室蘭旅行日記(二〇二四年八月十九日)その2
ペンギンプールのペンギンたちがペンギンロードを行進する時間になった。
ペンギンとアザラシのプールは屋外にある。
メリーゴーラウンドやコーヒーカップなどの大型遊具の合間を縫うように、緑のペンギンロードが設置されている。
炎天下なのでホースで水がまかれ、やがてヒーローたちが登場する。
選ばれし五羽のフンボルトペンギンたちがほぼ横一列になって行進する。
ハードルと迷路ですぐにバラバラになってしまうのだが、鳥類独特の無表情に迷いのないペタペタ歩き、不思議な貫禄があった。
おたる水族館でペンギンは言うことをきかないものという先入観があるので、促すとちゃんと歩くことに感動する。
東京でも登別でもちゃんと歩くペンギンは観ているのに、いちいち感心する。
刷り込みというものは恐ろしい。
親子はもちろん、中学生くらいのグループも見守っている。
コースに柵のようなものはないが、子供も含めて注意されているような人はいない。
全員マナーがいい。
この水族館のゆるやかな雰囲気は、お客さんのマナーの良さに支えられているのかもしれない。
次はアザラシの餌やり。
アザラシはゴマフアザラシとゼニガタアザラシ。
種類ではなく、雄と雌で二つのプールに分けられている。
雌チームのさつき(ゼニガタ)。
飼育員さんが黄色のケロヨン桶を水面に投げ入れると、彼女はすっと取りに行く。
鰭をつかってしっかり桶をホールドし、物欲しげに餌を持った飼育員のほうを見つめる。そして、桶をポコポコ叩いてアピールする。なんだこれかわいい。
アザラシのかわいらしさを一言で表現すると「大きな子犬」。
じっくり見ていると表情もしっかりあることがわかって、思いのほか飽きない。
飼育員さんは女性でハキハキ系の解説。マイクを使わず屋外でもよく声が通っていた。
ペンギンもアザラシもほんとによく餌(イカナゴ)を食べる。
私は暑さでへばっているというのに、炎天下でも元気いっぱいに餌をねだるアザラシたちを見ると安心する。
餌やりが終了して、今後は観覧車に乗ってみる。一回200円。安い。
誰も乗っていないときは止まっているが、電気代とか補修費とかちゃんと元は取れているんだろうか。
自分だけのために動かしてもらうのは忍びないので、他の子どもたちも乗っているタイミングを見計らって、余ったゴンドラに乗り込む。
観覧車自体の高さはないが、室蘭名物白鳥大橋が見えてくる。遠いので道路が心配になるほど薄く見える。
一通り楽しんで、いよいよ敷地の奥の方にある「つぶ焼き」に臨む。
素朴な建物。鉄網にきれいにつぶ貝が並べられている。
つぶ貝の網焼きは2個で1,000円。わりと現実に引き戻されるような金額だ。
観覧車なら5周分である。
それでも原材料高騰で苦労されているとネットの記事で読んだ。
つぶ貝のおでんもあった。5本で400円。
金銭感覚が揺さぶられる。こっちこそ1,000円でいいのではないか。
聞かなかったけど、クレジットカードは使えなさそうだ。
施設全体的に利用できなさそうなので、普段カードや電子マネーに慣れている人は、ちゃんと現金があるか確認してから行くのがおすすめだ。
それぞれ購入して休憩所で食べる。
まず、つぶ貝の網焼き
つぶ貝自体が大きく、歯ごたえもあり、熱々なので、一口で食べようとすると大変なことになる。
しかし貝独特の歯ごたえと旨味でとてもおいしい。名物と言われるだけのことはある。
おでんのほうは1本あたりの量は少なめで金額との兼ね合いに納得した。
違った味付けで、こちらもうまい。
なるほど、これらを食べるためだけにここに来る人がいるというのもわかる。
仮に水族館の全国大会のようなものがあって、北海道代表を決めるならば、それはおたる水族館になると思う。
しかし、何かの手違いでこの素朴な水族館が代表になったとしたら、文句を言うのではなく、全力で応援したいと思う程度には好きな場所になった。
休憩をしながら、この後の予定を考える。
このとき13時手前くらい。
