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東京旅行一日目(二〇二四年五月二十二日)その2

東京モノレール羽田空港第1ターミナル駅。深夜の改札前。

東京の複雑な電車網に対応するため、交通系ICカードの登録は必須。
ここで生まれて初めてのSuicaである。

事前にモバイルSuicaのアプリはダウンロードしていた。
クレジットカードを使ってとりあえず1000円チャージした。

そのあとがわからない。

最終的な利用方法はわかっている。
スマホを改札機の読み取る部分にかざせばいいのだ。
他の人たちがやっているのを何度も見た。

ネットで利用方法を見てみると、そのままスマホを改札機に読み取らせばいいらしい。
だが、本当にそうなのか。何か見落としはないのか。

万が一、静まり返った改札口で、けたたましい警報音とともに改札機から脛ビンタをされるようなことになれば、初日から心がヘシ折られてしまう。
半年前から楽しみにしていた東京旅行である。
そんなリスクを負うことはできない。

自分でできることはやった。あとは人に聞くだけだ。

改札でヒマそうにしている駅員さんに話しかける。
初めてのSuica利用であること、画面を見せてここまでは進んでいること、このまま進んで大丈夫なのかということを伝える。
ここまで情報を開示しておけば、改札機に脛ビンタされたとしても、単に不慣れなんだなと思われるだけで、不審者扱いまではされないだろう。

真の意味で人事を尽くし、改札を通り抜ける。
軽い電子音とともに改札機の画面にSuicaの残高が表示される。
脛ビンタは起動せず。

「いけました!ありがとうございます!」という気持ちで駅員さんのほうを見たが、彼は全く私に関心がないようで、目も合わなかった。温度差が激しい。

大丈夫そうだったので東京モノレールに乗って浜松町へ。
暗く楽しめるような風景ではなかったが、水がちの街並みはたしかに東京っぽい。
山手線に乗り換えて日暮里へ。

一回で要領を得てしまい、二回目以降の改札は何の緊張感もなかった。
なるほど、世の中の人々はこんな便利なものを使っていたのか。

なんなら数分前の自分を、Suicaの使い方もわからない田舎者として馬鹿にするような気持ちまで芽生えている。
人間、謙虚さは失いたくないものである。

地図上ではそれなりに距離があるように見えた日暮里だが、体感ではあっという間だった。
気温は普通。札幌は肌寒いくらいだったが、こちらは普通。
心配していた湿気もそれほど感じない。すごしやすいと言っていい。

とは言え、すでに深夜12時を過ぎているので、早めに宿に到着したい。

途中、空いているスーパーがあった。マルマンストアだ。
自分の行動範囲にはないスーパーだ。
できれば、明日の朝に食べられるようなものを入手したかったが、自分にとってめぼしいものがなく、申し訳ないなと思いつつ、2リットルサイズの水だけ購入する。

東京ではスーパーを活用するつもりでいた。
その土地らしさを感じるなら、その土地のスーパーに行くのがいいのではないか。
TBSラジオ番組で放送していたスーパー総選挙を聴いてそう考えていた。

食事にあまりお金を使うつもりはなかったので、あらかじめ決めたお店以外は、このようなスーパーを中心に、富士そば、てんやなどの札幌にはないチェーン店で、旅行感を味わおうとしていた。

ホテルに到着する。ホテルと言っても簡易なカプセルホテルだ。
すでに深夜だが、受付スタッフは若い女性で、館内の説明をしてくれる。

なんとなく、自分がネガティブな気持ちになっている。
説明はしっかりしてくれるし、一目でわかるような問題はない。
しかし、築年数起因と思われる閉塞感のようなものを建物全体から感じる。
「ここで3泊もするのか…」というのがそのときの正直な感想だった。

ともあれ、今日は寝るだけだ。
靴を靴箱の指定の場所に入れて、カプセルルームに入る。
自分のブースは入口から見て一番手前だった。
上下二段になっていて自分は下段。
仕切りはカーテンのみ。
一般的なカーテンをそのまま小さくしたような感じで上部に隙間がある。
前を通る人が視線を向ければ、全部ではないにしろ、中が見えてもおかしくない。
自分は中年男性なのでそこまで気を遣うことはないが、できれば着替え中を見られたくないし、通りがかる人も視界に入れたくないだろう。

荷物を整理して、狭いブースの中で周囲の気配をさぐりながら着替える。
すでに結構な人数が宿泊中だったが、着替え中に通りかかる人はいなかった。
カプセル部分は木製で動くたびにギシギシきしむ音がする。

十分暖かかったので布団はつかわず、スマホの充電ケーブルをブースのコンセントに差し込む。
明日の予定を確認してイヤホンをする。
子守歌がわりにすでに何度も効いているYouTube番組を流す。
あとは寝るだけだ。

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