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2023年公開のアニメ映画で特に好きな作品4つレビュー【アリスとテレス、コナン、ゲ謎、ポルプリ】

※全てネタバレがあります。ご注意ください。



アリスとテレスのまぼろし工場

好き嫌いは分かれる作風と思うが、私は大好物だった。傑作と言っていいと思う。刺さりすぎて劇場で5回見た。

とにかく登場人物が本当に生きているかのように生々しく、そのなまっぽい性格の造形に対しキャラデザも合っている。
製鉄所というとんでもなく描き込みが必要とされる舞台にも関わらず、背景美術もアニメーションも凄まじく力が入っている。流石MAPPA。

どちらかというとメインの正宗と睦実よりも、脇を固めるサブキャラクターたちが良い味を出していて好きだ。
大なり小なり誰もが青春時代に感じていた独特の痛みがそれぞれ抽出されていて、特に恋心を見世物にされた園部や世界の構造に気付き夢破れた仙波の絶望は生々しく、自分にも覚えがあると同調して苦しめるほどの痛々しさだった。
他にも、佐上衛の「突拍子もないことを言い続けているために人から話を聞いてもらえなかった男が、突然頼られるようになって調子に乗る様」や、「変人扱いされ友達がいなかったために、女からの承認より同性からの承認に飢えている」などの描写は、性格のバックボーンに説得力がありよく作り込まれているな、と感心してしまった。
生というものを臭いで表現しているのも好みだった。おまるにたまった五実の尿を正宗が片づけるシーン、初見時は衝撃だった。こんなシーン普通真正面から描くか…?と思ったが、のちのちその意味が回収される。

最大の魅力は、何と言っても岡田麿里監督の真骨頂と言える「女」という生き物の描き方。
その最たるものである睦実は、思春期特有の潔癖さと寂しさ、女としての貪欲さ、そして母としての優しさを兼ね備えたヒロインで、感情の起伏が激しい。言動に一貫性がないように見えて実はある。それに主人公である正宗はいちいち振り回される。これはなかなか男性作家には出せないのではないかと思える、「本物の女」っぷりが見事だった。
そんな彼女の魅力の全てが籠った圧巻のラストシーンは必見。

演技面もケチのつけようがない。特に睦実役の上田麗奈さん、当て書きだったという五実役の久野美咲さんの演技はすさまじいものがあった。

興行的には失敗に終わってしまっているが、少なくとも私は5回見に行くぐらいには刺さった。このまま埋もれさせるには惜しいのでぜひ見てほしい。配信も始まっている。


劇場版名探偵コナン 黒鉄の魚影

スピンオフシリーズである、「警察学校編」や「ゼロの日常」を追っていたファン向けでありつつ、初見のファンにもしっかりとコナンの魅力が伝わるように作られていた前作の「ハロウィンの花嫁」に負けず劣らない傑作だった。
100億の女、灰原哀。

今作では、黒の組織がコナン側の核心部分にかなり踏み込んでくる。
黒の組織、とりわけジンの兄貴は、映画では特にポンコツ扱いされがちである。というのも、黒の組織にあまり踏み込んだ行動をさせてしまうと、今後の本編に影響が出かねないため脚本上の取り扱いが難しいのだ。
しかし、これまでの組織映画にうっすらとあった「どうせなんだかんだ大したことにはならないだろう」というような茶番感が今作では極限までそぎ落とされており、黒の組織が本来持つ怖さが緊張感をもって描写されているのがとても良い。

また、今作は長年コナンシリーズを追っているファンへのご褒美映画でもあった。
一方、伏線や過去エピソードの散りばめ方がさりげなく、往年のファンでなければ楽しめないほど不親切な作りにはなっていない。
これまでの原作や映画で死んでいった幹部たち、歩美の言葉で変わった灰原、キールと父の悲劇、コナンと安室と赤井の絶妙なバランスで成り立つ協力関係、灰原と蘭の間にある複雑な感情、黒田と安室の関係、ラムさえも把握していないボスの所在、謎多きベルモットの行動、フサエブランドに隠された秘密、そして灰原からコナンへの恋心…などなど、古くからのファンであればあるほどそれらの集結したキャラクターたちの関係性の醸成に涙し、またついにボス編が始まろうとしている原作の謎解きのヒントになるのでは?と深読みできる要素が散りばめられている。
予告に出ていたFBIの面々だけでなく、映画から原作に逆輸入され、人気キャラに出世した公安の風見の出番まである。ここまでのお祭り映画になるとは誰が予想しただろうか。

謎解き要素が弱い点は気になるが、眠りの小五郎を久しぶりに劇場でやったのは個人的にポイントが高い。このシーンの劇伴が逆転裁判っぽくて好き。
犯人である今作オリジナルの幹部であるピンガはめちゃくちゃ人気が出たのだが、残念ながら死亡したことは原作サイドから明言されてしまったらしい。そりゃ生きてたらまずいよな…

そして本作、なんといっても終わり方が良い。コナンへの人口呼吸を、好意ゆえに「キス」だと思ってしまう灰原のいじらしさ。その叶う見込みのない愛の告白に涙しないコナンファンはいない。
しかし、コナンの蘭への一途さを知っているからこそ、最後に唇を蘭へ返す。灰原が蘭と亡き姉を重ね、そのまっすぐな性根へ好意を持ち始めているという前振りがあるからこそ効いてくる、青山原画の灰原と蘭のキスシーンという最後の最後の爆弾。客席がみんな驚いて口に手を当てていた。分かる。

こちらも声優陣の演技は申し分なく、ゲスト声優の沢村一樹さんもとてもお上手だった。特に村瀬歩さんの声優としてのスキルのとんでもなさをこれでもかと味わえる。あの衝撃はぜひ一度味わってほしい。


鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

2023年最後にやってきたダークホース。コナンと違ってこちらは原作はほとんど読んだことがないので、全く的外れなことを書いていたらご容赦いただきたい。

明確に犬神家の一族や獄門島を意識した導入で、陳腐といえば陳腐なのだが、それを見事に6期鬼太郎の「墓場鬼太郎の別ルートとしての水木青年」との関係性や、水木しげる先生の戦争経験からくる死生観や反戦メッセージと齟齬なく繋げており、脚本の完成度が非常に高い。
かなり裏設定が作り込まれているようで、直接説明せずとも、少しの描写で鑑賞者に「実はこうだったのではないか」と考察させたり予想させたりするのが上手い。しかし説明不足という印象も受けない。一度見てしまうとしばらくこの映画のことしか考えられなくなるし、何周も見たくなる魅力がある。

時代考証もとても丁寧で、制作陣が戦後当時の時勢をかなり詳しく調べ、学んで制作したのだと分かる。
特に、煙草の表現の秀逸さは素晴らしい。現代日本では副流煙が問題視され、子供がいる場所で煙草を吸うのはご法度だし、ましてやポイ捨て、公共の場所での喫煙は当然禁止されているわけなのだが、戦後、特に男性はみんな煙草を吸っていた。赤ん坊がいようが妊婦がいようがお構いなしだ。
それが、映画そのものの「弱者を踏みつけにする社会」の暗喩としていい仕事をしている。龍賀一族のやってきた、子供を犠牲にしてでも繁栄する日本の縮図と言っていい。
ゲゲ郎の言うように今の日本もみんな心貧しいけれども、少なくとも「未来ある子供に害をなす副流煙を吸わせてはいけない」と当然に考えられるようになった今の日本は、少しは前に進んだと言っていいのではないだろうか。

キャラクターの魅力もすこぶる高い。特にメインの水木青年、ゲゲ郎のバディが醸成されていく経過はやや唐突に感じるが、そうなるに足る描写はされていると思う。ブロマンス的な要素もあり、スタッフロールのゲゲ郎の心中を思うと切ない。
脇役の中では、個人的にはやはり沙代が好きだ。
種崎敦美さんの怪演もあり、伝説のヒロインとして語り継がれるポテンシャルを感じた。あまりにも不遇な境遇すぎて、水木と逃げて東京で幸せになってほしかったが、霊力が高まって「見える」ようになった水木と逃げて幸せになれたかは疑問だ。
似たような境遇だったであろう母に、自分は全てを知ってもなお愛してくれる男がいる、という点で女として見下されているのが一番キツかった。

キャラクターデザインも素晴らしい。水木や克典の着ているスーツは今時のほっそりした形のものではなく、当時の丸っこい、ずんぐりとした形になっていて、日本人が洋服に着られていた時代を感じさせる。
鬼太郎の本来のデザインに合わせてそこそこデフォルメがされており、見るからに美形!というキャラクターからは若干外してあるにも関わらず、ゲゲ郎にも水木にも匂い立つような色気があり、それが孤独だった男に心底愛する女性ができたことや、戦争によって地獄を見たことによる影によるものだと分かる。そこに傷、スーツ、煙草、着流しである。
総じて声音に色気とカリスマ性のあるベテランの声優陣の力も大きい。主演お二人はもちろん、脇役もとんでもなく豪華。皆口裕子さんや釘宮理恵さんがこういう役をやるようになるとは。


ポールプリンセス!!

プリティーシリーズなどのCGを手掛ける乙部善弘さんが企画したポールダンスアニメ。YoutubeにフルCGの前日話があり、そちらを見てから鑑賞しに行った。

劇場版ではYoutubeのアニメとは違い、序盤に手書きのアニメパートがあるのだが、そちらはストーリーとしては王道かつやや薄味には感じる。
しかし、本作の醍醐味はなんといってもポールダンスだ。とにかく乙部さんの手掛けるセルルックCGによるポールダンスパートが凄まじい。
タツノコプロのセルルックライブシーンは他社と一線を画す出来栄えと感じてはいたが、CGモデルで表現するのが難しいとされる関節や、スカートやマントといった布の動きが露骨に出るポールダンスという競技を全く違和感なく描き切っており、その技術力の高さに舌を巻く。

ポールダンスと言えばセクシーなお店で披露されるもの、という印象が強いが、それだけではない、とポールダンスそのもののイメージを捲ろうとしている気合を感じる。
初見では「これは本当に人間に可能な動きなのか?」と疑問に思ってしまうアクロバティックな動きを、なんとモーションキャプチャーで撮影してアニメに落とし込んでいるというのだ。公式で出ている比較動画を見ると、ダンスシーンがアニメの誇張表現ではなく、本当にダンサーがやっているのだと分かり驚いた。ユカリとサナのポールダンスは特にすごい。何であの中に入れるんだ。
ライバルチームであるエルダンジュのダンスシーンは、KING OF PRISMのようなイリュージョン的演出がされていて迫力があり、それが主人公チームとの実力差の裏付けになっているのも良い。「トリック」と呼ばれるポールダンスの技も、やはりライバルチームの方が難易度が高い技が使われているのだという。

こちらも声優陣がとても豪華。全員に撮りおろしの新曲があるため、声優ファンも間違いなく楽しめる作品になっている。個人的な推しは早見沙織さん演じるノア。

こちらはまだ上映中なのだが、前2作と比べ、上映館が極端に少なく、劇場まで足を運べる人が限られそうなのが残念だが、機会があればぜひ圧巻のダンスシーンを劇場で見てほしい。


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