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漢方の副作用

Evid Based Complement Alternat Med. 2019 Apr 15;2019:1643804.
PMID: 31118950

【イントロダクション】
■ 漢方薬は中国伝統医学に由来し, 日本に伝わってから独自の発展を遂げた日本の伝統医薬である.  現在, 一般用医薬品だけでなく, 医療用医薬品としても利用されている.  現在148の漢方エキス製剤と187種類の生薬が厚生労働省に承認され, 国民健康保険のもとで使用されている.

■漢方の処方は近年増加しており, 日本漢方生薬製剤協会が2011年に実施した調査によると, 医師の89.0%が日常の診療で漢方薬を処方していた. 

■ 慣習的に漢方薬は"穏やかな効果があり, 副作用はほとんどない"と考えられていた.  報告されている有名な副作用には, 甘草による偽性アルドステロン症, 麻黄による交感神経刺激作用, 附子によるブシ中毒などがあった. 

■ しかし, より深刻な副作用を伴う可能性があることが明らかになってきた.  近年, 漢方薬が肝障害や肺障害を引き起こす可能性があることが報告され, これらは黄芩の関連が強く疑われている.  さらに, 腸間膜静脈硬化症が山梔子の長期使用と関連していることが報告されている.
 
■ 日本では, 疑わしい原因薬剤は, 製薬会社, 担当医, または薬剤師がPMDAに報告する必要がある.  PMDAは2004年に設立され, ウェブサイトで医薬品安全性情報を提供している.  さらに, 厚生労働省のウェブサイトでは, 2003年7月30日以降, PMDAが調査した医療従事者の報告から得られた一般用医薬品および非医療用医薬品の副作用データ報告を, 約4ヶ月ごとに公開している. 

■ 下平らは, 2004年4月から2013年2月までの約9年間のPMDAの日本の有害事象報告(JADER)データベースを用いて, どの漢方がどのような副作用が起こりやすいかを調査した.  この報告では副作用のカテゴリーはJADERデータベースで使用されている分類に基づいており, 現場との副作用のカテゴライズが乖離していた. 

■ 本研究では, 約15年間の厚生労働省のウェブサイトの副作用データ報告を用いて, 現場でも役に立つよう解析した.

【方法】
■ 本研究では, 厚生労働省のウェブサイトに掲載されている副作用データ報告を分析した.  これらの報告は, 製造業者, 販売業者, 医療関係者などから得られ, PMDAが調査したものである.  報告には, 薬剤との因果関係が不明な事象や, 個々の薬剤との関連性が評価されていない事象が含まれている.  報告には, 疑わしい原因薬剤と関連する副作用の組み合わせとその件数が示されている.  1つの症例で複数の副作用や複数の疑わしい原因薬剤が関与している可能性があり, 情報の更新により1つの症例が複数の企業から複数回報告されている可能性がある.  したがって, 集計値の合計は実際の症例数を示すものではない.  また, 2004年4月から7月の副作用記録は厚生労働省のウェブサイトでは公開されていない点にも留意が必要である. 

■ 厚生労働省のウェブサイトで報告されている一般用医薬品の国内副作用データ報告(2003年7月30日〜2018年3月31日)を用いて, 一般用漢方処方に関連する報告された副作用を収集した.  次に, 肝障害, 肺障害, 偽アルドステロン症, 腸間膜静脈硬化症, 薬疹, その他に関連する事象にカテゴリー分けし, 経時的な変化を調査した.  さらに, 黄芩, 甘草, 山梔子, 麻黄を含む生薬と副作用のカテゴリーとの関係を分析した. 

【結果】
■ 副作用件数と経時的変化
▫️2003年7月30日から2018年3月31日までの漢方の副作用の総数は4,232件であった. 
▫️カテゴリー別の件数と割合は以下の通り:肝障害関連事象1,193件(28.2%), 肺障害関連事象1,177件(27.8%), 偽性アルドステロン症関連事象889件(21.0%), 腸間膜静脈硬化症関連事象223件(5.3%), 薬疹関連事象185件(4.4%), その他565件(13.3%). 

■ 年度ごとのカテゴリー別の副作用報告数の推移 

▫️ 全体的に年間の報告された副作用数は増加傾向にである.  特に, 腸間膜静脈硬化症関連事象の報告数は研究期間中に著しく増加した. 

