町田ゼルビア戦 (Home)

  初のJ1の舞台でセンセーションを起こしている町田ゼルビア相手に完封勝利。そのインパクトは大きかったようで、方々で報道されている。その中には、ゼルビアのネガティブに報道されがちな部分(ロングスロー、セットプレー、時間稼ぎ、ファールの多さ…)を背景に、"ざまあみろ"的な論調(というより感情、が適切かも)がちらほら散見されるが、J1に上がっていきなりこれほど注目されるというのは本当にすごいことである。一般に、弱者は悪者になれない。ゼルビアに弱点はないわけではないが、弱点を露見させない試合運びの巧みさが、黒田監督就任以来一貫して見られてきた。J2→J1へステージが上がっても、その強固にして合理的なチーム作りは、綻びを見せることはないように思われた。
 今シーズン、敗戦はヴィッセルとサンフレッチェに対してのみ。いずれも力負けという印象で、黒田監督もある意味潔く相対的な実力不足を認めているようなコメントを残している。すなわち、現状では想定通り。他に同様に土をつけられるのはマリノス、セレッソぐらいか。そして、これまで既にアントラーズ、フロンターレ相手に勝点3を獲得している。他の強豪と言われるチームもほぼ必ず、取りこぼしをいくらかはするわけで、ゼルビアが順当に勝点を稼いでいけば、最終的な順位はかなり上の方に位置するのではないかと言う展望を抱かせる戦いぶりであった。自分もどちらかと言えばアンチだが、そう思っていた。
 だが意外にも、この我がジュビロ戦で、いくつか、これまで見せていない、
若干弱々しい面を眼前に拝むことになった。
 
  この試合の各種総評において、「前半はゼルビアが優勢に進めたが….」という意味合いのセンテンスを多く目にしたが、自分はそう思わなかった。開始時点から、あまり怖さを感じなかった。ゼルビア主体で表現すると、どこかギクシャクしている感が如実にあった。もちろんだからと言ってジュビロが圧倒していたわけではなかったが、守備面では常に一定の余裕を感じさせ、攻撃面ではいわゆるポジティブ・トランジション時にゼルビアのプレスが遅く、キレイに前線にグラウンダーのパスが通るシーンが目に付いた。
その背景を自分なりに分析すると、以下3つの理由が挙げられる。
 
 ①主審の笛の基準
  ゼルビアは敢闘精神がチームに行き届いていて、球際のファイトを厭わないチームである。だからと言って、無闇にファールやイエローの数を増やすのを良しとしているわけではなく、時と場所と手段を選ぶ。そこに黒田監督の合理性の一端がある。具体的には、自陣深くではできるだけファールを貰わないよう、クリーンな守備を徹底しているように見える。言うまでもなく、ファールを取られたらセットプレーのチャンスを与えることになるからだ。
 そして、どのエリアでも極力、手を使ったり、一か八かのタイミングでスライディングを仕掛けたりと言った、結果イエローを貰いがちな守備は、チームとして控えているように見受けられる。代わりに、ミドルゾーンと相手陣地深くでは、ゴールをコントロールしきれていないボールホルダーに対し、体ごとぶつけていく極めてフィジカルな守備を敢行する。
  このジュビロ戦でも、そんな守備を開始からいつものごとく遂行しようとしたが、悉く、ゼルビア側にファールの笛が吹かれた。パッと見の印象では、7-3、6-4で比率でファールなんだけでも、もしかしたら流されるかも、という局面でほぼ全てファールを取られることになり、ゼルビア側からするとちょっと不満を抱きつつも、審判がそうなら仕方ないな、という諦めがもやっと拡がっていってような雰囲気を感じた。
 7-3、6-4なのでファール判定は妥当と言えば妥当なのだが、1回でも流されるシーンがあると、相手にはまず精神的なストレスがもたらされる。テクニカルな面では、ファールと思ったのにそうじゃないと、必然的に直後の反応が遅れてその後のピンチになりやすい。そして、その後の局面ではフィジカルバトルに負けじと過度に強く当たって逆にファールを貰ったりしてしまう。ロングスローも同じだが、相手に心理的・体力的なダメージをジャブを繰り出すが如くじわじわと与えて、イニシアティブを握るのがこれまでの王道スタイルである。事実、アントラーズ、フロンターレもかなりのストレスを抱え込まされて同情を禁じ得ないほどであったが、この試合、主審がわりと素直にちょいラフ位の強度に対して笛を吹く傾向であるとわかると、途端にそういったチャレンジは減っていったように思う。特に悪質ではなくても、同様のファールが2,3続けばイエローの対象になるわけで、そこは合理性を持ったチーム故、やはりチームとして球際でのチャレンジを若干控え目にするようにとの指示が下ったと決めつけるのは、穿った見方だろうか。だが実際、終了のホイッスルまでラフなチャレンジはほぼ皆無だったように思う。それは、ジュビロにとっては間違いなく吉と出たと言える。
 
