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臨床推論 Case50

Psychosomatics. 2013 Sep-Oct;54(5):493-7.
PMID:23352283

【症例】
70歳 男性

【入院理由】
うつ

【現病歴/現症】
⚫︎ 過去に4回に精神科病院に入院歴のある方
⚫︎ 今回の入院前は悲観的で無力で失禁を起こし、飲まず食わず、3ヶ月も鬱状態であったため入院となった
⚫︎ 薬はベンラファキシン225mgに変更となったが改善なし
⚫︎ カルシウムは正常範囲内の高めであった
⚫︎ 電気けいれん療法でやや改善して退院された

⚫︎ この入院中に前立腺肥大症による尿閉になり外科を受診していた
⚫︎ その際にPTHを測定されわずかに上限高値であった
     9.3pmol/L(正常1.1-7.5 *普段の測定値の単位が違います)

⚫︎ 3ヶ月後に鬱状態になり再度入院された
⚫︎ 脱水となっていたがカルシウムは正常範囲であった
⚫︎ PTHは8.6pmol/Lと上昇していた

⚫︎ その後退院されてからの精査でシンチグラムを実施し2つの副甲状腺腫を認めた
⚫︎ 副甲状腺摘出術を施行された
⚫︎ 術後数日で鬱状態は改善し、3年間うつの再発なし
⚫︎ 組織は腺腫と過形成であった

What’s your diagnosis ?







【診断】
正Ca血症性副甲状腺機能亢進症による鬱病

【考察】
⚫︎ うつ病は副甲状腺機能亢進症と関連する
⚫︎ 不安、精神症状、認知機能障害など他の精神神経障害とも関連する
⚫︎ 75歳以上の副甲状腺機能亢進症30人で精神症状は73%で認め、錯乱30%、鬱27%であった

⚫︎ メカニズムははっきりしないがカルシウムとの関連性は指摘されている
⚫︎ Caの値と精神症状の重症度が相関性があるという意見あり
⚫︎ しかしこれは否定的な意見もある

⚫︎ またPTH値が精神症状に関連するかどうかも意見が分かれている
⚫︎ Bargren先生の229人のpHPT患者の報告
・軽度の高Ca患者は高度高Ca患者と比較して抑うつ、筋骨格系症状、便秘が有意に多かった
・しかしPTHiとうつ病を含む症状との相関性は認めず
⚫︎ Roman先生の212人の副甲状腺摘出術を受けた患者の報告
・気分障害、不安障害の改善度合いはPTH低下度合いと相関していた
⚫︎ うつ患者のPTHはnonうつ患者よりも高値であるとの報告もあり

⚫︎ 霊長類の脳に発現しているPTH受容体は不安や恐怖などの調整に関していることを示唆する部位が見つかっている
⚫︎ しかしPTH高値=うつになるわけではなく、PTH上昇に敏感な患者が一定数いて、その人たちが鬱になるのかもしれない
⚫︎ またビタミンD低値がうつと関連している可能性もあり

⚫︎ 無症状副甲状腺機能亢進症患者の手術をしたところ、体の痛み、精力、不安などが改善した報告もあり
⚫︎ 長い間うつ病に苦しんでいた患者が副甲状腺手術を受けた後、すぐに症状が軽快した報告は多数あり
⚫︎ 治療抵抗性のうつ病患者は適切な生化学検査および副甲状腺機能のチェックを受けるべきである

⚫︎日本人の副甲状腺機能亢進症3例の報告 Caは軽度上昇のみ
(Endocr J. 2007 Jun;54(3):379-83.)

・術前術後の変化

・症状の変化


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