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ローマで芸術を食べて

海外旅行に行く時はいつも緊張する。すでに2回も1人旅をして、東欧では度重なるアクシデントに悩まされたので、緊張することも無いだろうと思ったが、そうでもないらしい。日本とは全く異なり、知り合いがいるわけでもない場所に行くわけだから無理もないだろう。今のところ、旅程は順調に進んでいる。ターミナルを間違えることもなかったし、飛行機が遅れることもなかった。今、レオナルドダヴィンチ空港からバスに乗ってローマに向かっている。今まで見たどのヨーロッパの都市とも違う景色が広がっていて、羊を放牧するための大きな原っぱと丘の上にある住宅地が特徴的。湿気があって、少し東南アジアっぽい雰囲気もある。雨季のせいか。むしっとした空気が日本の梅雨っぽくて懐かしい。

レオナルドダヴィンチ空港
ローマ郊外

宿にチェックインする前に昼ごはんを食べようとすると、レストランが昼休憩でかなりやってなかった。15時で1度閉めた後は、19時まで開かないらしい。なんとかやってるレストランを見つけて入った。ガーリックトーストとアマトリチャーナを頼んだ。どちらもかなり味が濃い。ガーリックトーストの方はトマトの甘さと塩っけが相まって美味しかったが、アマトリチャーナは塩の入れすぎだと思う。もしくはローマではこれが普通なのか。

ガーリックトースト
アマトリチャーナ
宿のエントランス

問題なくチェックインして、散歩に出た。特に行く当てはなかったが、とりあえずテルミニ駅から北西に向かって歩いた。そっちにはトレビの泉やスペイン広場があり、明日以降行く予定がないため、できれば初日に行ってしまおうと考えた。歩けば至る所にいかにも歴史がありそうな建物があって歩くだけでとても面白い。あっち行ったりこっち行ったりいろんなところを回った。結局この日の午後だけで、10km以上歩いた。

イタリアらしい建物
遠くに見える大聖堂
スペイン広場

夕飯は、元々調べていた La Carbonara という店に行った。名前の通り、カルボナーラで有名な店で、自分がよく参考にしてるイタリアンシェフのYoutube動画にも出てきたから、なんとしても行きたかった。店内は結構古めかしい感じで、少し薄暗かった。とりあえずカルボナーラと白ワインを頼んだ。カルボナーラはかなり味がしっかりしていて、普段自分が作るやつよりも旨味が強い気がした。おそらく、美味しいパンチェッタを使っているからだと思う。パスタはかなり太めで、ソースが強い分、バランスがうまく保たれている。疲れているからなのか、白ワイン1杯だけで、少し酔った。早く帰って寝よう。

カルボナーラ

2日目のメインはコロッセオ。昨日で歩き疲れたから電車に乗って向かった。電車は思ったよりも混雑していて、一本見送るほどだった。駅を出ると目の前にコロッセオがあり、写真でよく見る光景が広がっていた。朝一で行ったからか、コロッセオの中はかなり空いていて、独り占めしている気分になれた。30分くらいで一周して、隣にあるフォロ・ロマーノに向かった。

コロッセオ内部
閑散としたコロッセオ

コロッセオとフォロ・ロマーノはチケットが共通で、24時間以内であれば、両方入ることができる。だから言ってしまえば、ついでに訪れたくらいの気持ちだったが、これがものすごく良かった。敷地が広く、人に会うことが少ないから、古代ローマの世界にタイムスリップしたかのような体験ができる。ヴェルサイユ宮殿のプチトリアノンに行った時と同じような気持ちだった。しかも今回は、存分に時間がある。敷地内のありとあらゆる道を歩いた。自分がイタリアに思い描いた、まさにその景色があたり一面に広がっていた。2時間くらいひたすら歩いた結果、足が筋肉痛になった。

パラティーノの丘から
高台から一望
フォロ・ロマーノ

すぐ近くのお店で食べても良かったが、気になっていたレストランが近くにあったので、そこまで歩いた。テベレ川にある小さい島、ティベリナ島の入り口にあるTiberino Ristorante Barというお店に入った。何を食べるかは決めてなかったので、その日のスペシャルをそのまま頼む。前菜はアンティチョークのフライ。初めて食べる野菜だったけど、揚げられたアンティチョークはポテトチップみたいな感じで、サクサク食べれた。ローマの名物らしい。メインはラム肉のステーキで、鉄板に熱々の状態で出てきた。今まで食べたラム肉の中で、1番美味しい。羊肉だとわかるくらいのクセはもちろんあるが、苦いと感じるほどではないし、なんと言ってもめちゃくちゃジューシー。付け合わせのポテトも美味しい。かなり量が多かったが、なんとか食べれた。店員さんも優しく、とてもいいレストランだった。