■ 個々の漢方薬で副作用の報告件数
芍薬甘草湯(502件), 防風通聖散(321件), 柴苓湯(305件), 抑肝散(275件), 黄連解毒湯(144件), 柴胡加竜骨牡蠣湯(134件), 葛根湯(128件), 半夏瀉心湯(118件), 大建中湯(116件), 乙字湯(113件), 六君子湯(107件), 補中益気湯(106件), 加味逍遙散(97件), 小柴胡湯(93件), 麦門冬湯(77件), 清心蓮子飲(77件), 辛夷清肺湯(75件), 柴朴湯(69件), 柴胡桂枝乾姜湯(68件), 小青竜湯(65件). 

■ 肝障害
▫️ 報告された肝障害関連は, 肝機能異常(467件), 肝障害(325件), 薬剤性肝障害(205件), 黄疸(65件), 急性肝炎(57件), 肝炎(23件), 劇症肝炎(15件)などがあった. 

▫️ 関連した漢方は以下の通り. 

▫️報告件数の多い順に, これらの処方は防風通聖散(177件), 柴苓湯(113件), 柴胡加竜骨牡蠣湯(72件), 大建中湯(45件), 黄連解毒湯(44件), 半夏瀉心湯(42件), 乙字湯(38件), 柴胡桂枝乾姜湯(38件), 柴朴湯(36件), 葛根湯(33件)であった.  これらのトップ10の処方のうち8つ(大建中湯と葛根湯を除く)は黄芩を含有している. 

▫️肝障害関連の報告1,193件のうち, 801件(67.1%)が黄芩含有の漢方処方による誘発が疑われた. 

▫️日本肝臓学会が1997年から2006年の間に発生した薬剤性肝障害1,676例を分析したところ, 879例で原因薬剤が単一の薬剤に絞り込まれ, そのうちの7.1%が漢方薬であった.  さらに, 黄芩含有の漢方処方による肝障害の症例報告が多数ある. チャレンジテストは薬剤性肝障害の決定的な原因診断を提供する.  黄芩含有の漢方処方を原因薬としてチャレンジした結果, 肝障害が再発した症例がある.  一般的に, リスクを伴うためチャレンジテストは推奨されない.  いわゆる「意図しないチャレンジテスト」が偶発的に行われた症例も報告されている. 

▫️ 再投与により短期間で肝障害が再発しているため, 黄芩による肝障害には免疫アレルギー機序の関与が示唆されている. 

▫️ 漢方薬による肝障害の発生率に関して, 黄芩含有の漢方処方を投与された1,328人の患者のうち13人(1.0%)に肝障害が発生したと報告されている. 

■ 肺障害
▫️ 報告された肺障害関連の副作用には, 間質性肺疾患(852件), 肺障害(133件), 肺炎(114件), 好酸球性肺炎(22件), 呼吸困難(17件)などがあった. 

▫️肺障害に関連すると疑われる漢方薬. 

▫️報告件数の多い順に, これらの処方は柴苓湯(142件), 防風通聖散(108件), 乙字湯(65件), 半夏瀉心湯(62件), 小柴胡湯(56件), 清心蓮子飲(50件), 柴胡加竜骨牡蠣湯(46件), 芍薬甘草湯(32件), 黄連解毒湯(31件), 柴朴湯(29件), 牛車腎気丸(29件)であった. 

▫️これらのトップ11の処方のうち9つ(芍薬甘草湯と牛車腎気丸を除く)は黄芩を含有している.  肺障害関連の報告1,177件のうち, 818件(69.5%)が黄芩含有の漢方処方による誘発が疑われた. 

▫️ある研究では, 2004年から2009年の間に, 薬剤性間質性肺疾患の疑いのある7,598例のうち233例(3.1%)が漢方薬によるものと報告されている.  間質性肺炎を引き起こした漢方処方のいくつかは黄芩を含有している.  実際, 黄芩含有の漢方処方や黄芩単独をチャレンジした結果, 間質性肺炎を繰り返し誘発したという症例報告がある.  黄芩と間質性肺炎との因果関係は不明である.

▫️ある研究では, 黄芩含有の処方による間質性肺炎の臨床経過の改善とともに末梢の可溶性インターロイキン-2レセプターレベルが低下したと報告されており,  これは免疫アレルギー機序の関与を示唆している. 

▫️最近の10年間の後ろ向き研究で我々は, 漢方処方を投与された患者の間質性肺炎の発生率は0.08%(3/3590), 黄芩含有の漢方処方を投与された患者では0.27%(3/1111)であったと報告した.
 
■ 偽性アルドステロン症
▫️ 偽性アルドステロン症は甘草によって誘発される.  甘草が経口摄取されると, グリチルリチンの糖部分は親水性が高度であるため, 消化管上皮をわずかにしか通過しない.  グリチルリチンは大腸内の腸内細菌によってグリチルリチンからグリチルレチン酸に変換され, 糖部分が加水分解された後, グリチルレチン酸として吸収される.  グリチルレチン酸が腎尿細管細胞の11β-HSD2を阻害し, その結果偽性アルドステロン症になる.

