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どこに行こうか迷ったら東京から船に乗れ〜八丈島で牛になる

どっか行きたいなー。いつもとちょっと違う景色が見たいなー。行ったことないところがいいなー。と、いうときは、東京・竹芝桟橋から船に乗って、伊豆諸島に行ってみるのはいかがですか。今回は年末年始に八丈島に行ったときのお話です。

八丈島行きの橘丸

八丈島には八丈富士と三原山という二つの山があり、その間に町があります。ひょうたん型?みたいな形の島です。

真ん中の細長い四角は八丈島空港です。飛行機でも船でも行けます。

八丈島のシンボルといえば八丈富士(854.3m)。この山に登ってみたいと思いました。が、あいにくの雨。でも登ろうと思って早朝、車で出発しました。ちなみに晴れているときはこんな感じです。

八丈富士

八丈富士は7合目まで車で登れます。そこから歩いて山頂までいくと、ぽっかりと火口が開いていてぐるっと歩いてお鉢巡りができるらしい。しかし、この日は雨。風も強い。寒い。八丈富士には、空港近くから道が伸びています。車を走らせると霧が濃くなる、雨が強くなる。灰色の世界。舗装された道路をとりあえず進みます。どんどん登っていたなと思ったら、道が少し平坦になりました。前が見えにくいので、スピードを落とします。やがて、道の右側にふもとに降りる道路がある分岐に差し掛かりました。通り過ぎて走ります。すると、道端に牛が一頭現れました。寒そうです。

さらに走るとふれあい牧場の看板が見えました。さっきの牛は脱走牛でしょうか。まわりは牧場が広がっているのかもしれないけど、雲か霧かで視界が悪くて何も見えません。さらに走ると左側に登山入口の立札があり細い道があります。ここからも山頂に行けるようですが、駐車場らしきものはありません。駐車場はどこだろう……。

さらに走ると右手にふもとに降りる道が見えます。さらに走ります。何もありません。さらに走ります。また、右手にふもとに降りる道。通り過ぎて走ります。すると道端に牛がまた一頭います。八丈富士に暮らす牛は早起きです。

さらに走るとふれあい牧場の看板が見えます。あれ、さっきこの看板見なかったっけ?さらに走ると左側に登山入口の立札。さらに走る右側にふもとに降りる道。途中霧が濃くなり視界がめちゃめちゃ悪くなってきました。すれ違う車はありません。なんか異世界に迷い込んだみたい。さらに走る。何もない。しばらく走ると右手にふもとに降りる道。さらに走る。牛はいない。さらに走る。ふれあい牧場の看板。さらに走る。登山入口の看板とふもとに降りる道。さらに走って気づいた。

さっきから同じ道を走っているんじゃないか……。車を止める。外に出た。灰色の世界で、なにも見えません。ふと、「ねえ、さっきから私たち同じ道を走っているんじゃない?」という怪談話でおなじみのセリフが頭の中に聞こえてきました。急に怖くなる。ちなみに車にカーナビはなくて、スマホホルダーがついていて、スマホで地図を見てください、というタイプ。スマホで地図を見ても、山を示す緑色だけで道は表示されていないのです。

しかたなくまた少し走る。ふれあい牧場の看板の前に車が一台止まっています。私も思わず止まります。車がこちらに近づいてくる。窓が開く。「何をしているんだ」とおじさんが声をかける。牧場の人のよう。

「ここはな、生きた人間が来るところじゃないんだ。ここに迷い込んだ人間はお山に吸い込まれる。特に荒天の日は山の神様が怒っているときだけぇ、絶対来ちゃいけね。山に入った者が忽然と消えることは八丈島でときどきある。さっき道に牛を見たろ。あれは荒天の日に山に入った者の化身だ。お前もやがてそうなるんだよ」そう言って車で立ち去ってしまいました。霧は濃く、さらに雨が強い。

……なんて、おじさんはそんなこと言ってなくて、この道は山の7合目をぐるっと回る環状道路で、そのことを知らず、時々、自分のように何周もする輩がいるそうです。自分は3周ぐらいしました。おじさんは牛を捕まえに行くと言いました。さっきの牛は脱走牛みたいです。「さっさと帰れよ」、呆れた表情をしておじさんは行ってしまいました。

ここにいてもしょうがないので登山はあきらめて、ふもとにおりました。島のスーパーのそばに小さなカフェがあって、島の乳牛のミルクを使ったスイーツが食べられます。私は島野菜のあした葉入りのパフェを食べました。

パフェを食べながら、牛にならなくてよかったと思いました。
つづく

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