 ②展開力の乏しさ
  BS放送の解説者が、ジュビロの守備陣はよく跳ね返しているが、クリアを中に返しがちなのがいただけないというようなコメントをしていたようだが、これは意図的なものであったのではないかと推測する。敢えて中に返そうとしていたわけではないかもしれないが、狙いとして、ペナルティエリア両脇のスペースにボールが流れる展開を徹底して避けていたように見受けられる。
 町田の攻撃の基本パターンはペナルティエリア両脇のスペースをサイドハーフが独力で踏ん張り、あるいはサイドバックのサポートも活かしつつ(ただし、サイドバックがサイドハーフを追い抜くことは稀。DFは常にボールより自陣寄りにいる、というセーフティーな金科玉条が徹底されている)、ゴール前に合わせる、あるいはイーブンの状況を無理やりにでも作り出してシュートチャンスに繋げる、というものである。ロングスローも同種のコンセプトに収まる。
 ロングスロー対策もあったのだろうが、ジュビロはこのエリアにそもそもボールが流れないように徹底していた。例えば、自陣右サイドからクロスを上げられて、右サイドバックがブロックを試みディフレクトして左サイドに向かってボールが飛んでくる。他の相手であれば無理せずそのまま左サイドタッチラインを割っても問題ないところだが、この試合ではセンターバックなり左サイドバックなり、あるいはMF陣が無理やりにでも左サイドに流れないようボールに触って、中に押し戻しているシーンを、何度も見た。
 サッカーの常識的に言えば、クリアを中に返すのはNGのはずだが、ゼルビアサイドは前例のない展開に戸惑っているように見えた。いや、戸惑っていたかどうかは定かではないが、センターハーフにボールが集まる回数が増えたことで、結果的に、その展開力の不足が、無残にも露呈することとなった。単純に、ピッチの真ん中でボールを保持して主体的に攻めるというスタイルがチームに組み込まれていないのであろう、アイデア・工夫のなさは歴然としていた。 韓国人ツートップも、高さ・強さ・アタッキングゾーンでの強引さが持ち味で、下りてきてパスでの崩しに絡むのには及び腰であるようだった。
 終盤、スクランブルになっていくつか決定的チャンスも作られたが、想定内の局面が続いたこともあって、ある程度安心して終了のホイッスルまで観ていられた。
 別にこの場でゼルビアのネガティブキャンペーンを張るつもりは全くないが、ここまで10節、諸々の試合を観てきた中で、中盤の構成力に関してはゼルビアはJ1最弱レベルだと思う。相手を翻弄できるようなレベルでは決してない。このウィークポイントを今後どう解消していくのか-あるいは、露呈しないような戦術を取ってくるのか-は、智将・黒田監督のお手並み拝見のポイントである。
 
 ③センターバックの質、連携
 フランスに渡る前は、昌子源はリーグで最強の日本人センターバックで間違いなかったと思う。ただ、現地での怪我の影響のあるのかもしれないが、かつての無双状態には、もうない。アントラーズで先発で出られないようになったのも、悲しいかな分かるパフォーマンスだった。
 もう一つ、相棒ドレシェヴィッチとの相性も挙げられる。ドレシェヴィッチも、パス出しにも長けたスイーパータイプ。障子も渡仏前、カバーリングの技術が特に抜群だった記憶がある。相性的に、どうだったか。定石の通り、どちらかはストッパータイプの方が良かったのかもしれない。今時、センターバックをスイーパータイプとストッパータイプに分類するのは適切なのか自信はないが(20~30年前は確かにしていた)、中央でのいつもの強さが欠けていたように見える。結果、ジャメは更にその身体能力を発揮していたし、ペイショットもボールの受けにそれほど難儀していなかった。両名が受けていたプレッシャーは、この試合においてはソフトな印象さえ受けた。
 これまで、ドレシェヴィッチの知性、センスとチャン・ミンギュの強さが際立っていただけに、後者が先発であれば、また違った展開になっていただろうと思われる。

 ゼルビア目線でこれまで紙幅を使ってしまったが、最後にジュビロサイドにも言及。と言っても、たいていそうなのだが、勝ち試合では守備陣の奮闘以外にジャメしかこれといった感想がない。この試合では巧みなターンからの超絶スルーパスまで通してしまった。
 古い話で恐縮だが、最盛期のファン・ペルシーのようになっていないか。闘ってきたステージの次元があまりに違うとしても、存在感・全能感を同じ程度に備えているように思えてしまう。他を寄せ付けないオーラ。事実、なんでもできてしまう。あの、失礼ながら足の速さ以外に特長がないと思っていたプレーヤーが1年ちょっとでここまで変身するのだから、コーチもサポーターも、長い目で成長を見届けるべき、ということだろう。

 相変わらず、攻撃面では多様性の向上は見られない。相変わらず、平川はまだまだ。ただ、首位に勝った以上、大黒柱の持ち味を最大限活かすべく、この布陣をベースに戦い続けていくのだろう。怖いのは、ジャメが不在の試合。正直、どう攻撃するのかも見当がつかない。他のアタッカー陣では相手DF陣からイニシアティブを握るには至らない。これはジュビロの潜在的な、かつ大きな課題であろう。


 

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