▫️甘草含有の漢方薬, 生薬製品, またはグリチルリチンの過剰投与または長期投与は, しばしば末梢性浮腫, 低カリウム血症, 高血圧などの症状を伴う偽性アルドステロン症を引き起こす.  さらに, 偽性アルドステロン症に伴う低カリウム血症の結果として, ミオパチーや横紋筋融解症, 心臓の障害(心不全や不整脈など), あるいはブドウ糖不耐性が生じる. 

▫️また,偽性アルドステロン症ではコルチゾールからコルチゾンへの代謝が阻害され, 血清コルチゾール値が上昇する可能性がある. 

▫️そこで本研究では, 筋損傷関連(ミオパチー, 横紋筋融解症), 心臓障害関連(心不全, 不整脈), 内分泌障害(血中コルチゾール増加), 糖代謝障害(高血糖)に関連する報告された副作用を偽性アルドステロン症関連の副作用としてカテゴリー分類した. 

▫️合計889件の報告された副作用が偽性アルドステロン症関連事象としてカテゴリー分類された.  報告された偽性アルドステロン症関連の副作用には, 低カリウム血症(291件), 偽性アルドステロン症(217件), 横紋筋融解症(104件), ミオパチー(32件), Torsades de pointes(19件), 心不全(18件), うっ血性心不全(16件), 血中CK上昇(14件), 心室頻拍(14件), 心室細動(14件), 末梢性浮腫(12件), QT延長(12件)などがあった. これらはさらに詳細なカテゴリーに分類され, 偽性アルドステロン症(217件), 高血圧関連事象(13件), 浮腫関連事象(25件), 電解質異常関連事象(308件), ミオパチー関連事象(176件), 心不全関連事象(46件), 不整脈関連事象(95件), その他(9件)であった. 

▫️ 偽性アルドステロン症に関連すると疑われる漢方.


▫️報告件数の多い順に, これらの処方は芍薬甘草湯(397件), 抑肝散(171件), 補中益気湯(43件), 葛根湯(36件), 六君子湯(24件), 麦門冬湯(18件), 大黄甘草湯(15件), 加味逍遙散(14件), 十全大補湯(12件), 柴苓湯(12件)であった. 

▫️ 日本では, 148の一般用漢方エキス製剤のうち109に甘草が含まれている.  甘草の含有量によって(例えば, 甘草2.5g/日以上または未満), 添付文書には異なる注意事項が記載されている.  一般用漢方エキス製剤の芍薬甘草湯は多量の甘草(6g/日)を含有しており, 筋痙攣の治療にしばしば用いられる.  抑肝散は甘草をそれほど多く含有していないが(1.5g/日), 近年, 日本では認知症の行動・心理症状の治療に広く使用されている.  漢方処方に関連する偽性アルドステロン症の発生は, 使用頻度と甘草含有量の両方に強く依存していると考えられる. 

■ 腸間膜静脈硬化症
▫️ 報告された腸間膜静脈硬化症関連の副作用には, 腸間膜静脈硬化症(119件), 特発性腸間膜静脈硬化症(47件), 大腸炎(14件), 静脈硬化症(9件), 虚血性大腸炎(6件), イレウス(6件), 消化管穿孔(5件), 腹膜炎(5件), 腸閉塞(3件), 結腸穿孔(3件), 腹痛(3件)などがあった.

▫️腸間膜静脈硬化症に関連すると疑われる漢方.


▫️ 報告件数の多い順に, 黄連解毒湯(57件), 加味逍遙散(54件), 茵蔯蒿湯(29件), 辛夷清肺湯(13件), 柴朴茯苓湯(8件), 加味帰脾湯(7件), 防風通聖散(5件), 大建中湯(5件), 桂枝茯苓丸(4件), 補中益気湯(4件)であった.  これらのトップ10の処方のうち7つ(大建中湯, 桂枝茯苓丸, 補中益気湯を除く)は山梔子を含有している.  223件の全事象のうち, 181件(81.2%)が山梔子含有の漢方処方による誘発が疑われた.
 
▫️ 腸間膜静脈硬化症は比較的新しい疾患概念であり, 静脈硬化性大腸炎とも呼ばれる.  昔は原因不明で特発性とされていたが, 近年は山梔子が原因の可能性として注目されており, 報告された漢方薬関連の腸間膜静脈硬化症の多くは山梔子を長期間投与していた.

