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憧れの自転車

 息子がもういらないというロードバイクの自転車をもらった。
長らく、雨風にさらされていたせいか、チェーンやギアは錆び、ハンドルのグリップテープはボロボロで、触るだけで手が真っ白になった。
『こうなる前にくれよ』
いや、こうなったからいらないと言ったのか。
まあ、どちらでもいい。こっちにとっては憧れのロードバイク自転車だ。
 ギアの数が前に3段、後ろが7段?!21段か。そもそもこんなにギアがいるんか?。昔はせいぜい3段しかなかったのに。
チェーンとギヤに油をさす。ブレーキもちゃんと効くように調整する。どうにかおかしな音はしなくなった。
サドルの位置がえらく高いので、一番下まで下げるが、それでも片足のつま先でようやく地面に届くくらいだ、さすがスポーツタイプ。いやこっちの足が短いだけか。
ハンドルがドロップなので、運転し易いようにここはひっくり返す。ハンドルのテープも新しい皮のものに張り替える。
見違えるくらい新しくなった。
『なかなか、ええんじゃない?』
一人悦に入る。
 タイヤは普通の自転車よりも細く、いかにもスピードが出そうな気がする。
空気注ぎを持って注ぐ。
ところが、何度空気注ぎのポンプを押しても、硬くて、にっちもさっちも空気が入らない。そういえば、バルブの部分が昔の形とは違っている。それも、前輪と後輪部分の形が違っている。
『なんじゃ、これ』
たかが自転車の空気さえ注げなくなったのかとがっくしきた。
 どうやって空気を注げばいいのか、息子に聞いた。
フランス式とかイギリス式とか言っていたが、要はアダプターを付ける前にムシ部分を緩めておかないと入いらないらしい。前後輪の形が違うのは、アダプターが付いているかいないかだった。
 自転車も外車仕様になったってことか。なんでもかんでも、日々進化しているが、知らないうちにこうやって取り残されていくんだろうなあ。
 
 絶好の天気なので、試運転も兼ねさっそうと出かける。
車とは違う、同じように直接風をきるバイクとも違う感覚を久しぶりに味あう。
 初めて自転車専用道路を通るが、信号もなく、とても快適に走れる。
爽快で風になったようだ。
 坂道もギアをチェンジすれば何んの苦も無く登れる。
さすが21段変速ギアだ。
 1時間も走ったろうか。
サドルが硬いスポーツタイプなのでお尻が痛くなり始めた。
お尻を右や左にずらして漕ぐが、やはり痛い。立ちこぎをする。
先ほどは軽々と登れた坂道がつらい。スピードもでずトロトロと走る。
帰り道がえらく遠くに感じる。
『何が21段や!』
横をママチャリが、勢いよく追い越していく。
『チッ』
前と後ろにも子供を乗せている3人乗りだ。
こういう時に限って、後ろの子供が笑って手を振ってくる。
こっちはそれどころじゃないけど、ここは、無理やり作った笑顔で手を振り返す。あくまで爺さんは優しいのだ。
 坂道、必死になってこぐ。
すると、また横をママチャリが、これまた涼しい顔をして追い抜いていく。
こちらは、汗びっしょりで、桃色、否青色吐息。
さらに、今度は婆さん一人が乗った自転車が、あっという間に追い抜いていく。
「何?何どういうこと?」
見れば、すべて電気のバッテリーを装着しているではないか。
あれが噂の電動アシスト自転車ちゅうやつか!
「電気つよし!」
なにが21段ギヤや!

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