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月の土地

 67歳になった。
仕事も辞め、どこかに旅行とか、アレが欲しいとか、コレやりたいとか特に思わなくなった。お金が無いという理由もあるが、あちこち身体が悪く、体力が以前のように無くなったことが一番の理由だろうか。
 やはり健康な身体と精神さえ有れば、何でもできそうな気がする。

 さて、そのたいして嬉しくもない誕生日に、長男から誕生日プレゼントが届いた。
A4版の書類3枚と、その書類を入れるためのファイルセットとブラックカード。
書類には、月の図面に土地権利証と月憲法権利章典となるものが英語で書かれている。
そこには、確かに自分の名前と購入した土地の位置まで記されている。
その購入した場所が、餅をついているウサギのちょうど足の付け根あたり、まさに金玉があるところだ。わかりやすい。
面積は1エーカー、なんと1200坪もある。

『なんじゃ、これ!』
思わず、口から叫んでしまった。
声に反応した奥様がとんでくる。
「月の土地?いくらしたの?」
凡人だと感じた。やはり、お金にいくかあ。
「全世界の人達が買っているんでしょう?隣の人がどんな人かわからないから、早く土地の境界に杭を打った方がいいんじゃない?」
凡人では無かった。
ちょっと話が飛びすぎの感じがする、がおもしろい。

 いくらかかったか知らぬが、お酒の方が良かったなんては思わない。
お酒は飲めば無くなるが、あの月は、恐らくいつまでも、明るく輝き続けているだろう。

 満月を指さしながら、隣で座って見ている孫の海に、
「ちょうど、あのウサギの足の付け根あたりがジイジの土地だよ」
「そうだね、ウサギの金玉あたりだよね」
「ははは」
と笑う。

まてよ、ウサギが餅をついている姿だと思っていたが、餅じゃなくアレは杭を打ってるんじゃない?

まてまて、この子が大きくなった頃、
「今度の日曜日に、ちょっと、ロケット乗ってジイジの土地を見に行ってくるわ」
なんて時代になってたりして!

まてまてまて、あの金玉の位置に、まさに金が埋まってたりして!

月を見る度に、夢があふれてくる。
ステキな誕生日プレゼントでした。

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