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ざしきわらしと遠野で出会う

その女の子は、六、七歳ぐらいに見えた。
黄色い着物を着て
髪は肩よりも長く、真っ直ぐで
目は笑ってはいなかった……。

11月初旬、岩手の遠野を訪れた。オシラサマ、ウネドリサマ、カッパ、ヤマノカミなど、遠野郷にはさまざまな物語があり、ザシキワラシもその一つ。村人が橋のほとりで童女二人と出会い、「お前たちはどこから来た?」と問えば、「山口の孫左衛門のところから来た」と答える。それを聞いた村人は、「さては孫左衛門の世も末だな」と思う件は、柳田國男の「遠野物語」の中でも印象的な話だ。ザシキワラシが出ていった家は没落し、住み憑いた家は繁栄する。そして、遠野にはザシキワラシが住む宿もあるという。

宿に着いたのは、日暮れ過ぎ。11月の遠野郷の夜は早い。その日の宿泊客は、私一人。築100年を超える宿の居間は、3つの和室が繋がっており、囲炉裏もある。宿主が夕食を整えてくれたので、居間の真ん中でいただく。遠野の郷土の味といえば、ジンギスカン。どこか洋風な響きがするこの料理が、遠野郷の雰囲気に似つかわしくないと感じるのは、ジンギスカンに北海道のイメージを抱いているせいだろうか。

ジンギスカンをいただきながら、居間の隅にふと目をやる。そこに、先の女の子が、いた。こちらを見ていないようだ。食事のことは置いておき、近づいてみる。
女の子の前に立ち、凝視する。江戸時代、いや、もっと昔の子どもだろうか。その子の一番の特徴は、目。目が赤い。目と目が合う。その子の目から視線が離せなくなるほど、特徴的な目をしている。手にはいくつか鈴を下げている。女の子に表情はなかった……。

食事をしながら、宿の主人に、女の子のことを尋ねてみた。その子は、早池峰から来たという。早池峰とは、遠野郷の北にある、北上山地の最高峰だ。この山の麓には早池峰神社があり、そこにザシキワラシの伝説があることは、以前、なにかの記事で見かけたことがあった。早池峰のザシキワラシを望む人は多いそうだが、一年間に10体しか、ザシキワラシは生まれないという。この宿の主人は、大切に、ザシキワラシ人形を祀っていた。

翌日、早池峰神社を訪れてみた。杉や桧の大木が生い茂る境内には、人影はない。
時代を感じさせる社で、手を合わせる。賽銭箱の右に、おみくじが入った箱を見つけ、引いてみた。

第五一番 吉
たいへん威勢のいい運勢です。また新しい事が始まる気配があります。この時期計画さえしっかりしていればたいていの事は成功します。

ザシキワラシからの有り難い言葉を頂き、神社を後にした。
                                  おわり

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