▫️日本では, 2013年に黄連解毒湯, 加味逍遙散, 辛夷清肺湯の添付文書に腸間膜静脈硬化症に関する注意喚起が実施された.  また, 2014年には茵チン蒿湯, 2018年には山梔子を含む漢方薬と生薬に腸間膜静脈硬化症に関する注意喚起が行われた. 
「山梔子を含有する製剤の長期投与(通常5年以上)により, 大腸に異常な色調, 浮腫, びらん, 潰瘍, 狭窄を伴う腸間膜静脈硬化症を発症する可能性がある.  長期投与の場合には, 定期的なCT検査, 大腸内視鏡検査などを行うことが望ましい.  」また, 副作用に関して, 「長期投与により腸間膜静脈硬化症を起こすことがある.  腹痛, 下痢, 便秘, 腹部膨満感などが繰り返し出現したり, 便潜血反応陽性になった場合には, 投与を中止し, CT検査, 大腸内視鏡検査などの検査を実施し, 適切な処置を行うこと.  腸切除術を行った症例も報告されている.  」

▫️腹部X線やCT検査で,右側結腸周囲に点状または線状の石灰化が認められる.  大腸粘膜の青黒色, 青灰色, 暗紫色, 青銅色などの色調変化は特徴的な所見である.  進行した腸間膜静脈硬化症の症例では, 内視鏡検査で浮腫, 潰瘍形成, 硬化, 狭窄なども観察される.  また, 腸間膜静脈硬化症が慢性虚血性大腸炎に移行したとの報告もある. 

▫️腸間膜静脈硬化症に大腸癌が併発した症例も複数報告されている.  しかし, 大腸癌と腸間膜静脈硬化症の因果関係は不明であり, 現時点では偶発的な併発と考えられている.  そのため, 本研究では大腸癌を腸間膜静脈硬化症に関連する副作用としては含めなかった. 

■ 薬疹
▫️報告された薬疹は, 薬疹(62件), 多形紅斑(23件), スティーブンス・ジョンソン症候群(20件), 全身性皮疹(19件), 発疹(15件)などがあった. 


▫️原因漢方は以下の通り. 


▫️ 報告件数の多い順に, 葛根湯(26件), 小青竜湯(14件), 麻黄湯(11件), 麻黄附子細辛湯(9件), 麦門冬湯(8件), 大建中湯(8件), 牛車腎気丸(7件), 六君子湯(6件), 八味地黄丸(5件), 柴胡桂枝湯(5件), 芍薬甘草湯(5件), 小柴胡湯加桔梗石膏(5件), 柴苓湯(5件)であった. 

▫️上位4つの処方はマオウを含有している.  報告された185件の副作用のうち, 63件(34.1%)がマオウ含有の漢方処方による誘発が疑われた.  薬疹の原因はマオウやエフェドリンアルカロイドであると考えられる症例がいくつか報告されている.  一方, 上位18の処方のうち6つは黄芩を含有しており, 報告された185件の副作用のうち33件(17.8%)が黄芩含有の漢方処方による誘発が疑われた. 

■ その他の副作用
▫️アナフィラキシーに関連する報告された副作用は27件あり, アナフィラキシーショック(14件), アナフィラキシー反応(9件), アナフィラキシー様反応(4件)が含まれていた.  報告件数の多い順に, 葛根湯(3件), 小青竜湯(2件), 加味逍遙散(2件), 芍薬甘草湯(2件), 小柴胡湯加桔梗石膏(2件)であった.  これら27件の報告のうち, 8件(29.6%)がマオウ含有の漢方処方, 6件(22.2%)が黄芩含有の漢方処方による誘発が疑われた. 

▫️ アレルギー性膀胱炎に関連する報告された副作用は13件あり, 膀胱炎(7件), アレルギー性膀胱炎(4件), 好酸球性膀胱炎(2件)が含まれていた.  報告件数の多い順に, 小柴胡湯(4件), 柴朴湯(2件)であった.  報告された13件の副作用のうち12件(92.3%)が黄芩含有の漢方処方による誘発が疑われた.  黄芩含有の漢方処方によると考えられる薬剤性膀胱炎の報告がいくつかある. 

▫️ マオウの交感神経刺激作用によると考えられる報告された副作用は6件あり, 尿閉(4件), 心拍数増加(1件), 多汗(1件)が含まれていた.  原因漢方は, 小青竜湯(3件), 麻黄附子細辛湯(2件), 呉茱萸湯(1件)であった. 

▫️附子によるブシ中毒と考えられる報告された副作用は2件あり, 口腔内違和感(1件), II度房室ブロック(1件)が含まれていた.  原因漢方は麻黄附子細辛湯(2件)であった. 

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