ティベリナ島
アンティチョークのフライ
ラム肉とポテト

パラティーノとアヴェンティーノの2つの丘の間にある古代の競技場跡を通りつつ、カラカラ浴場に向かった。市街地から少し離れているからか、かなり閑散としていて、4、5組くらいしか敷地内にいなかったと思う。脱衣室や床のタイルなど、昔々に浴場として使われていた形跡が残されていた。もし古代ローマ人が、遺跡となった今のカラカラ浴場の姿を見たらなにを思うんだろうか。いつも何気なく使っていた浴場が、まさか2000年も後にも残骸として残ってるなんて思いもしないだろう。

カラカラ浴場
タイル

ローマに来たらしたいことの一つは、アッピア街道を歩くだった。何か特別な因縁があるわけではなく、学校の教科書に載っていて、せっかくなら歩いてみたいと思った。アッピア街道は街ローマの市街地からバスに乗って、20分くらい。教会でバスを降りて、5kmくらいひたすら歩いた。街から離れるにつれて、徐々に建物がなくなっていく。古代ローマ人はのこんな風景を見ながら、この道を歩いていたんだろう。ボコボコの石畳を歩くのは山登りしてるみたいで、かなり大変。途中、何匹かの猫が集まっていた。野生なのか、飼われているのかわからないが、結構人に慣れているようだった。道は永遠に続いていくので、いいところで見切りを付けて、バスに乗ってローマに戻った。

アッピア街道
昼寝猫

お店が開き始める19時までまだ少し時間があり、カピトリーノ美術館に来た。すでにかなり疲れていて、ボッーと見て回った。ローマ建国伝説である、狼に育てられたロムルスとレムスの像があった。ローマに来る前に『ローマ人の物語』という本を読んでいたから、少し興味深い。館内は迷路になっていて、出るまでに30分くらいかかった。ようやく出口を見つけた時には日が暮れていた。歩きすぎたせいで足は棒のようだ。旅行中に歩き過ぎる癖をどうにかしないと、この先旅行行くたびに筋肉痛になってしまう。

カピトリーナのオオカミ

「芸術は爆発だ!」という言葉は、芸術が何らかの感情的な高まりによって生み出され、受け手もそれを見て気持ちが高まるということを表している。自分はこれまで特に芸術に深く足を踏み入れることもなく、なんとなく芸術は爆発なのだろうという意識で生きてきた。しかし、ここ数ヶ月の間にいくつかの美術館を訪れることで、この言葉が間違いなのではないかと思うようになった。いくつかの作品を通して自分が感じたことは、芸術は割と計画的にであり、論理的なのではないかということ。つまり、一瞬のエネルギーを利用して作品を作るだけが芸術ではなくて、緻密に計算され、論理的に説明可能な芸術も存在するのではないかということ。自分は作品を作った経験がないから制作者側の哲学はわからないので、ここで特に強調したいのは受け手側の話。何か作品を見た時に、それを凄いと思うかどうかはその人の知識量に比例するのではないかと思う。特に宗教画の場合は、絵に描かれているモチーフは何を意味しているのかや、神話のどの場面が描かれているのかがわからなければ、楽しさは半減するだろう。宗教画の良さを十分に楽しむには、宗教的知識が不可欠だ。その点、風景画は事前の知識を多く必要としないため、自分みたいな人にも良さが伝わりやすい。

アネネの学堂

バチカン美術館ではそれを深く感じた。例えば、『アテネの学堂』は多くの哲学者や科学者がモチーフに描かれている。それぞれの仕草には全て意味があって、イデア論を唱え概念的なものに価値を見出したプラトンは指を天に向け、自然哲学などより現実世界に沿った思想を持つアリストテレスは指を地に向けているなど。これらは高校とか大学の授業で学んだ知識を前提としており、絵を見てすぐに面白いと感じた。逆に、バチカン美術館の目玉、『最後の審判』はその絵の壮大さに驚きつつも、一見して何が何を意味しているのかよくわからなかった。オーディオガイドを聞いて、いくつかの知識を元に改めて見ると、確かにこれはとんでもない絵だと感じる。もちろん芸術にも感覚的な要素はかなり多くあって、それが人の心に訴えるような作品もたくさんあると思う。ゲルニカとか。でも論理的に凄いと思えるとよく記憶に残るし、上手く言語化しやすい。バチカン美術館ではそんなことを考えた。

ベネチア美術館の螺旋階段

バチカン美術館のあとはもちろんバチカン市国。留学開始から訪れた国の中では、これで11ヵ国目になる。入国にはパスポートもいらないければ、入国審査もない。どこからどこまでがバチカン市国の中なのかもわからなかったから、気づいたらサン・ピエトロ広場に出ていた。まず、クーポラと呼ばれる展望テラスに登った。エレベーターで途中まで登り、そこらさらに階段を使うのだが、前日は20km以上歩き、ここまで美術館で立ちっぱなしだった自分にはかなりキツかった。自分以外もかなり大変そうな様子で、みんなで「まだかよぉ」みたいな雰囲気を共有しながら登った。展望テラスからの景色は、まさによくテレビとかで見る景色。しかもよく晴れていた。今、バチカン市国をサン・ピエトロ大聖堂の上から見下ろしているんだ、という気持ちがフツフツと湧いてくる。遠くの方には、アルプス山脈と思われる雪山が薄らと見えた。