海辺の宮越屋も気になるし、地球岬に行けるなら行ってみたい。
ただ、青春18きっぷは安い代わりに利用可能な便が多くない。
追加料金を払わないと帰れないという状況になっては本末転倒だ。
とりあえず、室蘭駅に戻るかと、水族館を出てバスに乗り込む。
地味にバス停の場所がわかりにくい。
いったん室蘭駅から離れていくほうのバス停に乗らなければいけない。
直前まで反対側のバス停で待ってしまい、危うく貴重な便を逃すところだった。
そのバスは室蘭駅にも行くが、地球岬団地というところが終点らしい。
そこは地球岬の最寄りのバス停である。
「じゃあいっか」と室蘭駅前を通り過ぎて40分ちょっとバスに揺られる。
バスを降りて地球岬に向かって歩く。
岬なので、かなりの上り坂だ。そして、意外と距離がある。
アプリを見ると2㎞近く。最寄りと言うほど最寄りではなかった。
加えて暑い。
どうして岬直通の交通機関がないんだろうと嘆きつつ、もう後には引けないので、汗だくになりながらノシノシ歩く。
幻覚でなければ、カラスアゲハを何度か見た。
何度目かのつづら折りを抜け、ようやく下調べの時に見たような展望台が見えてくる。
ヘロヘロのところに「大盛りのかき氷あるよ!!」と威勢のいいおばちゃんの声。
小さな売店が二店舗あって手前側の店員さんが声をかけてきたのだ。
手持ちのお茶を飲み切っていたので、とにもかくにも水分補給がしたい。
甘めの飲み物がほしい。冷蔵庫の中をのぞくが、ぴったりくるような飲み物がない。
さらにおばちゃんは「こっちでジュースつくろうか」と追撃してくる。
300円だそうだ。
正直、もっと奥のほうにある自動販売機は見えてた。
明らかにそちらのほうが安いし、たぶん量も多いのだが、勢いに飲まれてブルーハワイを注文してしまった。
繰り返すが暑かったのだ。
ジュースを一気に飲み干して、氷だけの紙コップを持ったまま展望台を上る。
観光案内のパンフの中に迷い込んでしまったかのような美しい海と空と灯台。
調子に乗って、鳴らすと幸せになりそうな鐘を鳴らす。
満足して展望台を降りる。今度は自販機でスポーツドリンクを購入。
まだ氷の残っている紙コップは、売店のおばちゃんに処理をお願いする。
さっきのバスを待ってもよかったが、ここでも「歩けない距離ではない」という気持ちが発動する。下りだし行けるだろう。
母恋駅を目指して歩く。読みは「ぼこいえき」だ。
しかし、このあたりで内股に塗ったワセリン効果が切れる。
内股が痛い。辛抱しつつ、1時間くらい歩いたと思う。
母恋駅に到着するが、次の列車の到着まで更に1時間以上ある。
腹は減ったが、近くに軽く食べられるような店はなさそうだ。
母恋と言えば、ぼこい飯という北寄貝を容器にした駅弁が有名だが、売ってそうなお店がない。
仕方がないので、ワセリンを塗りなおして、母恋駅から室蘭駅に向かう。
ここでも「歩けない距離ではない」だ。
室蘭駅前のお寿司屋さんで遅めのランチを食べる。
苦手な冷房でも今回ばかりはありがたい。
結果、水族館と地球岬に行くことができた。十分だろう。
夕方ごろに室蘭駅から列車に乗って、東室蘭、苫小牧、札幌に戻る。
明日の仕事に影響が出ないように今日は早めに寝よう。
ところが、苫小牧駅で乗り換えミスをしてしまい、札幌行ではなく、室蘭行に乗ってしまっていた。
白老駅で気づいて慌てて降りる。外は真っ暗で人はいない。
20時くらいだったと思う。
白老と言えば、ウポポイに行きたいとずっと思っていたが、当然営業していない。
近くにセブンイレブンがあったので、どこにでも売っているような揚げ鶏を食べつつ、次の列車を待つ。ただ待つ。もう何も考えたくない。
結局、日付が変わるか変わらないかというあたりで、札幌に到着。
最後の最後に大失敗してしまったが、室蘭に罪はない(当たり前だ)
まだまだ室蘭にはおもしろそうなものがたくさんありそうだ。
次に行ける機会を楽しみにしている。
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