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新幹線から見る百名山

移動時間の多くをを埋め合わせるのが、睡眠と読書。その比率は日によって違えど読んで寝て読んで寝てを狭隘なる席で繰り返すのだ。旅情など微塵もない、移動の一場面である。かく言う己の一場面である。
新幹線に初めて乗った頃のウキウキ感はどこにもない、車窓から見える富士山に心躍っていたあの頃を忘れて、つまんない大人になったもんだなと自省してみる。
で、唐突にではあるけれど、新幹線の車窓から深田久弥氏の選んだ百名山はどのくらい見えるのだろうか。

東海道新幹線の車窓から

東京駅から新大阪方面へ向かうとして、まずは東京駅から見える山を探そうと思うが、現代に於いてビルの狭間に延びたホームからは山容を望むことは絶望的だろう。ビルがなければ筑波山や、遠く男体山などの稜線を確かめることもできるかもしれないけれど。
品川を過ぎると背の高いオフィスビルも減り視界がひらけ、西方に丹沢の山々が姿を現してくる。丹沢山塊の最高峰は蛭ヶ岳だけど百名山に選ばれているのは丹沢山だ。深田久弥氏もどの峰を百名山にするのか思案されたであろう事は本文中からも読み取ることができる。最終的に丹沢山単独というよりも山塊全体を取り上げたいという意思の中で山塊の呼称である丹沢という名が冠された丹沢山を選んだということである。
なので、車窓から見えるどの峰が百名山だと悩まなくとも丹沢山塊そのものが百名山だと捉えればいいんじゃないだろうか。ただ、一番目立つのが青虫のツノのように突き出して古来信仰の対象にもなっている大山であるものの、その奥に横たわる山塊にも目を向けてほしいと思う。

そんな山の向こうに何も説明もいらない百名山が聳えている。横浜を過ぎてくるとこれまでは丹沢山塊に遮られていた裾がいよいよ現れて誰がなんと言おうと富士山はあなたですとしか言えない佇まいで待ち受けている。

そんな富士山に視線を奪われていると見落としてしまう百名山があるのをご存知だろうか。ざっくり言って下りの新幹線では右が山で左が海という路線を走るので山を見るなら右手側だろうと(二人がけの席側)そちらだけを見ているとこの山の存在には気づかない。3人がけの窓に現れる唯一の百名山と言っていいだろう山が太平洋に突き出した伊豆半島に横たわる天城山だ。最高峰である万三郎岳と万二郎岳を総じて天城山と呼ぶらしいのだが、丹沢山と同じようにどの山が天城山なのだろうかと危惧しなくとも深田久弥氏はここでもこの天城山脈全体を見ての百名山であるということを書かれているので、雑な言い方だけど伊豆半島に高く隆起する山脈が百名山なのだと思っていれば間違い。きっと、多分。
立て続けに3つの百名山が車窓に現れたのだが、ここからはしばらくお休みモードだ。

場所はずっと飛んで名古屋を過ぎ関ヶ原を抜ける頃に一際山容の美しさを際立たせる伊吹山が姿を見せてくる。日本の歴史の中で避けては通れない戦さの数々を睥睨してきた強さと、薬草の山としての優しさも兼ね備えているようにも思う。個人的には車窓からスマホで撮影する山の筆頭である。
伊吹山を過ぎ京都、大阪へと進むがその先に車窓から見える百名山はなさそうである。

丹沢山、富士山、天城山、伊吹山の四峰が東海道新幹線の車窓から見える百名山ということで完結したいと思う。

が、ちょっと待てよ、確かに肉眼ではっきりと見えるのはその四峰かもしれないけど、遠く離れた百名山だって見える可能性はあるではないか。
ということで、次回はきっと見えるであろう、多分見えるであろう、あの山がそうなんじゃないかという憶測も織り込みながら第二弾を記します。


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