クーポラに続く階段
バチカン市国

クーポラの後は、大聖堂の中を見学した。ありとあらゆるものが美しすぎて、どこを見ていいのかわからない。息を呑む美しさとはまさにこのこと。天国みたいな場所だった。大聖堂の地下には墓地があって、歴代の教皇が納められている。かなり重苦しい雰囲気が漂っていた。中には先月亡くなったベネディクト16世の墓もあった。ご遺体は別の場所に安置されているらしいが、花が添えられていたりしたので、聖地として巡礼されているのかもしれない。出口付近にいるスイス衛兵の制服もちゃんと確認して、大聖堂を後にした。

サン・ピエトロ大聖堂
クーポラ

お腹ぺこぺこの状態で少し歩き、先月ローマ旅行をしていた友人のオススメのSfiziami Italian Bistrotというレストランに行った。かなりローカルな雰囲気のレストランで、店員さんも気前が良さそうだ。前菜はカプレーゼ、メインはラザニア、デザートはティラミスにし、ワインは泡にした。ここまでローマ旅行してきて、なんでモッツァレラを食べなかったのだろうと後悔するほど美味しかった。ラザニアはパスタがしっかりと硬く、ローマらしい。デザートを待っていると、ティラミスが売り切れてしまったと言われた。せっかく美味しいレストランを見つけたのに、デザートまで食べれないなんてもったいなかったがしょうがない。店員さんの好意でワインは無料にしてくれた。次またバチカンに来た時は、また来よう。お腹がいっぱいになり、ホテルに戻って昼寝をした。

カプレーゼ
ラザニア

昼寝をした後、また食べに行く。イタリアに来たのだから、食べずにはいられない。ローマ最後の食事は、パンテオンの目の前にあるArmando al Pantheon。少し高級感のあるレストランで、予約が必要だったらしいが、ギリギリ入れた。サルティンボッカとワインを注文。サルティンボッカはローマの伝統的な肉料理。ローマに来る前に一度自分でも作ってみて、とても美味しかったから、ぜひ本場の味をと思って食べに来た。「サルティンボッカに合うワインをお持ちしましたが、これでいかがですか」とワインの試飲ができるほどの徹底ぶり。期待が高まる。窓越しに見えるパンテオンを眺めつつ、ワインを飲んでいると料理が運ばれてきた。見た目は地味でシンプルだが、それがまたいい。セージの香りが強く、お肉の旨みに生ハムの塩っけが合わさってとても美味しい。ワインと一緒にすればなお良い。食べ終わるのが悲しくなる。デザートは、先ほど食べ損ねたティラミスを注文。これもまたシンプルに美味しい。なかにナッツが入っていて、その香ばしさもまたいいアクセントになっていた。またいいレストランを見つけてしまった。

サルティンボッカ
ティラミス

次の日の朝。荷物を整え、チェックアウトし、空港に向かった。初めて来たときはどこに何があるか全くわからなかったのに、帰る頃になるとだいたいの地理感覚が身についている。これはどこも同じだ。ローマは特に、歩き回りすぎた。帰りの飛行機も問題なく出発し、無事に昼過ぎには家に戻った。

ミラコスタのような建物群

今回のローマ旅行は、急遽決定したものだった。イタリアを旅している友人の写真を見て行きたくなったのと、ちょうど飛行機がセールで安くなっていたためだ。衝動的に行こうと決心した。もともとイタリアはそのうち行きたかった国ではある。それはもちろんイタリア料理のため。寮で料理をするようになり、やれサルティンボッカだ、スカロッピーネだ、とイタリア料理をいくつか作った。自作のものでも美味しいが、これが正解なのかわからなかった。そうなるとやっぱり、本場の味を試してみたくなる。今回のローマの最大の目的は、それだった。ローマでイタリア料理を食べまくった結果、自分がイタリアンシェフ考案のレシピを元に作ったものでも、かなり本場と同じくらい美味しいということがわかった。ただ、自分に作る料理と、レストランでサービスしてもらいながら食べる料理は全く違うものだ。特に、イタリア料理をイタリアで食べたら、それは美味しいだけでなくて、何かもっと理性的に楽しいものでもある。料理だけでなくて、美術館やアッピア街道を歩くことで得られる経験もそういった類のものだ。ローマでは、イタリア料理への個人的な興味とローマが持つ長い歴史から、そういう経験がたくさんできた。

スペイン広場上から

ここ数ヶ月の間で、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ローマと古代から現代までの大都市を旅行することができた。こんなに短期間で旅行できることもそうそうないだろう。それぞれの街が個性的な歴史と風景を持ち合わせていて、とても面白い。とりあえず、2月は、3月以降に備えるために旅行しない予定。

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