)が投稿されている。
付けているハッシュタグは、#ママ活募集 #m活 #裏アカ男子と繋がりたい など。
それで「いいね」を稼ぎ、
「僕でよければ✋」
などの返信・DMを読んで、私は承認欲求を満たしている。
目立つために過激な発言をしたくなるときもある。
真夜中にスマホの電源を入れて「いいね」が増えないポストを眺めていると衝動的に、
「ジャニーさんに育ててもらった恩を忘れて、今さら「レイプされてた」って騒ぐのって完全に裏切り行為だよね。最低」
などと書いてしまうのだ。
結局は下書きの段階で削除するが、悲惨な事件の被害者を誹謗しようとさえする。
この過剰な承認欲求はどこから発生しているのか。
記憶を辿ると物心のついたときには既に、私は誰よりもカラフルな服を着て遊具の上に立ち大声を出していた。
私は生まれつきの目立ちたがり屋なのだ。
私は特大サイズの承認欲求を背負って生きてゆくしかない。
かと言って、私には真っ当に世間の注目を集める魅力が欠けている。
(かつては『若さ』という武器を持っていたが)
コミュ力、事務処理能力、発想力、忍耐力……。
どの能力も人並以下だから、仕事で認められることはない。
私にできるのは酷すぎない嘘で注目を集め承認欲求を満たすことだけ。
釣りポストに群がってくる男性たちは可哀想だけど、彼らにとっては社会勉強になるだろう。
少なくとも社会勉強に協力していると思えば罪悪感が軽くなる。
私は案外上手に自分の機嫌を取っているのかもしれない。
……ありのままの私を愛してくれる人がいたら。
とよく想像する。
石油王の旦那様が私の頭を撫でながら、
「君はそのままで十二分に素晴らしい」
と微笑んでくれるのだ。
誰が見たって幸福な状況。
だけど私は手を振り払って、
「あなたの財力で私をスターにして」
と言うはずだ。
あぁ、未来のことを想うと不安で仕方がない。
近い内に私のブレーキが壊れる気がするから。
想像する未来では、私は全裸で皇居によじ登り卑猥な言葉を絶叫する生配信をしている。
眼下には怒号を飛ばしてくる群衆。
私は快感に目を潤ませ震えているだろう。
エックスデーはいつか必ず。
【登場人物】
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