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シン・アンパンマン

 荒廃したアンパンマン・ワールド・・・

 アンパンマン・バイキンマン間の争いは、やがて熾烈化し、核戦争へと発展した。カバオは和平を訴えたが、もはやその声は届かず、世界は荒廃を極めた。
 終戦から10年後、ひっそりとパン工場を再開したジャムのもとにかつての仲間が集まり始める。バタコ、チーズ、天丼まん・・・しかしその中にアンパンマンの姿はなかった。ジャムが住む村は貧しいながらも発展を遂げていく。だがその様を監視し続けていたカイザー・バイキンは、村に総攻撃をかけることを決定。徹底した管理社会を世界に築き上げることを謳い、ジャムをその最初の犠牲者にすることにしたのだ。見せしめである。
 襲いかかる悪の軍団。食パンもカレーもメロンパンナも、皆やられていく。ついに耐えきれずにバタコがバイキンに立ち向かう。当然手も足も出ない。負傷し動けないヒーローたちを横目に、カイザー・バイキンはバタコに手をかけようとする。
 その時である。一筋の閃光が空に走った。そう、アンパンマンである。アンパンマンがやって来たのだ。しかし、カイザー・バイキンはバタコを連れて、宇宙船・バイキン号へ逃げる。アンパンマンは、彼を追いかけて、宇宙船・バイキン号へ。立ち向かう幹部たちを倒し、やがてカイザー・バイキンの元へたどり着く。然し、すでに満身創痍のアンパンマンは、カイザー・バイキンに顔を汚され、敗北する。そして宇宙船の外へ放り出されてしまう。ジャムは村に残った者を集め、僅かな材料から新しい顔を作ろうと試みる。しかし材料が足りない。薪も足りない。工場も破壊されてしまった。
 そこへ成長したカバオが現れる。「いつまでも守られてばかりじゃいられないぜ」カバオは10年の間に人脈を広げていた。彼は、各地から材料を全部揃え、アンパンマンの元を作っていた。カバオは、アンパンマンの元とパンを焼く機械を、ジャムに手渡す。そして、ついに顔が完成した。ジャムは、チーズに顔を手渡す。もはや言葉すら不要。チーズは一目散に駆け出していく。あのヒーローの元へ。
 一方、カイザー・バイキンは故障した宇宙船をどうにか立て直すことに奮闘していた。アンパンマンが、宇宙船のあらゆるところを破壊していたのだ。
「くそ、くそ」
 そこへ、復活したアンパンマンが現れる。
「決着をつけようじゃないか、バイキン」
「け、負け犬が。10年前に何も守れなかったお前に、いったい何ができるって言うんだ」
「確かに10年前、俺は敗れた。しかし、10年前と今の俺は違う。世界を回ってみて気づいたんだ。俺は今まで、自分がみんなに力を与えていると思っていた。自分の顔を食べさせることで、みんなを勇気づけている、と。しかし、本当は違った。逆だったんだよ。俺はみんなから、愛と勇気をもらっていた。たくさんの友人から、たくさんのパワーを受け取っていたんだ」
 ばごおおん。宇宙船内の至る所で爆発が起こっている。
「もうすぐこの船は沈む。その前に、お前と決着をつける」
「アンパンマン、お前はいつだって、俺の邪魔をしてきた。最後の最後まで、邪魔くせえ野郎だ。いいだろう。決着をつけよう。殺してやるよ」
 ザッ。二人は構える。しばらく両者、様子を見ていたが、ついにアンパンマンが動いた。
 ババババ。激しく拳がぶつかり合う。そこからの攻防は、時間にして一分に満たなかったが、千を超える拳の遣り取りとなって、両者の間に無数の火花を生んだ。そして、その瞬間は訪れた。
 カイザー・バイキンの心臓が、アンパンチによって貫かれた。
 ぐばあ、と言って、カイザー・バイキンはくずおれた。
「くそ・・・。最後の最後には、やはりお前が勝つのか、アンパンマン・・・」
「孤独なお前では、俺には勝てない」
「俺とお前、いったい何が違ったんだろうな。何が俺に足りなかった? 俺はどうしてお前に負けた?」
「俺は与えた、お前は奪った。それだけだ」
「そうか・・・」
 どおおん。宇宙船はいよいよ墜落しそうである。
「アンパンマン、お前は空が飛べる。ここからの脱出も容易だろう。だが、見ろ!」
 そう言って、カイザー・バイキンが取り出したのは、宇宙船の自爆ボタンである。
「お前!」
「これで道連れだ。地獄までともに行こうぜ。この世に、バイバイキン・・・」
 どがああああん!

 宇宙船が大爆発を起こすのを、カバオたちは見ていた。
「まさか・・・! アンパンマン、アンパンマァァン!」とカバオが叫ぶ。
「アンパンマンは、みんなを守ってくれたんだねえ」とジャム。
「くそ! 俺が不甲斐ないばかりに!」
「自分を責めるな、天丼まん。君はよくやってくれたよ」
「ジャム・・・。そうは言ってもよ、こんなの、あんまりじゃねえか。アンパンマンはみんなのために戦ったのに、こんな・・・」
 みんながアンパンマンを思って泣いた。みんな、彼のことが大好きだったのだ。
 その時である。空に一筋の閃光。
「あ、あれ!」
「え!?」
「あ、アンパンマンだあ!」
 そう、アンパンマンである。彼は、みんながいる地点に降り立った。
「アンパンマン!」
「どうして? 爆発に巻き込まれたんじゃ」
「ああ」とアンパンマン。「確かに巻き込まれたはずなんだけど・・・」
 そこへ、ホラーマンが現れた。
「アンパンマン、あなたは私と同じなんですよ」
「え? ホラーマン、それはいったいどういう・・・」
「顔を汚されると著しく戦闘意欲が低下する、という点はあなた特有のものですが、それ以外は私と同じ種族の特徴を備えています」
「種族の特徴?」
「ええ、すなわち、再生能力です。あなたは爆発に巻き込まれたようですが、驚異的な再生能力により、復活したんですよ。以前、あなたを研究した時に、我が種族特有の血液が流れていることが、わかりましたんでね」
「そ、そうだったのか」
「まあ、よくわからんが」とジャム。「何はともあれ、平和は保たれたんだ。アンパンマン、ありがとう」
 ありがとう、ありがとう、とアンパンマンを囲んで、みんな口を揃えて、彼に感謝を伝えた。
 アンパンマンにありがとう、バイキンマンにさようなら。
 そして、すべてのアンパンマンワールドの住人に、ありがとう。

 しかし、悪の根はたえていなかった・・・。
「バイキンマン、仇は取ってあげるからね。そして、私を振った食パンにも・・・」
 新皇帝ドキンは、ニヒルに笑った・・・。
 
 何故こんな話を書き始めたのか、思い出せません。
 おわり。

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