見出し画像

躾糸取るの?取らないの?

こんにちは、ものぐさ和裁師です^^

先日インスタのフォロワーさんが躾糸についての疑問を取り上げられていたので書いてみることにしました。

◯躾糸(しつけ糸)

仕立て上がりの着物には必ず付いている躾糸。
読んで字の如く、身を美しく保つ糸。ですが、
本来の目的は重なり合った布同士がズレない様に止めておくための糸です。

ズレ防止の糸なので着用する際にはその糸は外して着用するのですが、どこまで外して良いのか?が時に分かり難いためその基準を書いておきますね^^

躾糸に関しての別の話はこちらから↓↓↓

襦袢の袖に入る躾糸(白糸の部分)

①襦袢に付いている躾糸は取らなくて良い

↑↑写真にある襦袢の躾糸は外さずそのまま着用して大丈夫です。
襦袢は上から着物を着るので躾糸の部分は中に入って見えないので心配無用です。

ただし、和裁の教科書その他を開いても、襦袢の躾糸は取らなくても良い。という細かな記述が見当たりませんので、自然の流れから生まれた風習かな?と思われます。

襦袢の躾糸を外してしまったからといって問題は全くありません。

着用後箪笥にしまう際に、裏が吹いてきたり等の心配がある場合は改めて躾を掛けてしまえば良いのです。

②着物やコートに付いている躾糸は基本的には取る

まず躾糸と縫い糸の区別ですが、白い糸で入っている縫い目の大きい糸が躾糸です。

着物と同色で入っている糸は必要な糸なので外さずに着用されてくださいね

分かりにくいのですが躾糸の入った着物です
この大きな針目の白糸は着用時に取り除く

ものぐさの私物は躾糸を全て取り除いているので、祖母の箪笥から拝借しました↑↑

③基本的に取らない躾糸 《縫い躾》

白糸で上から抑え縫いしてある糸でも基本的には取らなくても良いとされているのが・・点々・・と入っている《縫い躾》またの名を《ぐし糸》《ぐし躾》と呼びます。

この白い点々が、ぐし躾・縫い躾です。

ここからの話が長くなります(^^;)

和裁の教科書から引用


縫躾(串躾)
縮緬類のように折山の崩れやすいものに、抑えと飾りの二つの目的でする。
布が3枚〜4枚重なっているから、自然表目を小さくし、裏目を大きくするが、その方が美しいのである。但し、この躾は仕立て上がった後も取り除かない。
和裁精義より引用

と上記の通り、この縫い躾糸だけは取り除かない。と記述があります。

この縫い躾は主に、フォーマルである留袖や喪服、紋付、訪問着などに入れてあることが多いです。

出会う和裁士さんによっては、絶対に取ってはいけない!と強く念押しされる方もいます。

ですが、ものぐさはこの辺りに少し疑問を持っております。
昔の教科書を開くと縫い躾についての記述は殆どありません。入れてなかったわけではないと思いますが、あくまで布同士を止めておくためのものといった認識の方が強かったのではないでしょうか?勿論、身を美しく!の意味は成していたと思いますが、縫い躾に関しては昔は完全に取り外して着用していたのではないか?と思います。

◯縫い躾にも歴史があるんじゃないか?

躾糸と名の付くものはすべて取り除く。

昔どこかの地域での話ですが、お葬式が行われるので喪服を準備するといった際に、どこどこの女性はぐし躾(縫い躾)を取るのが早すぎるから、亡くなるのをわかってたんじゃないか?と噂される。という内容を読んだ事があります。

縫い躾を取り除くのは手間の掛かることです。
その時間が早すぎるから村の人から有る事無い事変な噂を流される…
確かこの記述を読んだ時、ぐし躾を必ず取らなければならないかは地域によって変わるとも書いてあったと記憶しています。

それから、天皇陛下に出会うなどの正式な場所での着物は必ず縫躾であっても取らなければならないとも読んだ事があります。

それが本がどれだったか覚えておればよいものの…昔の記憶なので失念してしまいましたm(__)m

◯ものぐさの考える経緯

アンティーク等の昭和初期頃までの着物に入っている縫い躾は現代の新しい着物に比べると縫い目が荒く大きい。(この写真がないので持たれている方は写真を送ってくださるとありがたいです。宜しくお願いします)

私が和裁を習い始めた頃は縫躾は、アンティークよりは細かな縫い目で縫い躾を入れると教わった。

しかし海外縫製等も含め、もっと新しい着物へは縫い躾ではなくて、《返し躾》といった縫わずに一針一針返し縫いで入れ、見た目は縫躾よりも更に美しい躾が施される様になった。

2点を比べてみましょう↓↓↓

返し縫いで入れた《縫い躾》
《返し躾》ともいう
こちらは縫って入れるので《縫い躾》

最近読んだ和裁士さんのブログで、『縫い躾ってまだあったの?絶滅してるのかと思った!』の様な内容を読んでビックリしました。
ありますともありますとも♩

この細かく美しく入れる、縫い躾や返し躾が主流になりだした頃から『縫い躾は取り除かなくて良し◎』となっていったのではないでしょうか?

