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心の支えでいてくれて、ありがとう。


長男のいちばん仲良しなお友達が、欠席だった。

朝、それを知ったときの長男の顔といったら。
「今日は一日、つまんないね」だって。


そうかな、うん、でも、そうだよね。
残念だね。
他の子と、遊べたらいいね。
ね。

寂しいトーンでそんな会話を交わしながら、園のクラスの前で別れた。
いつもなら、息子がクラスに着いた途端、「おはよー!積み木しよか!」と声をかけてくれる、あの友達。
ああ、彼は今日、お休みなのかあ。



お休みの友達、Aくんと息子は幼馴染だ。
小さい頃から家が近くて、よく顔を合わせた。

小さい頃から、タイプは真逆だった。
息子はおとなしく、インドア派。
Aくんは元気で、アウトドア派。
相入れなさそうな2人を見ながら、「この子とうちの子が、仲良くなる未来が見えない」といつもおもっていた。

しかし。
そんな親の、いやわたしの、勝手な心配とは無関係に、彼らは徐々に親しくなり、彼らにしか分からない絆を結んでいった。

Aくんがどうおもっているかは知らない。
でも息子にとっては、あきらかに他の子とは別格の友達だ。
唯一無二の存在ともいえる。

Aくんがいるから、早く行くねん。
Aくんと、ペアなんやで。
Aくんと、ご飯食べてる。

Aくんがいるから、息子は園が楽しくなった。
Aくんがいるから、がんばれた。


そんなA君の、初めての不在。
なぜか、息子本人よりも、送り出したわたしの方が不安になる。

今日という一日を、長男はどうやって過ごすんだろう。
楽しく帰ってくるだろうか。

もし迎えに行ったとき、「今日はやっぱりつまんなかった」と言ったら。
それはそのまま受け止めて、「明日はAくん来るといいねえ」と、いっしょにAくんの回復を願おう。



こんなとき、Aくんひとりにこだわる息子を、情けなく思いそうになって、やめる。

親として、つい望んでしまう。
誰とでも仲良く元気に遊んでほしい。
コミュニケーション能力が高くて、社交的な明るい子。
そんな「理想」を求めそうになる。

でも、そんな子いるか?
そんな子である必要が、あるか?

誰とでも分け隔てなくかかわれるなんて、そんなこと、「お前」はできるのか?
わたしは、わたしすらできたことのない理想を、長男に押し付けようとしている。


そんなこと、できなくていい。
息子は、息子のままでいい。

A君としか遊べなくていいし、A君がいないだけで泣きそうになる。
それの、何がダメなのか。

たった一人、「心の支え」になる存在を見つけて、心底彼を信じている息子。
それだけで、じゅうぶんじゃないか。





夕方になり、長男を迎えに行った。
長男はいつものように、クラスから出てきて、いつもの顔して帰ってきた。

「‥今日は誰かと遊べた?」

なぜか、おそるおそる聞いてしまう。
長男は相変わらず無表情で黙っていたが、思い出したように、顔をあげた。

「今日はね、T子ちゃんと、S太君と、遊んだよ」

砂場もいっしょにしたし、給食もいっしょでね。
Aくんの代わりに、隣にYくんが座ってね__


そうか。そうかあ。
Aくんがいなかったけど、君は立派に今日一日を過ごしたんだね。
なんだか誇らしいような、ちょっぴり寂しいような気持ちになる。


わたしが思っているよりも、息子はずっとたくましかった。
わたしが思うよりも前向きで、うんと一人前だった。

息子の成長のそばには、Aくんがいる。


世界の中心は、いつもわたしで、そのすぐそばに息子はいたはずだった。
でも、気づけば息子が世界の中心に堂々と立ち、わたしのいないところで、誰かとつながり、自分で交友関係を広げている。

ああ、成長だ。
これが、子どもの成長。


わたしの手を離れて走る長男の背中を追いかけながら、ただ、Aくんに会いたかった。
「いつもありがとね」って言ったら、Aくん、どんな顔するかなあ。


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