サンルーム

「やっと念願の自分の部屋が借りられるかも!」

私は期待に身を震わせながら受け取った鍵を握り締めた。白を基調としたマンションで年季と親しみを感じる外観だった。

「えーと...211号室は...」

階段から2階に上がり、開けた廊下に出た。
それぞれの部屋のドアに掲げられた号数を舐めるように確認してゆく。

「ここか!」

目に入った211号室のプレートには、「サンルーム」と記載してあった。
それぞれの部屋に、独自の部屋の名前が割り当てられている仕様らしかった。まるで旅館の客室のようだと感じた。
その壁一辺には211号室しかなかった。贅沢なつくりのようだった。

逸る気持ちを抑え、ドアノブに預かった鍵を差し込みドアを開けた。

ー白い。

ワンルームの部屋のなかは向いの大きな窓から射し込んだ陽のひかりで満ちていた。
まさしく「サンルーム」の名に相応しい部屋だった。

すごくいい空間だと思った。一目で気に入った。ここに住めるかもしれない。喜びの興奮で、頭にガーッと血がのぼるのを感じた。

ふと、ドアの外から若者数人が通りがかる大きな声が聞こえた。
ドアの方を振り返ると、ドアにブラインドのような、外の様子が見える小窓があることに気付き、外の若者に目を凝らした。ここに住む大学生のようだった。
小さく手を振ってみた。相手からこちらは見えないはずだが、そのタイミングで彼等はこちらを向いた。

窓の方へ向き直り、部屋のなかの調度品を検めることにした。
白い光に満ちた部屋にぴったりの、白い家具が多かった。単身者向けのマンションのため、家具はひととおり備え付けてあった。ふと棚に目をやると、妙な凹みがあることに気付いた。凹みの原因を探そうと、棚の上を見ると、数字が書かれたプラスチックのプレートが幾つも置いてあることに気付いた。そのまわりにある妙な染み。なにか見覚えがあるような…いやな汗が噴き出てきて、心臓が早鐘を打った。

ー現場検証のあと?

気付いたときには、踵を返して猛スピードで、鍵をかけることも忘れ部屋を出た。日当たり良好の物件。破格の家賃。自分単独での内見。それにしたってそのままなんてことあるか?足がもつれそうになりながらなんとか走ってできるだけ遠くに逃げようとする。視界の端にさきほどの若者たちが映った。まだこちらを見ていた。

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