というわけで和裁の教科書では『取り除かない』と記述はありますが、あくまで目安ですから縫い躾に関しては、自分の産まれ育った地域のしきたりや雰囲気に合わせて取るか・取らないかを選択していけばよいと考えられます。

◯着物の地域性

インターネットの普及によりこの様な細かい疑問であっても、ネットで検索すれば簡単に解決できてしまいますよね。

そのことの何が一番恐ろしいかと言うと、簡単に調べて一つの答えに辿り着く事によって情報が統一化されてしまうというとこ。

情報が統一化されるということは、地域地域にあった独自性や風習などが軽視され、ネット上でのインフルエンサーが発信する情報の方が正しいと認識されることで、その地域のあるべき姿が無くなってしまうということ。
その事へ少なからず恐れを抱いてしまいます。

昔の風習?そんなの刷新していけば良い!と考える方が居って当然ですが、自分のアイデンティティというものは、産まれた国や育った場所に根強く繋がっているもの。
それが日本中で統一されてしまう…良いか悪いか、その事についてもよく考えないといけませんね^^
こうやって発信する側も配慮した書き方をしなければなりません。

分からないことがネットに書いてある事は多いのですが、まずは年配の家族の方や近所の方に尋ねてみるのも一つの解決策でしょう。
その事がより一層自分の地域に対する愛着が湧き、その地域が活性化する一つのきっかけに繋がると思うから。

◯しつけ糸はいつまで必要?

現代に於いては、生地同士を止めておくための糸というよりかは、出来上がりの見栄えをより美しく整える為の糸という感覚の方が強いかと思います。

実際にものぐさが見てきた中では、どんなに縫いが粗雑でも、躾糸さえ美しく入っていればそれなりの見た目になりお客様の目を誤魔化す事ができるといったことも…
例外として躾絲だけは上級の者が替わって入れる。など昔聞いたことがあります(^_^;)
滅多に無いことだとは思いますが、お客様に受け入れてもらうための一つの策として考えられたのでしょう。

躾糸は縫いの最中に、仕立てがよりスムーズに行われるべく入られます。
一旦仕立て上がって、躾を外してしまえばその後改めて入れておく必要は殆どありません。

※喪服やフォーマルの様な滅多に着用しない着物に関しては、キセがめくれてこない様に、ぐし躾を新たに掛けて夜着畳みでしまうということも。

夜着たたみ(やぎだたみ)の着物と襦袢

着用後の躾糸の有無に関しては、色々な場合がありますから、やはり虫干しの際などの定期的なチェックが必要なのと、心配なことは直ぐに信頼しているお店なりに相談されるのがベストだと思います。

もしも仕立てを依頼するのであれば最初から多少お値段は張っても、良い仕立ての和裁士へ依頼するのが望ましいと思います。
安上がりは一見、幸運の様に見えますが、後のメンテナンスに掛かる費用を考えれば、最初に投資した方が安く抑えられるでしょう。

凡そ20年前にものぐさが仕立てた振袖
殆どバランスは崩れていない

とにもかくにも。着物に最も必要な事は購入のメンテナンス一択!

◯良い仕立ての見抜き方

着物のことが分からなくても良い仕立ての着物かどうかを見抜く術はあります。それはその着物を畳む時にスッキリと畳めるかどうかをよく見てください。

畳んでいるうちに左右どちらかの身頃がズレて合わない、合して畳むと他がズレてくる、そもそも無駄シワがある状態で手元に届いた。等々、完璧な仕立てとそうでないのとでは見た目にも違いはありますが、保存する際にもチリツモにストレスが加わってくる

ものぐさはアンティークの着物をそのまま着用する事は殆どありません
必ず一から全て自分の手で縫い直してから楽しむようにしています。
自分以外の方が仕立てた着物は縫い目等がどうしても気になってしまうので、その事でストレスを貯めるくらいなら自分で縫って安心したいという気持ちから(^^;)
サイズ云々ではないところが、潔癖の現れかもしれません・・・反省してもしょうがないのですが。

また無駄に長くなってしまいました。

今やアンティークの着物はそこら中に溢れてて、あの着物が!!?そのお値段で手に入るなんて?開いた口が塞がらない状態の市場になっていますが、購入後はメンテナンスをしっかりされて、安く手に入れたとしても、愛情をたっぷり掛けて育てられたら…と1人感じております。
愛情を加えることでメンテナンスもきっと楽しくなると思うのです。

ここまでザックリと書いたのに、長くなってしまい下手こきました。またまた反省です。

今日はここまで。
以上ものぐさ和裁師でした🪡





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?