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古典初心者が読む瀬戸内源氏 巻四  ~恋人よ

 どうも、記念会の古典初心者のKです。NHKの大河ドラマ「光る君へ」、まひろこと紫式部と、その生涯のソウルメイトの藤原道長の秘密の恋!ヤバいですよね。まるで光源氏と藤壺の宮を髣髴とさせ、今後も目が離せません。

 さておき、巻四。源氏三十一歳冬から三十六歳の初夏までの話です。今回の巻も内容てんこ盛りでした。
 まずは、須磨から京へ来た明石の君とその姫君の子別れの場面が涙を誘います。源氏は明石の君の身分の低さから姫君の将来を憂い、紫の上の子として育てることを画策するわけです。紫の上は石女、いわゆる既婚子ナシの設定。即ち、生みの親か育ての親かというところでしょうか。昔ハリウッド映画に「ステラ・ダラス」という母娘の悲哀のメロドラマがありました。きっとそういった悲哀劇は世界共通なのかもしれませんね。

 この巻にはまた、朝顔の姫君が出てきます。源氏物語において唯一、光源氏になびかなかった唯一の女性。その意志の強い賢女ぶりは現代女性にも通ずるものがありそう。その対極として紫の上がいて、事実紫の上はこの朝顔の君の出現に嫉妬し、自分の地位を奪われるのではないかと不安に駆られていきます。
そんな紫の上の不安をよそに源氏はかねてからの構想、六条の院という大ハレムを造築。そこは四季を当てた四つの町がありそれぞれの方角に、花散里、明石の君、六条御息所の娘の秋好中宮が住み、そして源氏と紫の上が暮らす春の町があるという具合。

 かつての源氏の亡き恋人の夕顔の娘、玉鬘も見逃せません。北九州の田舎で静かに暮らしていた娘はあらゆる偶然の導きで源氏の許へ。実は源氏の永遠のライバル、頭の中将がほんとうの父親ですが、源氏は夕顔の忘れ形見として引き取るのです。寂聴さんはこの経緯を平安シンデレラ物語と呼んでいます。一応、源氏は父親役として玉鬘の婿探しをしますが、あまりに夕顔に似ているので、いつもの悪い癖が出て横恋慕、源氏の毒親っぷりに呆れます。

 さて、この巻でいちばん印象的な出来事は、源氏の生涯のソウルメイトで愛の共犯者、藤壺の尼宮の死ではないでしょうか。源氏のすべての恋慕の原点ないし、原動力の喪失は筆舌に尽くしがたいほどの哀しみでした。
源氏は庭先の桜を眺め、念誦堂に籠り終日泣き暮らします。

夕日がはなやかにさして、山際の木々の梢がくっきりと見えるところに、雲が薄く棚引いているのが、喪服と同じ濃い鈍色なのを御覧になりますと、この日頃は悲しみのあまり何ひとつお目にも入らないのに、たいそうしんみりともの悲しく思われます。

入り日さす峰にたなびく薄雲は もの思ふ袖に色やまがへる
(入り日さす峰に たなびいている薄雲よ 悲しいわたしの喪服の色に似せ
あんな鈍色をしているのか 共にあの方の死を悼むために)

とお詠みになりますけれど、誰も聞く人のいない念誦堂のことですから、詠み甲斐のないことでした。

(抜粋 源氏物語 巻四 瀬戸内寂聴訳)

 最初の妻、葵の上が亡くなったときもそうでしたが、光源氏は一見チャラチャラしたプレイボーイですが、こうして見ていくと愛した人を次々と看取っていきます。そのレクイエムの歌は、何とも見事です。
私は思うのですが、ある意味紫式部は“死を悼む人”としての主人公像を光源氏に託したのかもしれませんよね。

 恋人よ さようなら。

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